20.可愛いすぎてどうしよう(どうもしない)。
皆が「龍」と言うから…
格好よい姿を想像していました。
どうも、開腹手術の危機から脱したものの、人間から両生類に転職(?)した澤村波瑠(30)です。
(何処に自己紹介をしているのだろう、わたし…)
遠い目になりながら、現実逃避しております。
何故ならば…
『っ!!パール良かった、良かったなぁ。ごめんなぁ、辛かったよなぁ、苦しかったよなぁ…』
『済まなかった…龍の子よ。無事目覚めて本当に、本当に良かった…』
巨人1号、2号にもみくちゃにされているので。
『るぅ(あの、)、ぱぁるるぅ(そろそろはなして頂けますと…)』
『よしよし、もう何処もなんともないか?吐き気は?ん?ちょっと体が冷たい…か?』
『ぱるぅ、うるぅ(それは両生類なので、冷たいかと…)』
『ガンウェイン、体温が下がっているようだ。診てやってくれるか?アイギス、好んでいたふかふかを取ってきてやってはどうだ?』
『そうか!吐いて体温が下がったのかも知れねぇし…よし、大好きな絨毯持ってきてやるからな!』
『るぅるぅ(いや、)ぱぁる、ぱるぅ(あの、絨毯ネタはもう結構です…)』
軽々と巨人2人の間でぬいぐるみのように手渡されては抱き締められ、頬擦りをされる始末。目が覚めてから更に過保護が爆発してるんだが…
『わかった。イリシュネア様も一度この子を診てやってくれますか?』
『勿論だ。どれ、こちらにその子を。』
そんでもって、巨体の男共から美少女の腕に渡されましたけど…
『……ぱるぅ(ええと)。』
物凄い美少女が優しく抱きとめてくれておりますが…これは如何に?何に対するボーナスタイム?
『大丈夫だ、痛くはしないからな。【精霊よ、此の者の有り様を示せ】』
透き通った美少女の瞳にじっと見つめられる事暫し。
『よい子だ。怖かっただろう?良く我慢できたな。毒の影響はないようだぞ。混沌の、この子にかけた術を解いても問題はないはずだ。』
何故か頭をいいこ、いいこされ…
『左様か。恩にきるぞ、長耳の姫よ。』
『いや、私は何もしておらん。礼を言うなら何事か対処したそこな樹精人のエンキルに言うがいい。』
『お~混沌の~、わしへの~礼は~高級液体魔素肥料10~年~分で~よいぞ~』
『良かろう。色を付けて30年分贈呈しようぞ。』
気が付いたら巨人なおじいちゃんの腕に抱っこされてました。何故だ。
『ぱぁるぅ(本当に、何故?)』
※※※※※※※※※
天幕にいる人(?)の腕の中を転々と廻され、無事を喜ばれていた波瑠だったが、最終的に…これまたガタイの大きな男性に手渡され、何やら腹に掌をあてられている。
『毒の影響は消えたようだが、少し内臓の機能が低下しているな。念のため内服薬と栄養剤を与えた方がよいか…。』
掌をあてていたのはどうやら日本の診察の聴診器と触診に近い行為だったようだ。
『本当に大人しい子だ。ちゃんと暴れずにいいこにできたな。』
ぽんぽんと優しく頭を撫でられた。
視界がふさがっていたので、姿形は今目にしたが、口振りからして恐らく今まで診察してくれていた医師だろう。
『るぅるぅ(ありがとうございます)、ぱぁるぅるぅ(どうもご迷惑をおかけしまして…)』
体勢的にどうしても上目遣いになってしまうが、これまで一生懸命助けてくれようとしていた事のお礼を言ってみる。
が…
『……………。』
何故か無言で見つめられた。
『(え!?何故に無言?)ぱるぅ………?』
訳が分からないので小首を傾げる波瑠。
『………、保護者が頼りないようなら私の子になるか?』
『!!ガンウェイン!!!』
『せ、先生。その子は龍の子です!』
『うむ、大丈夫だ、問題ない。』
『いえ!?問題大アリです?!』
…どうやら常識人のガンウェインまで波瑠は可愛さでノックアウトしたようである。
慌ててガンウェインの腕から波瑠を取り上げ、
イリシュネアに向かって状態を訊ねるフラッガ。
『と、取り敢えず、危険な状態は脱したと思って宜しいですか?お祖母様。』
『ああ、細かい体調管理はしてやらねばならないが、命の危機は去ったはずだ。』
そう答えながら、フラッガに抱えられた波瑠の前でイリシュネアも手を振ってあやしはじめる。
『なんとも可愛らしい子ではないか。ほら、婆の手を見ておれ。ひらひら、蝶々だ。』
簡単な光の魔術まで発動させている。
そんなイリシュネアの斜め後ろから先程まで皆の輪から若干距離をおいていたエンキルまでもが波瑠の元に近付く。
『後で~栄養価の~高い~マルームを~やろう~の~。ルバーブと~違うて~毒はない~故~。』
何気に一番保護者達の胸にささる毒を吐いたエンキルであった。
※※※※※※※※※※
一通り波瑠をあやし倒した一同。
状態も落ち着いたようなので…生命の揺籃に寝かせようとの事になったのだが…ここでも誰が連れていくか大騒ぎとなり、最終的に色々な危機感を覚えたフラッガが一同を説得して連れて行った。
後は各々解散(と言いながら波瑠の元に行った)となり、天幕に残るは長命種の爺婆(?)達のみであるのだが…
『混沌~の~、おぬし~人に~交わり過ぎて~色々~鈍ったのでは~ないか~?子に~ルバーブなぞを~食べさせたら~危険な事ぐらい~わかっておろう~に。』
『……それについては吾の落ち度よ。子には十分に償う。』
苦虫を噛み潰したような表情でエンキルの嫌味に返答するヨグ。
『じゃが~混沌のも~とんでもない子を~拾うた~の~』
『?とんでもないとは如何に、エントの老木よ?』
『おぬしも~大概の~爺じゃろ~が~。シュネー~も~わからん~か~?』
『?何がだ?エンキル?』
『あの子は~籟暭~の~子じゃ~ろ~』
『!!?』
『目の~色~も~、命の焔の~形も~半分は~籟暭に~そっくり~じゃ~。』
『馬鹿な!!ではあの子は煬帝城から落ちたというのか!!』
『如何にも~。どうしてか~は~、わしも~わからん~が~、天涯の~遥か上~から~落ちて~ようよう~無事で~あった~なぁ~』
物理的な高さを考えれば波瑠が無事であった事は奇跡に近い。
『ありえん!!』
『~?何が~じゃ~シュネー~?』
『籟暭の子があれ程可愛いはずがない!!』
『(そこ~か~?)………嫁~さん~に~似たん~じゃろ~。』