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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

この気持ちを伝えたい

ボーイズラブandハッピーエンドです。

「好き」

少し長めの髪。サラサラと真っ直ぐで触りたくなる。ニキビひとつない、綺麗な肌。爪の形はアーモンドみたい、色は桜貝かな?、、、。

 いつも見てばかりいた。机に座っているだけなのに、絵になるし、何をしてもカッコいいなって思っていた。ただ見るだけで良かったのに、何が起きているんだろう、、、?

「罰ゲームなの?」

山田くんが固まった。

「それとも、誰かと賭けたとか?」

「、、、一緒に帰ってもいい?」

「う、うん」

その日から、放課後は毎日一緒に帰る事になった。山田くんは口数が少ない。僕は友達が少ない。

 2人でいてもあまり会話は無い、僕はそれで十分だけど、山田くんはそれでいいのかな?

「放課後、一緒に勉強しない?」

「放課後?」

「早く帰って、やりたい事とかあるの?」

「得に無いけど、、、」

僕の成績はクラスで1番最後か2番目だった。この高校の偏差値もギリギリで、入試の時は奇跡が起きたんだと思った。

 だから、1年生の時から学年順位も下の下。塾にも通ってないし、毎日勉強している訳でも無い。一緒に勉強してくれるなら寧ろ有り難かった。

 僕達は放課後、学校の学習室で毎日勉強した。勉強する習慣が無かった僕は、長い時間勉強する事が出来なくて、慣れるまで大変だった。

 山田くんがスマホのアプリでゲームみたいに勉強出来るのを教えてくれたり、簡単な問題集を貸してくれたので何とか続ける事が出来た。

 学習室は6時半で閉まる。ホームルームが終わると2人で学習室に席を取りに行き、荷物を置く。それから、自販機でジュースと軽食を買って食べる。

 うちの学校は学習室で飲食しても怒られない。ゴミをちゃんと捨てればいいんだ。

 僕の成績は少しずつ上がっていった。今までテストの見直しなんてしなかったけど、テストが返って来ると、山田くんが必ず一緒に見直しをしてくれた。

 山田くんはいつも静かで、僕がわからなくて困っていると、ちょっと身体を寄せてノートを見て来る。肩が当たって、山田くんのシャンプーの匂いが微かにすると、ドキドキした。

 学習室での勉強が、半年程続くと僕にも勉強する習慣が着くようになった。いつも学習室に寄った後は帰るだけだったのに、本屋に行って一緒に問題集を選んだり、たまにお小遣いを多く貰った時はファストフード店に寄るようになった。僕達の毎日はそんな感じだった。



「手紙?」

朝、登校すると山田くんの下駄箱に手紙が入っていたらしい。山田くんは見せびらかすタイプでは無い。

「うん、放課後話しがしたいって」

いつもの様に学習室に行こうとしたら言われた。

「じゃあ、学習室に行ってるよ。席を取っておけばいい?」

「そうして貰えると助かる」

「荷物、持って行こうか?席取るのに置いておくよ」

「重いけど、平気?」

「大丈夫、大丈夫」

そして、僕は2人分のやたら重たいリュックを持って、学習室へ行った。



 山田くんはなかなか学習室に来なかった。僕は集中力が続かなくて、アプリを開いても、問題が解けないし、ノートを開いても頬杖をついて呆けていた。

「ただいま」

と言って山田くんが、僕の机にジュースを置いた。

 山田くんの顔を見たら疲れた顔をしていた。山田くんはため息をきながら椅子を引いた。僕の肩を2回、ポンポンと叩くと

「勉強しよ、、、」

と言った。



*****



 入学式の日、新しい教室で通路を挟んで隣に座ったのが福山だった。

 初日で、みんな何となく緊張している教室。福山と目が合った。福山は、ちょっとお辞儀をした。

 綺麗な瞳だった。二重で、白眼と黒眼がハッキリと別れていて、ずっと見ていたくなる。髪から出た、耳の形も綺麗だった。耳から首筋まで、細くて華奢な感じがする。

 可愛いな、、、と思った。



 ある日気が付いた、福山も俺を見ている事に。視線の端に入って来る福山は、俺を見ていると思う。

 最初は、俺の自惚れだと思った。目が合う事は無い、多分、俺が意識しているから気が付いたんだろう。いつも長い時間では無い、ホンの数秒、長くて数十秒だと思う。

 気の所為かと思ったけど、やっぱり見ていると思う。俺は放課後、偶然2人きりになった時に思いを告げた。

「福山、好き」

「罰ゲームなの?」

俺は固まった。

「それとも、誰かと賭けたとか?」

福山は、恋愛偏差値が低いのかも知れない。こうなったら、時間を掛けて福山を落とす事にする。

「、、、一緒に帰ってもいい?」

「う、うん」

取り敢えず、2人きりの時間をキープしよう。

 放課後は毎日一緒に帰るようにした。それから学習室を使って勉強をしようと提案して、少しずつ距離を詰める。

 放課後は、一緒に過ごすのが当然だと感じるようになった頃、俺の下駄箱に小さな手紙が入っていた。

 知らない女の名前だった。無視しようかとも考えたけど、何度も手紙が来ても面倒だから断りに行く事にした。

 福山は先に学習室に行っていると言う。重たい荷物を持って行くと言ってくれて、良いヤツだなと思った。

 指定された場所に行くと、やっぱり知らない女だった。リボンの色が2年生のだったから、

(年上かよ)

と毒付いた。俺の姿を見つけると嬉しそうだった。俺には関係ない。内容はわかっているのに

「何ですか?」  

と聞く。

「ね、付き合わない?」

(は?)

