1.生まれて飛び出されて(?)ジャジャジャジャーン
時間は遡る事一両日前…
京都・某所。
『澤村君……』
『はい、何ですか課長?』
『いや、コレさ数値おかしくないかな…』
『?別段そこまでおかしく……おかしいですね…』
『だよね……月島君に任せてたんだけど、今日データ解析回していたのを回収したらこの状態でさ…』
『………ハァ…ちょっと月島をボコっ、もといシメアゲテきますね(笑)』
『いや、言い直した意味…『え?』何でもないよ…』
『課長ちょっと席外しますね!』
『あ、うん、ホドホドにしなさいね…』
『はい!』
『(あれはホドホドでは終わらないな…)』
澤村波瑠は至って普通の社会人である。
容姿もさして珍しくもない平凡な日本人であるし、今年三十路にのった以外別段生活に変化はない。
今朝も普通に目覚め、普通に朝食を摂り、観光客でミチッとした市バスに揺られての出勤だ。
仕事も苦労性の上司とおおざっぱな同僚と共に変わらない一日を過ごしていた…
はずであった。
のだが…
何処でどうなって「こう」なったのか、意識が途切れるような状況があったのかも不明であるが、気がついたら見知らぬ場所だったのだ。
(というか、何も見えないんですけど…今何時?
ほの明るいのは変わらないし、さっき結構人が周りに居たような気がするんだけど…)
騒がしい気配が去ってから眠ってしまったのが良くなかったのか、周囲を取り囲んでいた気配も消え、辺りはシンと静まりかえっている。
(うーん。月島のデータの修正をしていた、までは一応記憶があるんだけど…寝落ちした夢にしては感覚があるし、後此処何か生温い?というか、凄い狭い…)
寝起きの中途な半覚醒状態から意識がだんだんと明瞭になるにつれて周囲の状態に気がつく。
(!水?に浸かってる、というより浮かんでるのが正しいかな?良く息出来てるね…私…どうなってるのかな…)
手を開くとぬらり、と纏わりつく水のようなものを掻きながら、ぺとりと周囲を覆う壁に手をついてみるものの易々とは出られない雰囲気がそこはかとなく漂っている。
(………うん。まぁ今のところ無事(?)だし、命に関わらないみたいだから良いかな…)
→抵抗する
→何もしない
→寝る(え?!)
(騒いでも体力を無駄に消耗するし…
という事で、もう一眠りしますか…)
曲がりなりにも30歳、そこそこの修羅場はくぐったし、伊達に歳はとっていない、という微妙な自信が何故か頭を過り、気がついた時には本日二度目の眠りについたのだった。
波瑠が再度の眠りについた頃―
『御方様に和子がお生まれになったぞ』
『まことか!!次代様の御誕生とあらば盛大に祝わねば!!』
『……』
『?どうしたと言うのだ?渋い顔をして。早くこの慶事を皆に伝えねばならぬだろう。』
『……御子はお生まれになったが…――様は身罷られた…』
『!!?何だと!!』
『御方様は今――様に最後の別れをされておいでだ…』
『ではお生まれになられた次代様は?』
『それは大事ない…はずだが…』
『皆――様の室におられるのだろう?では次代様には誰がついておるのだ?』
『…………まずいやもしれぬ…』
『!急ぐぞ!』
『応!!』
※※※※※※※※※※
場所は戻り、浅い眠りに揺蕩う波瑠のもと―
一つの足音が近付いていた。
『嗚呼あの方がお可哀想…
あんな女を娶ったばかりに子は出来損ないで母親の命を奪って生まれ落ちるだなんて。』
(………………ん?何か聞こえる?)
『そうよ、出来損ないの子はあの方に不要だわ!不要なものは早く棄ててしまいましょう!!フフ、そうしたらきっとわたくしも、煌藍もあの方は愛して下さるわ!!』
ガタリ、ごとん―
(おぉぅ!?地面が揺れてる!?)
『丁度天涯の真上、此処から投げ棄てれば二度と城には戻れぬでしょうねぇ。』
(え、え、どういうこと!?何か外で女の人がぶつぶつ言って…)
ふわっとした浮遊感は一瞬で…
『さようなら、名無しの子』
(え゛え゛ぇぇーーーちょっ、誰か説明してーーー!!




