33.保護者説得に強い資料(ステータス)
『……生命の揺籃が五機、元通りとは………』
『流石に此程のもの、生命の吐息をどれだけ消費したのか予測もつかん…本当に体に異常はないのか?命に別状は?』
せっかく完璧に弁償できた、と思っていた波瑠だったが、その後、皆に総出で身体検査をされ、「危ない事だからやめなさい」とやや厳しめに諭されて少し悄気気味である。
(そんな、危ないスキルじゃないんだけどな…この物質置換…)
あまりに皆が青い顔をしていたもので、命が危ぶまれるようなものなのか、先程とMPの消費量が異なるのだろうか…と再度ステータスを開いてみたのだが、
MP 835,927,500
と、やはりさほど減ってはいなかった。
(えーと、マイナスは12,400か…。まなぽっどはあの大きさだけど…やっぱりこの数値からすると1個につき100の減少の内訳かな。で、12,000は木のおじいちゃんに渡した液肥だよね。1本につき1,000かかるのか…これひょっとして、日本のものだと沢山MPを使うのかな…)
減少分の内訳を計算していたのだが、やはり危険性を見出せず、便利なスキルをこのまま使用不可で凍結は辛すぎる。
『ぱるぅ(はぁ、)ぱぁるぅるぅ(どうやって皆さんを説得しようかな…)』
とステータスとにらめっこしていたら
MP 835,927,500 ▶回復待機中
MPの横に見慣れない文字が出ていた。
(回復待機中?えーと、これってMPを回復出来るって事?詳しくわからないかな…この矢印に触れてみる?あ、そもこのステータスって自分だけしか見えないのかな…)
『ぱるぅ(とりあえず)、ぱあるぅるぅ(何だか甘そう、もとい、話がわかりそうな人を説得しよう。)』
少し試したい事も出来たので、てとてととラグザの足元まで歩いていって、ズボンの裾を引っ張って注意を引いてみる。
『ぱぁるぅ(あのー)。にーちゃ(おにいさん)、るぅ、だーこ?(申し訳ないんですが、抱え上げてくれませんか?)』
龍の子が覚束ない足取りでラグザの足元まで歩いて来たかと思ったら、コテンと首を傾げ、何と抱っこのおねだりをした…時の一同の反応といったら…
『!!!』
『え、そんな……』
『……何でだよ、なんでラグザに……』
『団長は手荒いから、こちらにおいで。』
先程「にーに」と呼ばれて、何やかんや一番懐かれているのでは…と自惚れていたフラッガは驚愕し、ずーん、という効果音を背負う勢いで膝をついて落ち込むアイギスに、さらりとラグザを貶して自分の所に来るように誘導するガンウェイン。
『……………。』
『(あれ?駄目そう?)るぅ。だーこ、めー?(抱えるのは駄目ですかね?)めめーちゃ(無理を言ってごめんなさいです。)』
固まって動かないラグザの様子に、宛が外れてターゲットを変えようかと思った矢先…ふわりと体が宙に浮いた。
『……………。』
黙ったままであるが、頬を上気させ、蕩けるように目を細めて波瑠を抱え上げたラグザに、若干及び腰になりながらお礼を言う。
『(ひ、ひぇぇ。何でそんなに色気ダダもれに…)ぱ、ぱる(あ、じゃなくて)、あーとーにーた。(ありがとうごさいます、おにいさん。)』
そして、丁度よい高さに抱え上げられた状態で、自分のステータスをラグザに見せれないか、試してみることにした。
『るぅ、てーた(ステータス)、じー(表示)』
すると…ラグザと自分の間に青く発光するステータスの文字が浮かび上がった。
『!!!?』
Name⋮パール(仮名)※真名の名付け無し
TRIBE⋮龍族(皇龍) AGE⋮2days
Lv %$@&%%$
HP 25(↓-10)
