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14.救命救急24時


先程までの喧騒が嘘かのように…

ピンと張り詰めた空気。


カタカタと小刻みに震えながら、手足をぎゅっと縮こまらせて苦しそうな吐息を吐く、意識の無い波瑠をかかえ…治癒師のもとへ疾走するアイギスとその後を追う2人(ヨグとラクザ)


『星詠み殿、どれぐらいの猶予がある!?』

『判らぬ!!尋常の幼子ならばルバーブ半粒で昏睡し、五分五分で嘆きの川(アケロン)を渡るのじゃ!それを2粒じゃぞ!!』

『そんな………っ!!』


ヨグの容赦ない言葉に絶句するラクザ。

そんな2人を見向きもせずただひた走っていたアイギスが叫ぶ。


『!!ウダウダ言ってんじゃねぇ!!!それより()()()治癒師(ガンウェイン)とこに連れていかねぇと!!』

『是!正しくその通りよ!!過ぎた事は幾ら言葉を尽くそうが戻らぬ!狗っころ!吾らはおいて疾く行け!!【鍵よ!全なる門よ!彼の者の時を閉ざせ!】』

『っ、アイギス!!』

『応!!!!!!シルフよ!我が身を疾風に(ウェルテクス)!!』


できる限りの補助魔法(バフ)を即座にかけ走り去るアイギス。


(子の内腑(ないふ)の時を一時的に止めたが…間に合うか…)

『星詠み殿、今のは…』

『付け焼き刃やもしれぬが、子の身の内の時を止めた。じゃが…どれ程効果があるかは判らぬ。』

『……っ。』

『吾らも疾く追うぞ。』

『……承知!』


※※※※※※※※※



『先生、そろそろお休みになられては…』

『後この薬草だけ煎じたら上がるから、心配はいらんよ。君達は先に休みなさい。』


夜半を過ぎれば、あれ程騒がしかった傭兵団の駐屯地(ベース)も…昼の喧騒が嘘か幻かのように夜の静寂(しじま)に沈む。


団員の病や怪我を癒す治癒師や薬師たちも本日の仕事を終え、各人それぞれが与えられた天幕に引き上げはじめていた。


『わかりました。ではまた明日。』

『先生もご無理はなさらないでくださいね。』


1人、また1人と…「先生」と呼ばれた人物に声をかけ、天幕を後にする人々。


()()

駐屯地(ベース)の治癒師たちを束ねる、筆頭治癒師・ガンウェインは固まった関節をバキバキと鳴らしながら天幕を去る皆の1日の労をねぎらう。


『あぁ、わかっているよ。皆今日もよく頑張ってくれた。ありがとう、ゆっくり休んでくれ。』


そうして普段と変わらぬ仕事を終えようとしたのだが…


(?何かやり残した事があったか…?何だこの違和感は。)


何気なく目に留まった薬戸棚、その中にある調合に必要な薬草の過不足が…今に限って何故か()()()気になった。


『む、フラッガ。』

『はい、如何されましたか?』

『休めと言った後ですまないが…苦蓬(アルティメス)の在庫だけ確認しておいてくれるか?』


そこで、丁度最後に天幕を出ようとしたフラッガという名の若い精霊人(エルフ)の薬師に薬草の在庫の確認を依頼する。


『畏まりました。確認して参ります。』

『あぁ、すまないな。』

『いえ、この程度何時でもお申し付けください。』


呼び止められたフラッガは嫌な顔一つせずに、

薬草の在庫を確かめに行き、差程時間を要さずに天幕に戻ってきた。


『ガンウェイン先生、苦蓬(アルティメス)は充分にありましたが、強壮の根(ドンナ)が少し不足しているようです。』

『そうか、では明日森に採取にいかねばならなそうだな?他に不足は?』

『今のところ薬の原料の過不足はそのぐらいです。魔法薬(ポーション)類は不足がかなりでていますが…』

魔法薬(ポーション)は…最初(はな)から不足しいているからな…よし、その辺りは団長にも相談しておこう。』

『そうですね。何かあってからでは遅いでしょうし…』

『あぁ、フラッガ、ありがとう。呼び止めて済まなかった。』

『そんな、お役に立てたのであれば幸いです。』


そうして2人で薬品類の在庫について軽い談義を交わし、今日の仕事は終わったとばかりにその場を離れようとしたのだが…


『―――っつ!!ガンウェイン!!!』

『?何だ?どうした?』

『!!?え、あ、アイギス殿?』


まるで嵐の暴風を直にうけたかのような…

とんでもない勢いで天幕の入り口が捲れ上がり、息をきらしたアイギスが何かを抱えて駆け込んできたのだ。


そして開口一番………


『頼む、()()()を!!!この子を診てくれ!!!』


と、突拍子もない事を叫ぶ。


普段は火が降ろうが矢が降ろうが...多少のことでは動じない、良く言えば(おおらか)、悪く言うなら大雑把なアイギスが…錯乱に近い状態に陥っているのだ。


『(何をそんなに…?)、パール?また騎獣か何かを拾ったのか…アイギス。』

『っっつ、騎獣じゃねぇ!!早く、とにかく、診てやってくれ!頼む!!此のままじゃ死んじまう!』

『?、良くわからんが…先ず落ち着け、深呼吸を…『いいから!!早く!血を吐いたんだよ!!』……。』


ガンウェインが落ち着かせようとするも、その声に被せるように叫びたおすアイギス。


『(相当焦っているようだな…)、…アイギス、叫ばずとも話は聞こえている。お前が冷静にならねば、そのままでは状況も判らんし、助けも出来んぞ。()()()()()()()()?』


静かに告げるガンウェインの言葉を聞いてハッと正気に返り…


『………っ、此の子を…診てやって欲しい。……………食っちまったんだよ……………


……………()()()()を…………』

『?』

『ルバーブ…………?』


深刻にアイギスの口から放たれた言葉で…より状況が判らなくなったのであった。

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