28.わたしのスキルが火を…(まだ)噴かない。
波瑠がヨチヨチと天幕から外に歩いて行くのをほっこりと見守っていたアイギス達だったのだが…
『おー、なんかよたよたしてんな。しかも、アイツ二足歩行なんだな。トカゲにしちゃ珍しい色してるし。』
『………ノード、あの子はトカゲではない。』
『ん?』
『ははは、ノード!聞いて驚け!パールは「龍」だぜ!』
『は?』
ノードの背をバシバシと叩きながら、さらっととんでもない事を言うアイギス。
『………アイギスの騎獣馬鹿は知っていたけどよ…。拾うならまだしも、流石に攫ってくんのは犯罪だと思うぞ。この間の古代竜騒ぎ、お前のせいだろうが。忘れてんじゃねぇぞ……』
『なっ!攫ってねぇよ!パールは空から降って来たんだ!』
『………ガンウェイン、ついにウチの副団長殿の頭がイカれたぞ。ちょっと頭かっ開いて診てやれよ。ってか、団長も黙ってないで犯罪は阻止して下さいよ…』
『ノード。アイギスは狂った訳では…』
『……日頃の行いが悪すぎるか…』
大人達がワイワイと騒いでいる間に…天幕から少し離れた場所で何やらしていると思っていたら…
『るぅ、ぱるぅるぅ!(物質置換、まなぽっど!)』
ズン……………
と、重い音を立てて、何もない空間から生命の揺籃が出てきたのだ。
『ぱる!(やった!)ぱるるぅ(これで弁償…)』
龍の子はよっぽどそれが嬉しいのか、こちらに勢いよく振り返っている。
『お~龍の子は~生命の揺籃を~創りたかった~のか~』
常軌を逸した事態が発生しているのに、あまりに普通に理解してしまったエンキル。
他の一同は…というと…
『え?』
『は?』
『な、』
『はっ?』
『何と………』
『おいおい…』
当たり前だが、何もない空間から有り得ない質量の生命の揺籃が出現したのだ。
『ぱある。(あれ、)ぱるぅ?(皆さん…?)』
『………………。』
こちらが反応もなく、ぽかんとしていたせいで龍の子は不安に駆られたらしい。
『ぱるるぅ(これ、ひょっとして)……るぅ。(まずいですか…)』
何か悪いことをしてしまった、叱られるかもしれない、と怯える子供のように恐る恐る一同の元に近づいてくる。
そんな龍の子を見て一番に正気付いたアイギスが、傍に駆け寄って体を掬い上げた。
『パール!パール!!すげぇ!すげぇな!!生命の揺籃つくれるなんて!俺の子は天才だ!!』
『ぱる(はぁ、よかった)、ぱある(喜んで頂けたようで)。ぱるるぅ(これで何とか弁償を…)。』
どさくさに紛れてうちの子呼びで、体を持ち上げられてくるくる回されているが、今回はアイギスが加減を覚えたようで、特に目を回したりはしていないようだ。
その様子にハッと我に返る残りの面々。
『!!待て、待て!体に異常はないのか?!その質量のものを、無から創った…いや、生み出したのか!?何と等価交換したのだ!!下手をしたらとんでもない量の生命の吐息を消費して命が危ぶまれるのだぞ!!』
イリシュネアが真っ先にその現象の異常性と危険を察知して慌ててアイギスの腕から龍の子を抱き取って体を調べはじめた。
『ぱるぅ(ええと)、ぱ、ぱるるぅ…(な、何か問題が……)。』
『どこもおかしくはないか?痛いところは?』
心配そうに体のあちこちを触りながらイリシュネアが確認するも…
『ぱるる(特には…?)?』
『…………異常がない、と?』
キョトンとイリシュネアを見上げる龍の子は、ルバーブのせいで胃の腑が若干弱っているが、それ以外は健康そのもので、先ほどの事など気にも留めておらず、何故か頻りとガンウェインの方を気にしている。
『?』
『ぱるぅ(あの、先生?)、ぱるるぅ(これで弁償になりますか?)。』
