13.父二人、子(?)ひとり。
本日から1話ずつの更新となります。
総じて…
ウルスラで「りゅう種」と言えば圧倒的に「竜種」を指す事が多い。
それは大戦後、三國統治時代の一強、天統べる覇者となった竜神族の祖が竜、つまりドラゴンであり、その血を継ぐ氏族を総称して種族名としたからである。
竜は大翼に頑丈な鎧状の鱗を持ち、美しい曲線を描く角が各個体の力の大きさを示す。
その竜を祖にもつ氏族、竜神族も、そこから分岐した竜氏族も同様に「血の力」が強ければ容姿に、竜に近い要素が発現するのだ。
容姿ばかりではない、竜は伴侶たる番を至上とし、仔を本能的に慈しみ護り、育てる性質が強い。
何が言いたいかと言うと…
『ほら、ちゃんとブランケットを掛けろ。』
『ぱるぱるぅ。(いや、そんなに寒くないです)』
『ダメじゃないか、そんなに端にいると落ちて怪我をするぞ。』
『るぅ、ぱぁるぅ(人様の寝台で大の字になれません…)』
『もう少ししたら水が来るからな。』
『ぱるぱるぅ、るるるぅ(お手数をおかけします)』
『ほら、冷たい水だぞ。うん、コップに傷はないな、気をつけて飲め。』
『るぅ、ぱるぅ。(いや、自分で飲めます。)』
ラグザの過保護が発動した。
基本的に普段はヨグがラグザを竜もどきと呼ぶように、ある理由からその容姿、言動に「竜」たる性質は一切感知出来ない。唯一片鱗を感じるとすれば、体格の良さとその尋常ならぬ膂力であろう。
そのラグザが…
先程までアイギスの行動を醒めた目で見、波瑠を森に帰せと言い放った男が。
『腹は減っていないか?ほら、ルバーブの実がある。食べると良い。』
『ぱぁる、ぱるぅ(あの、寝台で食事はちょっと…)』
『大丈夫だ、外の外皮はこうやって剥いて…丁度ルバーブの時期だから美味いはずだ。ほら、あーん。』
『ぱ、ぱるぅ、(え、あ、)むぐぅ…』
『美味いか?』
男所帯で子供、ましてや幼子の世話などしたこともないあの団長が、手指が汚れるのも厭わず、ルバーブの実を剥いて手ずから波瑠に与えているのだ。
明日は矢か雷が降るのではなかろうか…
天幕を訪ね波瑠の仔細を伝えた後は空気と化していたヨグが、半ば呆れながらその様子を見、いやに静かなアイギスの隣に並ぶ。
『………………、うむ。
ちと認識を改めねばならぬの。あれでは竜もどきではなく、子守竜よ。なぁ、狗っころ。ん?どうした?狗っころ。』
先程から急に沈黙したアイギスを訝しみ、視線を横に向けたところ…
『――――っ、あれは俺の子だ!!』
『……何を言うておるのだ、ヌシは…』
『パールは俺が育てる!!俺が父親だ!!絨毯だっていくらでも買ってやるし、美味いものだって鱈腹食わしてやる!』
どうやら、ラクザが波瑠を構い倒しているのを見て育児モードに火が着き父性が爆発したようだ。
『はぁ…ヌシは…狗っころよ、龍の子は北辰の龍の子だと吾が言うたであろう。ラグザの子でもなければ、無論ヌシの子でもない。』
『~~~~~ぅヴ、ヴヴヴぅ、』
『唸るでないわ。先に言うたように、何ぞ理由あって落ちたのだろうよ。百歩譲って仮親にはなれようが、真実親となるは望むべくも無いことぞ。』
『………っ…………俺が先に拾ったんだぞ!!』
何時になく強硬な態度のアイギスに溜め息をつく。
『良いか、彼の子は物ではない。ヌシの好む騎獣でもなければ、ラクザの子でもない。理由は判らねど身一つで父も母もなく見知らぬ土地に落ちた哀れな幼子ぞ。ヌシ等がその身の所有を諍うて何とする。』
『………っ。』
『何も構うなと言っておるのでは無い。在るべき場所に帰るまで、皆で慈しんでやれば良いこと……ホレ、ラクザの食べさせ方が悪かったのじゃろ、子の口がルバーブまみれよ。拭きに行ってやれ、狗っころ。』
ヨグの言葉に弾かれたように頭を上げるアイギス。
『…っ、応!』
(愛され喚ばれた故の力か…)
手巾を片手に、波瑠のいる寝台のもとに走り寄るアイギスの後姿は正しく子を心配する父親の如しで…
(この調子であれば、これから自称親兄弟から祖父母まで大量に増えそうじゃの…)
その中にヨグ自身も含まれるようになる事は…腕利きの星詠みですら未だ知らない。
【ルバーブ】
糖度の高い地球の葡萄に似た房状の果物。
口当たりが良く、栄養価も高いため人気がある。
ラグザ、過保護発動で矢鱈と波瑠を構いはじめるものの…小さなお子さま(波瑠)にはたして初見の果物を食べさせて良いのでしょうか…
A.後にわかるじゃろ byヨグ