表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/37

37.叔父様が地獄の釜の蓋を開けちゃった。



『野蛮ですわね。本当に見苦しい』


奥の宮の入り口から聞こえたその声に、ピタリと動きを止めた燬皓(きこう)


『何をその様に喚き散らしているのでしょう。やはり、あの女の身内。何と品のないこと……』


先ほどまで臨戦態勢に入っていた燬皓(きこう)を嘲るように、奥の宮の入り口に立った人物が口を開く。


()()()南の蛮族風情が、この煬帝城に入り込んでいる事さえ不快ですのに、醜い声で喚き散らすなんて…』


玉婷(ぎょくてい)殿…………』


宮に居る誰かが玉婷(ぎょくてい)と呼んだ…きつい顔立ちに派手な色の紅を引き、華やかな裳を重ねた女は気に留めず更に続ける。


『傍迷惑な事をせず、早くあの女の遺骸でもなんでも持ち帰ればよいでしょうに。』

『…!貴様…姉様を、我等を侮辱するか…』


高飛車にいい放つ女に、青筋を浮かべて詰め寄ろうとする燬皓(きこう)


『止めよ玉婷(ぎょくてい)総灯(そうび)は我が伴侶ぞ。亡骸は祖霊の廟に、殯宮(もがりのみや)に納める。それに……城より消えた我が子を探さねばならぬ…』


籟暭(らいごう)燬皓(きこう)を目線で制するように見やり、行方が知れない子の捜索を告げるも、玉婷(ぎょくてい)が信じられない言葉を返してきたのだ。


『何をおっしゃいますの御方様?そのような子など探されずとも()()()()()()()()。』

『!?』

『なっ!』


さらりと何でもない事のように告げられた内容に凍りつく空気。


その場に居る者が固唾を呑んで玉婷(ぎょくてい)の方を見る。


玉婷(ぎょくてい)はそんな周囲の目など気にならないようで、続け様に有り得ない事を堂々と告げた。


『あの様な者の子など居らぬでも、御方様には優秀な跡継ぎが、我が子煌藍(こうらん)がいるのです。あの女が生んだ()()()()()など、御方様に、籟暭(らいごう)様には無用の長物。()()()()()()()()()からには今頃冥府に渡ったあの女の元におりましてよ。』


さも嬉しげに、子を投げ捨てたという玉婷(ぎょくてい)に流石の籟暭(らいごう)も目を剥いた。


『!!玉婷(ぎょくてい)、其方この籟暭(らいごう)の子を…我が最愛との愛し子を捨てたと、天涯から投げたと言うか!!!』

『えぇ!御方様。貴方様の正統な御子は煌藍(こうらん)のみ。フフフ、あの様な出来損ないは塵芥と同じ。不要なものを片付けただけですわ!』


哄笑しながら当たり前の事をした、自分こそが正しいと言うその傲岸な態度が…一度は治まりかけた燬皓(きこう)の怒りに火をつけた。


『貴様…姉様が…姉様が命を賭して生んだ愛し子を下界に捨てたのか……』


静まっていた空気が一気にひりつき、燬皓(きこう)の腕に赤い焔が纏わりつく。


『……三界に有り得ぬ程の苦痛を味わいながら死ね、』

『な、ヒッ!!』


その腕を目の前の玉婷()に振り抜こうとした瞬間、がしりと別の手が伸びてきて腕を止められた。


『なっ!!?はな、せっ?!』


憎い仇を葬るために振り上げた腕を止めたのは血を分けた姉弟である烔黎(とうり)だったのだ。


子の安否を尋ねた後、今まで燬皓(きこう)の背で静かに佇んでいた烔黎(とうり)が…燃え盛る燬皓(きこう)の腕を軽々と抑えながら重く閉ざしていた口をひらく。


義兄(あに)上…いえ、北辰の皇、籟暭(らいごう)よ。』


静かに、義兄の名を呼ぶ烔黎(とうり)


『……………。』


先ほどの玉婷(ぎょくてい)の言葉に唖然として固まっている義兄に向かって言い放つ。


『此の女は…北の衆は()()()()()()()()お忘れとみえる……』


途端に周囲に解き放たれた、体を押し潰されるかのような重圧に次々に膝をつく周囲の人々。


『ひッ……!?』

『な、……がはッ!』

『は、はっ、グゥぅぅ…』


完全に止まった燬皓(きこう)の腕を放し、腰を抜かして座り込む玉婷(ぎょくてい)と倒れこみのたうつ人々の間を無表情で歩く烔黎(とうり)


()()()帝鴻(ていこう)……此岸に大禍を齎す事など容易き事。其をお忘れか?』


宮の簡易の玉座に腰掛ける籟暭(らいごう)の目前で足を止めた烔黎(とうり)が道理を知らぬ者を諭すかのようにゆっくりと告げる。


『北辰の皇よ。姉上様の御子を今すぐ探されよ。此より七日の間に御子を見つけられねば……煬帝城を、北の地を、そこな愚民共々消える事無き()()()永久(とこしえ)に焼き尽くし、灰塵に帰しましょう。』


(ごう)と音を立てて烔黎(とうり)の腕に現れた黒い火焔が宮の中を照らす。


それは……一方的な殺戮宣言。


天涯より投げ捨てられた子を…生きている事など絶望的な子を探せ、と。


七日のうちに見つけられねば、一族郎党のみならず、北の地の民諸とも皆殺しにする…という苛烈な報復に他ならず……


『ははは、即死させるなど生温い。姉上様の御子が受けた苦しみと、仕打ち、幾百、幾千、幾万倍にして必ずや貴殿らに返して差し上げましょう!!』


薄ら笑いを浮かべ、黒い焔を噴き上げる手を高らかに掲げて宣言した烔黎(とうり)の姿は…魔王と呼ばれても仕方ない程の禍々しさであった、と後に籟暭(らいごう)は語ったそうな…


※※※※※※※※※※



その頃……

投げ捨てられた波瑠(当人)は…


『ぱるぅ、あーぎ、るぅあーける(あの、アイギスさん、わたし歩けますが……。)』

『ん?そうだな~パールは歩けてえらいな~。』

『パールちゃん、駐屯地(ベース)はもの凄く広いから疲れちゃうし、もう少ししてから歩こうね?』

『るぅ、ぱるぅ(え、そんなに)?。……ぅぱるるぅ?(ん?何か鼻がむずむずする?)…へっくちっ!!』

『!!?え、パールちゃん風邪引いた!!?』

『む!いかん、直ぐ天幕に連れて帰るぞアイギス。』

『お、おぉ!ごめんな…寒かったか?おっちゃんが直ぐにふかふかで包んでやるからな!!あ、ラグザ…今さらだけどよ…お前の天幕飛び出したっきりだし、片付いてねぇんじゃ……』

『しまった…確かに…其のままだな…』

『私の天幕に白雪熊(スノーベア)のブランケットがあるから、一旦其を使うか?』

『ガンウェイン、白雪熊(スノーベア)は暖かいが、ちょっと硬いだろう…毛質が…。』

『!…確かに。』

『………あ、衣料部にムルムルの羽毛で作った羽布団があったような……』

『フラッガ、それは…ふかふかなのか?』

『……ふかふか、というよりはフワフワですね…。』

『………あー、雲狸(クラウドラクーン)の毛皮だったら俺の天幕にあるぞ。』

『ノードお前…天才か!!』

『うん、アレはふかふかだな。』


何故かまた『ふかふか』談義に巻き込まれ…


今世の叔父が自分の安否と北の人々全員の命を天秤にかけて激怒している事など…


(うーん?誰かが噂してるのかな……)


知るよしも無い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