VIT 130(-20)
MP 835,927,500 ▶回復待機中
RES ―(MAX)
STR 30
ATK 45
INT ―(MAX)
DEX ―(MAX)
LUK ―(MAX)
突然空中に浮かび上がった文字に、はっと息をのむ一同。
『るーるぅ(出来た!)!』
そんな周りの様子はお構い無しに、ステータス可視化の目論見が成功した波瑠がMP箇所に腕をのばして示しながら説明する。
『ぱぁる(これ、)、まーぽーと(まなぽっどは)ぴーこーかー(MPと交換してます)。るぅ(なので)、まーぽーと、いーぱつーる!(まなぽっどはまだいっぱいつくれます)!しーぱ、ない(心配はないです。)』
力説したら尻尾もそれに合わせて結構な勢いでぶんぶん揺れていたが、ラグザの腕はその程度では揺らぎもしない。
『おぉ!パール凄ぇな!!それを見せたかったのか?ラグザんとこ行かなくても、次は俺が抱えてやるからな!』
『おいおい…何だよ……その出鱈目なステータス……』
『そうか、ステータスか。最初に鑑定盤を使えばよかったのか…すっかり失念していた。』
『やはり、こんなに小さいのに龍で間違いないのですね…』
『というか、仮名が「パール」になってしまっているのだが……』
『………………!(此は彼奴の、ミゼイアの加護か!)』
『ふむ、やはり真名が無いか。いよいよ郷に使いが来とらんか…確認が必要じゃの。』
皆それぞれ龍の子が示したステータスに様々な反応を示しているが、波瑠を抱えていたラグザはステータスを見ても特に大きな反応はなく、にこりと微笑んで…優しく頭を撫ではじめる。
『そうか、凄いなパールは。』
『ぱ、るぅ(えっと、)。るぅ(そんな凄い事はないです、はい…。)』
『…よく頑張ったから、私とふわふわの寝床で休もう。』
『ぱる?(え?)ねーこ?(寝床?)』
『おい!ラグザ狡ぃぞ!!』
と、思ったらかなり混乱していたようだった。
※※※※※※※※※※
あまりの衝撃内容に…行動がおかしくなったラグザを遠目に見ながら年長組は先程の龍の子のステータスについて話をしていた。
『大丈夫…ではなさそうだな…団長殿は…』
『長耳の姫……竜もどきがあれで混乱するは無理もない事ぞ…(介入に気がつかぬとは吾も衰えたか…)』
『混沌のは余り驚いておらぬが、予測がついておったのか?』
『否、吾とて解っておったら止めもせぬ。子が籟暭の子と云う事すら頭から抜けておったわ。』
『そういえば…シュネーもおぬしも彼奴と縁深いのに気がついておらなんだのか?あれ程分かりやすい命の焔は無かろうに…。』
『然り、子は魂子のまま降ってきた故な…初見で「龍」とは知れたが、真逆あれの、籟暭の子とは思わなんだのよ…』
不思議そうに尋ねるエンキルに苦虫を噛み潰したような顔で答えるヨグ。
『混沌の、一応の確認だが…あの子は危ういのか?』
そこで、何かに気がついたのかイリシュネアが真剣にヨグに問う。
『………未だどちらとも言えぬ。が、龍族も一枚岩ではないのやもしれぬ…故、傭兵団で匿うが最善と吾は断ず。』
『そうか……ならば慎重に手を回さねばならんな……。』
『是。子を守りたくば、此方の動きを秘して先手を打たねばならぬ。』
いつになく慎重なヨグを見て笑いを堪えながらエンキルが言う。
『ほっほっ。我らも龍の子が可愛くて仕方がないが…いやはや、混沌のもそこそこ子に肩入れしておるの…。承知したわ、郷にもこの旨大事故秘するようにと伝えよう。長ならば何ぞ知っておるやもしれんしな。疾く帰りて調べてこよう。』
そうして早々にエンキルの郷への帰郷が決まったのであった。




