27.責任をもって弁償します、それ。
『ノード…もう一回言ってくれるか…』
『いや、緊急事態だったろ…だから、生命の揺籃の防護幕を叩き割った。』
『………はぁ。』
大きな溜め息と共に項垂れたガンウェイン。
『命にはかえられんが…ポッドが五機共に破損とはな…』
巨人3号に抱えられて地上に降ろされてからは…また皆の腕に一通り抱えられ、頭を撫でられ、頬擦りされ…を繰り返し、最終的にはごねたアイギスの膝の上で抱っこされていた波瑠だったが…
『ぱるぅるぅ(本当にすいません…)』
大変恐縮していた。
『仕方ねぇだろ。あの状態で内側から出るなら、力業使うしかねぇだろうが。んで、そいつも同じで、ポッドが開かねぇから、防護幕を叩き割った。』
悪びれる事なく答えるノード。
『たしかに、あの状態だったら仕方がないが…』
『そうですね…流石にポッドの核から木が生えて巻き込まれるなど…常人では考えられませんし…』
『ぱるるぅ(木が生えた……)』
おそらくポッド破損は自分の発動させた癒しの水が原因なのであろう。
『…治癒師も薬師も此処には充分揃ってはいるが、流石に生命の揺籃が一機もない状況では不安が大きい…。』
『先生、樹上と埋没したものはどうにもなりませんが、吹き飛んだ二機は修繕すれば稼働できませんか?』
フラッガが一応…、という体でガンウェインに確認をしたが、
『修繕するにも損傷が軽度のものでも駐屯地にいる魔道技師を総動員しても半年はかかる…後は素材となる部品がな…手に入らん…』
かなりの修理期間と希少素材が必要なようで…
『は、半年…。お、お祖母様、何とかなりませんか…』
思わずイリシュネアに助けを求めたが、
『うむ…私も魔道具は門外漢だ。すまぬ、役にはたてんな…。』
呆気なく断られて終わった。
(やっぱり、あのスキルの光る水のせいだよね…
天幕にあった「まなぽっど」が全部壊れちゃったのって……。しかも、あれは修理とか新しく手に入れるのとかが難しい、物凄い貴重なものだったと…。何て事しちゃったんだろ…スキルなんてあの中で試さなくても後で試せたのに…)
真剣に話し込む一同の姿に、自分の行いが招いた結果を思い知り、項垂れる。
(はぁ、トンデモスキルだったな癒しの水……。効果も良くわからなかったけど、大まかには「木が生える?」なのかな………それはそうと…まなぽっど、何とかならないかな……………。
何とか………………なんと……………あ、…!す、スキル!!?)
『ぱるぱるぅ!(そう、スキルだ!)』
ハッと思いつき、すっくとアイギスの膝の上に立ち上がり、気合いを入れた波瑠。
『お?どうしたんだパール?』
『ぱるぅ(あの、)ぱあるぅるぅ!(それ弁償します!)』
『腹が減ったか?木のじじ…爺さんにマルーム貰うか?』
身振り手振りで伝えようとしたものの、アイギスには空腹と勘違いされてしまった。
『ぱるるぅ。(よし。善は急げ。)』
言葉で伝えるのは無理そうなので、早速アイギスの膝からヨチヨチと頑張ってつたい降り、天幕の外に歩き出した、のだが…
『!!パール、外は危ないからお家に居ような~。ほら、こっちだぞ~。』
すぐに、アイギスに捕まってしまった。
『るぅるぅ(離して)、ぱるるぅ(離して下さい!)!』
アイギスの腕から逃れようとうごうごと暴れる波瑠。その姿を見てエンキルがアイギスに声をかける。
『龍の子は~何ぞ理由があって~外に~出たいのであろうよ~。少し出してやるが~よい~。』
『!』
『ぱぁる!(おお!)るぅるう(ご老人、話がわかる!)』
目をキラキラさせて、エンキルを見返したのだが…
『なんだ、パール厠か?』
『る゛ぅ!(え゛!)』
アイギスには大きく勘違いされたのだった。
※※※※※※※※※※
(何か解らないけどスキルは発動した。だったら他にあったスキル、「物質置換」を使ったら、もしかしたら「まなぽっど」を造れるかもしれない。)
厠に行きたいのだと、アイギスには大いに誤解されたが、何とか天幕の外にだして貰った波瑠。
ポッドを弁償するアテを思い付いていたので、今度は癒しの水の二の舞にならぬよう、影響の出にくい広い場所で試そうと思ったのだ。
(不親切仕様のスキルだけど、これに賭けるしかない!!流石に人様のお家のものを壊して、スミマセンだけじゃ済まないし!)
短い足でちょこちょこと天幕から出来るだけ離れて、スキルを発動させる準備にはいる。
(癒しの水はそのままスキル名を唱えたけど、物質置換はおそらくは何に置換するかの指定がないといけない気がする。だから………)
『るぅ、ぱるぅるぅ!(物質置換、まなぽっど!)』
スキル名を唱えた途端、体から僅かに何かが抜けた感覚がして……
ズン、と目の前に重低音が響き渡り、外観は自分が入っていた生命の揺籃にそっくりのものが出現したのだ。
『ぱる!(やった!)ぱるるぅ(これで弁償…)』
スキルが思う通りに発動し、これで貴重なものを弁償できると…喜び勇んで天幕の方を振り返ると…
『お~龍の子は~生命の揺籃を~創りたかった~のか~』
のんびりとこちらを眺めるエンキルと…
『え?』
『は?』
『な、』
『はっ?』
『何と………』
『おいおい…』
ぽかんと大口をあけたまま…固まる一同の姿があった。
(あ、これ何かやっちゃいけなかったかも…)
後悔先に立たずである。




