8.ハジメマシテは社会人の常識
『……………………。』
ニコニコニコニコ。
『………………………………。』
ニコニコニコニコニコニコ。
『………………………………………アイギス。』
『んーー?』
『報告しろ。』
駐屯地直前のあわや卵が死にかけに大慌て、青息吐息だった事もけろりと忘れ、今や孫を眺める祖父のような…鼻の下のびのびのアイギスはすっかり当初の目的を失念していた。
……というか、最早腕に抱いた最強に可愛らしい卵の中身に夢中で任務など宇宙の彼方に吹き飛んでいた。
………………………………………アイギス。』
バタバタと天幕を捲って走り込んで来た、と思ったらコレである。
『見ろよ!このクソカワイイの!!!』
何かわからないが、星詠みの言から落下物の偵察に向かった先で拾ったのであろう生き物を掲げ、得意げなアイギスに嘆息するラグザ。
『(ハァ、)で?』
『ハハ、もう卵の外だぞー?手ぇちっちぇなぁ。んー?よしよし、おっちゃんがちゃんと育ててやるからな!』
……目の前で育児モードが入った部下に手の中の生き物の正体を誰何も出来ず、生き物の可愛さについての惚気を垂れ流されて…かれこれ四半刻。
『報告を、しろ。』
『!あ、スマン。』
かなりの威圧を込めてやっと正気(?)を取り戻したようで…
『こいつな、ヨグが言ってた降ってきたヤツ。』
『は?』
『いや~確かに幾ら当世一の星詠みでも流石にコレは詠みきれなかったんだろ!見ろよこのまるっこさ!ほら、まだ寝てるんだけどよ、ん?足動かしてどうした?』
…やはり正気ではなかった…
(そも、まるっこさ、は、星詠みに関係あるのか?…)
軽く告げられた情報に、危うくスルーする所であったが、落下物が、「それ」、という点に気がつきそれに目をやるラグザ。
『!まて、まさかそれが落下物か。』
一方のアイギスはそんなラグザの問いも耳を素通りし、目の前で頻りと小さな手足をぱたつかせている生き物をかまいたおしているのだ。
『ハハハ!おっちゃんの指は食いモンじゃねぇよ!お、ぉ!どした?』
故に…
「降ってきたものは生き物だった(但し詳細は不明)」という曖昧模糊な情報しか齎されず。
(…………いったい何をしに来たのだアイギスは)
部下の騎獣狂いを再認識しただけであった。
※※※※※※※※※※
…………は食いモンじゃねぇよ!お、ぉ!どした?』
(?)
『そうか~寝づらいんだな?よしよし、こうして…いや、こっちのほうがいいか?』
ふわりと体が持ち上がる感覚と何か暖かいものに撫で回されている気がする…
『そういや、ヨグが生命の揺籃に入れてやれって言ってたな!』
?まなぽっど?………
それはいったいなんだろう?
『そうだよな~おまえ、空からの落下で疲れたんだよな?おっちゃんと一緒に生命の揺籃で休もうな!』
……?え、まて、何故同衾するのだ?この人なに言って――
『(!!!?)ぱるるぅ!!!?』
ハッと覚醒する意識。
開かれた視界に映るのは三度寝前の閉鎖的な空間ではなく…
『………………。』
『!』
RPGに出てきそうな…不思議な様式の家具のようなものと恐らく簡易の寝台、そして――
『るぅるぅ、るー!!(お、ぉぉ、おっきな…)ぱぱるぅ(ひ、人?)?』
波瑠を軽々と抱き上げる巨人と、それを上回る上背の(何故か)困惑顔の巨人に見つめられていたのだ。
『ぱるぱるぅ(え、どちら様?)?』
『目が…醒めたようだな…。』
『…………………。』
『?どうし…『おぉぉぉぉぉ!!』………おい…
『おっちゃんがわかるか!!おまえの親だぞ!!』
『ぅぱぱる?(は?パパ?!)』
『そうだ!ほらパパだぞ~。』
『るるぅー、ぱぱぅるぅ(いや、パパって。)』
『わかるか?!いいこだ!おめめぱっちりだな!!将来は美人さんだなぁ!!』
『ぱるぅ、ぱるぱっ(ちょっ、距離ちかっ!?)』
ごりごりと頬擦りされ、抱っこ体勢からの急な抱え上げ――
『!!おい!!』
『ぱーるぅー(やーめー(泣))』
『ハハハハハハ!!』
結果――
『ぱるぅ、るぅるぅるぅるぅ(うぅ…もうお嫁に行けない…)』
お空に虹をかけてしまい…
『………すまぬ。無事、ではないな…』
『うぅるぅ、ぱるぅ、ぱるぅ(か、忝ない(?)です…)』
騎獣マニアの手から救出された。