24.スキル実証は広いところで行うべし
波瑠の名を勝手につけたアイギスにヨグが再度のお説教をかましているころ…
波瑠は脱力感に苛まれていた。
(いや、お約束でステータスオープンとか言ってみたけど、本気で開くの?ステータス…しかも月島のせいとか…有り得ないんだけど。時間がおしてたとか、何の時間よ、いったい…せめてもっと詳しい説明を残してくれないかな…)
ステータスを開いて…
この訳のわからない状況に月島が関わっていた事が判明したのだが、それはもう一介の人間がどうやって同じ人間を異世界に転生させたのか、何の目的でそんな事をしたのか…と、更に輪を掛けて不可解となるわけで…
『るぅるぅ?(しかも…何故に両生類にクラスチェンジ?)』
幽体離脱から体に戻った際に全身が見えたが、姿形はまさしく地球産の両生類、ただしサイズは大きめ。
周囲は「龍」と言っていたし、ステータスにも龍族と表記が出ているので…もしやこちらの世界の龍は皆両生類風味なのだろうか…
短くぷにぷにとした手をしげしげ眺めた後、先程から開きっぱなしのステータスが目に留まり、内容を再度確認してみる。
目視した限りでは、ステータス表の上部の数値箇所はなんとなくわかる気がするのだが…問題は下の方に表示された特殊スキルである。
【 特殊スキル 】
神の菜園、癒しの水
インベントリ(∞)、物質置換
防壁展開、魔道の深淵
そのスキルたちは、そこはかとなく危なそうな雰囲気が漂う文字しか並んでおらず、発動条件や内容がまったく不明で、転生初心者(ベテランが居ても怖いが)には物凄い不親切仕様。
(うーん、インベントリと防壁展開ぐらいしか技能?いや機能?がわからないんだけど…これは、まず使ってみて何とかしろってことか…
あいつめ…「仕事は見て実践で覚えろ」って言った事根に持ってる?うだうだ言わずに試せってこと?)
初期説明もなく、あまりに雑なので…思わず仕事の指導に対する意趣返しかと思うレベルである。
『ぱる、(仕方ない、実践あるのみ!)』
グタグタ悩んでいても何も解決しないので、とりあえず前向きにスキルの考察をはじめてみた。
(物質置換は何かを物に置き換えるか、その逆だと考えて…この狭いポッド内で発動したらどうなるかわからないから却下、同じ理由で場所をかなりとりそうな神の菜園もなし。
魔道の深淵は字面がそこはかとなく危なそうなので、消去法で癒しの水かな…)
うんうん悩みながら、最終的に試してみるスキルを決めた波瑠。
(こういうスキルは…ゲームでは大抵発動するのにキーワードとか詠唱とかがいるんだよね…どうするかな…もう素直にスキル名で行ってみるか…)
色々いっぱいいっぱいになったようで(というか、考えるのが面倒になり、)深く考える事を放棄してスキル名を唱えてみる。
『ぱるぅるぅ(癒しの水)』
途端、何もない空中からキラキラと金色に光る水が小雨のようにポッド内に降り注いだのだ。
『!!ぱるぅ(え!雨降ってきた!!?)』
無音で降り注ぐ光る水にポッドの中で転がったまま慌てるも…光る水は降り続け、どんどん敷布に染み込み、止まる様子は見受けられない。
『る゛ぅ!(あ゛!)ぱるぅるぅ(備品が!!お借りしてる備品が!!)』
これ以上敷布を濡らすまいと何とか雨を止ませようと色々言葉を尽くすも…
(ヤバい!ストップ、止まれ、とまっ…!!)
雨に変化は見られない。
そのうち、何故かポッドがミシミシと軋みはじめ…ザワザワと地面を何かが這うような音が広がっていく。
『るぅ(泣)、ぱあるぅ、ぱるぅ(何、今度は何が起こって……!)』
そしてついに…ドカンという凄まじい破裂音と共に急激に上にポッドが持ち上がった。
『るぅ!!?(!!?落ちる、の次は昇るの!!意味わからないんだけどぉぉぉぉ!!?)』
波瑠の今の人生(龍生)は波乱万丈のようである。
※※※※※※※※※※
時と場所は戻り、波瑠がスキルを発動させる少し前…
『だから、呼び名がなきゃ不便だろ。』
『……ヌシはまだ騎獣の子を拾ったような気でおるのか?子には真の親がおる。名は絆。親より贈られる最初の祝福よ。其を他人が横槍を入れて良いわけがなかろう。』
アイギスがことあるごとに呼んでいた波瑠の呼び名に異を唱えるヨグ。
『だけどよ……』
『何度いえば………………ドガァァァン…!!
『!!!?』
『ぬを?!?』
『ハッ!!?』
『え、?』
『お~や~?』
お説教の途中で波瑠を休ませた生命の揺籃が置いてある方向から鳴り響いた爆発音に、慌てて天幕の外に走り出た一同。
そこには…
夜陰を切り裂き天にのびる大樹が1本。
『おい、あれって…』
『木……か……?』
轟音と共に駐屯地内に突如として現れた大樹に、治癒師の天幕のみならず、他の天幕の中からも人が出てきて辺りは蜂の巣をつついたような様相を呈している。
『!!団長、いったいアレなんですか!?』
一番近い天幕に夜警で待機していた団員がラグザのもとに走り寄って来た。
『私もわからんが…』
そう答えるしかないラグザ。
その時、ラグザの隣で大樹を呆けたように見つめていたフラッガが何かを見つけた。
『!!あそこ!木の上に生命の揺籃が!!』
『!!なんだと!!』
『!まさか、木が生えたのは彼処か!!』
ガンウェインがいち早く龍の子がいるであろう生命の揺籃のある天幕に向かおうとする。
が、
『暫し~待て~治癒師の~。』
これ程の騒乱の中でも動じない、エンキルの長閑な声が響く。
『エンキル殿?!』
『この状況で何を言っているんだエンキル!』
呼び止められた事に戸惑うガンウェインと、呼び止めた事を咎めるイリシュネア。
『お~~物凄いの~初めて~見たわ~い。』
『は?』
『何を…』
咎められた事も一向に気にならない様子でエンキルは続けた。
『あれは~生命の揺籃の~核が~甦った~ようじゃな~』