ポッドの方を見、そしてガンウェインに呼びかけるように鳴く龍の子。
その鳴き声にハッとするガンウェイン。
『………まさか、私が生命の揺籃が必要だと言ったから、か…?』
『ぱるるぅ(いえ、わたしが壊したようなものなので…)』
くりくりとした大きな目がガンウェインを見て反応を待っているのだ。
『……なんと……。』
『…………。』
『ぱある?(先生?)』
イリシュネアからそっと龍の子を渡されたガンウェインが優しく頭を撫でる。
『有り難う……だが、そんなものの為に命を削ってはいけないよ。物が壊れるのは仕方がない事だ。
もし君の身に何かあれば、私はとても悲しい……。』
『ぱるるぅ(あの、どうもないのでご心配は…)』
困った顔で諭すように話しかけるガンウェインを、腕の中から見上げながら首を傾げている龍の子。
『……龍の子よ、その力は通常であれば命を削る類いの大いなる御業。生まれ落ちて間もない其が行使すれば間違いなく生命の吐息が枯渇して死に至る…』
先ほどまで無言でいたヨグが重々しく口を開くが……
『混沌の~そんなに~難しい言葉を~沢山並べても~龍の子は~わからんじゃろ~。龍の子~ポッドを~創ると~体が~痛い痛いになるか~ずーっと寝んねしてしまうから~次は~勝手に創っては~駄目じゃ~。』
内容が幼子向きではなかったので、エンキルが龍の子に分かりやすく説明してやったのであった。
『ぱるる(え?そんな危険なのこのスキル!?)!?』
※※※※※※※※※※
あれから…
スキルで創った生命の揺籃が調べられ、全く問題なく使用できる事がわかり、今度はフラッガに抱えられて天幕の中での話し合いに同席している波瑠だったが…
(う~ん。皆さんに止められたんだけど…取り敢えず体は何ともない。後4台まなぽっどを弁償しなきゃいけないんだけどな…)
先ほどヨグとエンキルに、物質置換が、命に関わるから使用禁止、と諭されたのだが…当の波瑠は別段に其ほど危険なスキルだという体感がなかった。
確かに、スキルを発動させた際に何か体から少しだけ抜けたような感覚がしたが、些少であって、皆が心配しているような…命を脅かすものではなさそうなのである。
(そもそも、何と物質置換したんだろ…このスキル…?ステータス確認したら、わかるかな…)
一応何が置換されたのか確認出来たらいいな…ぐらいの気持ちでステータスを再度開いてみたところ…
HP 20(↓-15)
VIT 105(-45)
MP 835,999,900
『ぱ?ぱるぅ(え?これって…)』
思わずフラッガの膝の上で体がビクリと揺れる。
『どうしたの?どこか痛い?』
フラッガが心配そうに波瑠に話しかけてきたが…
『ぱるぅ。(え、待って…)』
(こ、これって置換されたのはMP?月島が無駄に語呂を合わせてステータスに上乗せしてあった?しかも、まなぽっど1つで100程度しか減ってない!!じゃあ…………)
その言葉は耳を素通りし…
『え?大丈夫?!』
『どうした、フラッガ。』
『いや、この子がさっきから…』
『何だと!?』
動かない龍の子に慌てた周囲が様子を確認しようと覗きこんだところ、
『ぱるぱるぅ!(よくやった!月島!これでまなぽっど全部弁償できるわ!)』
『!?』
『ん?パール死んだふりか?上手だな!』
『縁起でもない事を言うな。狗っころ。』
急に動きはじめたのだった。
いや、そもそも、その月島のせいではなかっただろうか…この諸々の状況は…
そんな事など頭からすっぽり抜け落ち…
(よっしゃ、出来るだけ早く全台弁償!!)
波瑠は気合いを入れて弁償する気でいた。




