32.兵(お詫び)は神速を尊ぶのが鉄則。
『パール~っ。ほら、「パパ」って言ってみろ?な?』
(先程から巨人1号が目の前に座って、ずーっと「パパ」と呼べを連呼しているんですが…)
『ぱるぅ(えーと)…どーぱぅ?(どうしてパパ?)』
波瑠はかなりの困惑具合だったが、アイギスはお構い無しで、言葉を発したのに、最初に呼ばれたのがエンキルの「じーじ」だというのが余程気に入らないらしい。
『ほら、「パパ」だぞ~。』
『ぱるぅ(うーん)?ぱーるぅ、とーとなー?(えーと、あなたは父親ではないですよね?)』
なので、波瑠の前に陣取って何とか自分を「パパ」と呼んでもらおうとしていた。
そんなアイギスの姿に、
『………、狗よ……』
『……アイギス、流石にそれは…その、うらやま…いや、図々しすぎるぞ…』
ヨグは最早何を言っても駄目だ、コイツ…と半ば呆れを通り越してしまったようだし、ラグザはアイギスに忠告しながら、自分もちょっと呼ばれたい雰囲気を醸し出している。
そんなやり取りを眺めて不思議そうに首を傾ける波瑠の前に、フラッガは素早く屈んで体調に変わりがないかさりげなく確かめていた。
『大丈夫?お口をあーんできるかな?うん、大丈夫そうですね。どうして急にお喋りできるようになったんですかね?』
完全ではないが、急に会話の内容がわかる程度に話しはじめた事に疑問を持ったフラッガがイリシュネアに尋ねる。
『ふむ、もしやと思ったが…、エンキルの最盛期の力で創った知恵の果実を口にしたからか?』
イリシュネアがエンキルに向かって言うも、当のエンキルは話を全く聞いておらず…
『はははは!どうじゃ?ほれ、お花じゃぞ。』
『ぱあるぅ!(おお!)じぃーすごー(おじいちゃんすごい!)なーぱるぅ(お花いっぱい)!』
波瑠の前で沢山の花を咲かせてやっていた…。
『……エンキル、龍の子が懐いて嬉しいのはわかるが、話を聞け。………切り倒すぞ…。』
最早爺馬鹿と言っても過言ではない程の可愛がりっぷりで、話を全く聞いていないエンキルに静かにキレたイリシュネア。
恐ろしい脅し文句が旧知の友から聞こえたため慌ててエンキルが答える。
『…オホン……マルームにこのような効果は無い。無いはずじゃが…わしは還樹の老木からここまで戻った。何らかの影響があったやもしれん。確実には、長に…世界樹に尋ねるが一番じゃろう。』
急に真面目に話はじめたが、龍の子のお喋りの原因はわからないとのこと。
が、少し沈黙した後…思い付いたようで、
『…此処に地を支える木が生えた事を世界樹に伝えねばならんし、一度わしは郷に帰ろう。それに、忘れとったわけではないが、その子は籟暭の子、郷に何かしら報せがあったやもしれん。』
と、これまでに起こった様々な事の報告と…龍の子の身元確認を兼ねてわかりそうな人物(木?)に会うために郷に帰ることにしたらしい。
『確かに、世界樹殿であればあるいは…。よし、私も我が伴侶に便りを出そう。籟暭の子だと言うなら、そちらの繋がりの方が情報が早いやもしれん。』
その言葉を聞いて自分も確認を取るために、夫に連絡する事にしたイリシュネア。
『では…何かわかるまでこの子は傭兵団で預かりましょう。そうしましょう、それが良いかと。』
『お祖母様、お祖父様に便りを出されるならば輝ける白銀の森にも、父上にもお知らせ頂けますか?こちらで預かるならば、幼子用の可愛い揺りかごが必要ですので…』
龍の子を預かる気満々のガンウェインとフラッガにジト目を向けるイリシュネア。
『我が孫よ…報せは鳥に運んでもらうつもりだ。私もここに残る故な。………その子の世話は順番だぞ。』
ヨグがいつぞやにした、自称親兄弟から祖父母まで大量に増えそうだ…という予測は見事的を得ていたわけである。
『………これで大丈夫なのかよ、傭兵団…』
1人ぽつんと外野にいたノードの呟きが虚しく響いたのだった…
※※※※※※※※※※
エンキルから、マルームなる果物を貰って食べてから、ビミョーに話せるようになった波瑠。
『ぱるるぅ(そうだ、今なら伝わるかな…)。せーせー、(先生、)なーぽとー(まなぽっど)よーぱるぅ…(後4つ弁償を)』
近くでイリシュネアと会話中のガンウェインに、途中になっていた生命の揺籃の補填を…と話しかけたのだが、
『ん?どうしたんだ?』
『!!今先生って言いませんでしたか?もう一度言えるかな?後、僕はフラッガだよ。わかるかな?』
『にぃーに、ふらー(おにいさんはフラッガさん?)?るぅ、せーせ、まーぽーと(あ、ではなく、先生、まなぽっどを)よーつ、つーる(4つつくります!)』
一生懸命小さい手を使って説明するも…
『今にーにって!!』
別の単語を拾って喜ぶフラッガに、
『それは森狐か?』
『いや、…マルームなのでは?』
イリシュネアにもガンウェインにも全く伝わらず…
(な、せっかく「ぱ」と「る」と「う」から卒業出来たと思ったのに、つ、伝わらないーー!?)
『(もう、実行した方が早いかも…)るぅ、』
焦れた波瑠は…またよちよちと、今度は生命の揺籃に必要な空間とMPがわかっていたので一同からやや離れた所で
『いー(物質置換)、まーぽーと(まなぽっど)』
を、発動。
途端、どすん、と2度目の生命の揺籃出現である。
『!?あ゛、「まーぽーと」って、生命の揺籃か!?いや、まて、そんな馬鹿な…ぽこぽこ創れるもんじゃねぇだろ…それ……』
ノードが出てきた2台目に唖然としながらぼやくも、
『(あーこれまとめて出せないかな…)るー。いー(物質置換)、まーぽーと(まなぽっど)さーこー!(3個出てください!)』
どすん、どすん、がしゃん…
『は?』
と、1つ1つ出す事が面倒になった波瑠の3個同時出しに最早茫然自失となり…
『!!!なっ!』
『これ!!?そんなに大量に創ったら生命の吐息が!!………』
『何と…それ程の事が出来やるのか…』
その他一同は止める間もなく出現した4台の生命の揺籃を唯々見つめるしか出来ない。
そして波瑠は…
『ぱる(ふぅ)、ぱある(これで弁償完了だね)。まーぽーと、どーど(まなぽっど、どうぞお納めください。)』
一仕事終えた感で…出てもいない汗を拭っていたのだった。
(いや、やっぱりこういう事は早めに片付けないとね…お詫びは迅速にしないと、クレーム処理の鉄則だよ。あーすっきりした。)




