10.救世主(メシア)の皮を被った悪魔
アイギスを退出させようとしたらヨグが天幕に来てしまった。
………………………はぁ………。(何と間の悪い…)』
思わず肩を落とし、大きなため息が出るのはむべなるかな…波瑠をアイギスに渡すタイミングも逃し、腕にぶら下げたままヨグに対面する。
『如何な要件か?星詠み殿。』
間の悪さにやや語気も荒くなろうもの。
『そう邪険にせずともよかろう。ラグザ。』
『いや、貴方を邪険にした訳ではないのだが…』
やや杜撰になった対応を軽く咎められ、思わず言い訳めいたものが口を衝く。
そんなラグザの様子などお構い無しにヨグが口を開いた。
『わかっておるよ。ヌシが森へ帰せと言うた…そこな狗っころが拾うてきたそれ、その手の生き物じゃがな、』
『このナゾ生物が何か?』
『フハ、その持ち方はどうかと思うが、そう、その手におる仔よ。』
高い高いから解放されたは良いものの、そのままラグザにぶらり、と脇に手を差し込まれ、抱えられたままの状態の波瑠の前に音もなく近づいたヨグ。
突然現れた上に、予備動作なく波瑠の目の前に来た体格の良い巨人な老人。
(え、また知らない人?!)
新たな巨人(といっても先の2人よりはやや小さいが)の登場に目を瞬かせる。
『?る?(?見られてる?)』
『おぉ!円らな目よ。左様に目を見開けば転がり落ちそうよな。いや、その目…この爺がわかるか?』
『ぱるぅ?(いや、誰ですかアナタ?)』
『ふむ、見える、が、わからぬか。』
目を覗き込むように話しかけられたが、話の内容はとんと理解出来ず―
『ぱるぱるぅ(あの、申し訳ないのですが)、るぅるぅ(存じ上げません…)』
異文化交流の難しさを体感しただけであった。
※※※※※※※※※※
『(やはり、鍵も持たず門を開いたか…)―――まぁ良かろう。』
良くわからない問いかけに目を白黒させていた波瑠の前から少し離れたヨグ。
そのヨグを険しい顔で見つめるラグザと(波瑠を飼育できる可能性が出てきた)期待に目を輝かせるアイギス。
(よし、じじい。このままラグザに「育ててよし」と言え!!)
『…(アイギス、思った事が全て顔に出ているな…)…星詠み殿、で、この生き物は…?』
波瑠に急に話しかけたかと思えば沈黙するヨグを訝しみながらも答えをラクザが問う。
『ふむ、』
問われた当のヨグは2人の様子には気にも留めず、スイ、と腕を擡げたかと思えば、波瑠を指し示し…
差程重要とも思えぬ軽い調子で
『なに、この仔は「桓雄」…………
…………北辰を司る偉大なる龍の仔よ。』
特大の爆弾発言をぶちかました。
『!!なっ!!』
『え、それ騎獣じゃねぇのか!!?』
『(?え?今度は何?)るぅ?』
片やあり得ない事象に驚愕し目を見開くラグザ、片や別の意味(騎獣ではなかった)で驚愕するアイギス。
(これ程愉快な事はなし。)
腹の底から笑いがこみ上げ…
『フハハハ、愉快、愉快。実に愉快。三國一の傭兵団の長であるヌシでさえ知り得なんだか。そうよ、そこな生き物は……
かの北の果て、天涯より尚高き天空の城、煬帝城の御座所に座する龍族の幼体。
………なんぞ故あって空から落ちてきたようじゃな。』
どうも今回も厄介事が舞い込んだ、らしい。