12.いえ、お金は大事につかって下さい。
ポフ、ポフ、ポフっ、ポフ。
歩く度に、足をふっかりと包む絨毯の柔かさ…
ポフ、ポフ、ペフ、ポフ。
何より、踏みしめる度にくっきり、判を押したかのように同様の形で並ぶ足跡の面白い事。
現状確認は忘れ去られて…
『ぱぁる、ぱるるぅ(はぁ~満足。)』
ふかふか絨毯を思う存分堪能した波瑠だった。
が、ふと気付く。
先程までの巨人2人の喧騒が静まっている事に。
アレだけ派手に言い争いを続けていたのに、いつの間にか諍い合う声がしないのだ。
(あれ?…無音?)
やっとその事に気付き、恐る恐る周りを見回そうとして…
『(??!)ぱるっ!!?(ちかっ!!?)』
アイギスとラグザがかなり近距離にいた事にびびりたおし、あまりの近さに後退ろうとしたのだったが、後退はかなわず、急に床面から足が離れ、体が空に浮き上がった。
(え?)
『~~~っ。絨毯が好きか?パパが沢山買ってやるぞ!何色のにすっかな?ハハハ!駐屯地の中一杯に敷いてやるからな!!』
体が浮き上がったのはアイギスに抱え上げられたせいで、再度の高い高いに回転木馬機能が追加(?)され、くるくると空中で回されている。
『ぱ、ぱるぅ(あ、あの)』
『天幕のはギリア産だろ、ふかふかが好きならキールの真綿羊のもいいな!毛足の長さならヒルヤの高山兎も、サハールの長耳狐もふわふわだぞ~!商隊を直ぐ呼んでやるから好きなのを買おうな!』
『ぱるぱるぅ。(いえ、あの)ぱぱるぅ(そ、そんなに絨毯は…)』
『大丈夫だぞ~金の心配はしなくても!好きなものを買ってやるからな!!』
『ぱるぱる(いや、いやアナタ)、ぱるるぅ(何そのキャバクラのお姉様に貢ぐおじさま発言)!』
『ハハハハ!嬉しいか?そうか~早く商隊呼ぼうな~!!』
『ぱるるぅ、(ちょっ、)………ぱ、ぱるう(止まっ)……『ハハハハハハハハ!』』
るるるるるぅ(止まってくださ―――)―――
暴走したアイギス再来である。
※※※※※※※※※※
『やめんか、馬鹿者。』
いつぞや、というか先刻ぶりの状況にデジャヴを感じながら、振り回されていた波瑠、もとい龍の子をアイギスの手から救出したラグザ。
くるくると回されて酔ったのか、抱えた龍の子の目が心なしか淀んでいる。
『度々すまぬな…龍の子…その、盥は必要か?』
1度目で悲惨な状態となったので、気分の悪そうな波瑠の背をさすってやりながらアイギスの無礼を詫びる。
『ぱぁる、うるるぅ(い、いえオカマイナク)…
ぅるる(うっぷ)。』
『まだ気分が悪そうだな…水を持ってこさせよう。それまで寝台で休むか?』
『ぱるぅ…ぱぁるぅ(本当に…大丈夫なので)』
『心配するな、寝台もふかふかにしておいてやろう。』
『ぱる、ぱるぅ(いや、そういう事を言っているわけでは…)』
絶妙に会話(?)は噛み合っていないが、大変に気遣ってくれている事はわかる。
(仕方ない…ここはお言葉に甘えますか…)
『ぱぁる、ぱるる(では寝台をおかりします)』
『よいのだ、ゆっくり休むがいい。』
そう言って軽々と波瑠を抱えながら寝台に運んでゆく姿こそ父親のようである。
アイギスとは格が違う。
閑話休題。
天幕であるから寝台までの距離は差程なく。
それでも気分の優れない波瑠を揺らさぬように慎重に運んでくれるラクザに礼を言う波瑠。
『ぱるぅるぅ(ありがとうございます)』
『気にするな。』
そして…ふと思い至る、
(あれ?そういえばわたしの体、結局どうなったの?)
今更の話であった。
【ギリア産の緞通】
エメンタール種の羊毛の内側の毛のみを使用して織られる絨毯。毛足が長く、王宮にも献上される高級品。優れた断熱性、衝撃吸収性を持つ。
【キールの真綿羊】
特殊な環境で飼育される希少種の羊。
雲のように軽く、極上の手触りの純白の高級羊毛を産出する。
【ヒルヤの高山兎】
標高1000メルテクラスの高山帯にのみ生息する兎。採取が困難で一般市場に出回る事はめったにない。
【サハールの長耳狐】
砂漠の国サハール原産の美しく厚みのある青い毛並みを持った狐。水の加護があり、触れるとひんやりと冷たい。三國の条約で狩猟が制限されている。
…といった感じで、すべて高級品。
ナゾ生物(波瑠)が可愛すぎて、何でも貢ぐマンになりさがったアイギス。貯蓄はたっぷりあるらしい(笑)