「山田くん、カッコ良いからさ、彼氏になって欲しいんだ」

「顔ですか?」

「まさか!顔だけじゃないよ!スタイルも良いし、全てが完璧!私と並んだらお似合いだと思うんだよね!」

(なんだそれ、、、)

「随分自信があるんですね」

「だって、私可愛いもん」

確かに顔は可愛い。小さい身体に、ムネは大きい方だ。ウエストもキュッとくびれているし、脚のラインも綺麗だと思う。足首も細いし、スニーカーソックスから出たくるぶしも綺麗だった。

 でも、自分に自信があり過ぎるのは、俺のタイプでは無かった。

「そんなに、可愛いなら俺じゃなくても良いでしょ?」

と言うと。

「なんで?山田くんが良いんだよ。付き合おうよぉ」

手が伸びて来て、腕を組もうとする。俺は肘を後ろに引き、避ける。

「もぉ!意地悪しないでよぉ」

嬉しそうにはしゃいでいる。何が嬉しいのか、わからない。確かに顔もスタイルも良いけど、このキャピキャピした感じがうるさい。

「俺、勉強に集中したいんです。だから、誰かと付き合うとか考えられません」 

「勉強?それなら私が教えるよ。一緒に勉強しようよ!」

冗談だろ?勘弁してくれ、、、。やっと福山と2人きりの時間を作れるようになったのに、何であんたと過ごさないといけないんだ。

「俺、年上はダメなんです」

「大丈夫だょ。私、ベビーフェイスだから、付き合ったら年上なんて忘れちゃうよ!」

「、、、はぁ、、、いい加減にして下さい。俺、あんたみたいにうるさい女、苦手なんです、、、」

俺は、本来こんな性格だ。高校に入ってから、性格を直したくて頑張って来ただけだ。

 ただ、福山といる時は、アイツがおっとりしている所為か、のんびりしている所為か俺自身も落ち着いている。

「えぇ〜!付き合ったら私の事、絶対好きになると思うよ!ね!付き合おうよぉ!」

「ホント、しつこい女だな、俺はイヤだって言ってるんだよ」

俺は話しの通じない女を置いて、学習室へ向かった。



 話の通じない女と話すのは、本当に疲れる。自販機で水を買う。ついでに福山を待たせているから、ジュースを1本買う。

 学習室に行くと、福山が頬杖を付いてぼぉっとしていた。珍しいな、と思いながら

「ただいま」

机にジュースを置く。なんだかすごく疲れて、ため息が出た。



*****



 山田くんのお陰で、僕の成績は山田くんと同じ大学に行ける位になった。学部は違うけど、キャンパスは同じだった。

 山田くんと2人で両方の親を説得して、一つのアパートに同居出来る事になった。小さい小さいアパートだったけど、僕は山田くんが好きだったから嬉しかった。

 山田くんは先に引っ越しを済ませていて、カーテンとか電化製品とか揃えてくれていた。

 電化製品と言っても、一人暮らし用の電子レンジ、洗濯機、冷蔵庫で、うちの親はこのアパートを借りる時の初期費用を出してくれた。

 


 山田くんには意外な一面があった。それは料理が壊滅的だった事だ。

 とにかく、包丁が、、、。野菜の皮を剥いたら、大サイズのじゃがいもが小サイズになった。人参も立派な人参がひ弱な人参になった。玉ねぎは、皮をどこまで剥いたらいいかわからなかったらしく、エンドレスで剥いていた。

「山田くん、、、僕、作ろうか?」

「大丈夫、、、ここまで来たら、後は水を入れてルーを入れるだけだから」

僕は大人しく待っていた。

「あっ!、、、スイッチ、、、」

「どうしたの?」

「炊飯器のスイッチ、押して無い、、、」

山田くんが悲しそうな顔をしている。

「大丈夫だよ。今からスイッチ入れよう」

「でも1時間位掛かっちゃうよ」

「1時間なんてすぐだよ」

と言って、炊飯のボタンを押す。

「せっかく、福山が来た日だから完璧にしたかったのに、、、」

「ありがとう。でも、僕はいつもと違う山田くんを見られて良かったよ」



*****



「福山、、、」

冷蔵庫を開けながら、名前を呼ばれた。

「?」

見に行くと、コーヒーカップがソーサーごと冷蔵庫の真ん中にあった。

「ごめん」

「いいよ」

山田くんが笑いながら言う。僕はよく、こんな失敗をする。

 食器棚にしまったハズが冷蔵庫にしまったんだ。他にも、電子レンジの中に、チューブの生姜が入っていたり、洗ったもやしを洗面所に置き忘れて放置したり、おかずの残りを食器棚にしまったりする。度々やるから悲しくなる。

「課題が大変だった?」

山田くんが心配してくれた。

 本当は違う。同じ学部の女の子に、山田くんを紹介してくれって言われたんだ。僕は一度断ったのに、無理矢理手紙を押し付けられてしまった。

「どうしたの?」

山田くんが気にしてくれた。言うなら今しか無いと思って

「同じ学部の子から、手紙を預かってて、、、」

山田くんが僕を見た。

「あの、、、一度は、ちゃんと断ったんだ、、、。でも、渡すだけでいいからって、無理矢理押し付けられて、、、。ごめん」

「いいよ、断れなかったんでしょ?」

「うん、、、」

「持っておいで、、、」

言われて、僕は鞄から手紙を出すと、山田くんに渡した。山田くんは封も開けずに言った。

「もし、俺がこの子と付き合ったらどうする?」

「え、、、?」

「そう言う事もあり得るよね?手紙を受け取って、読んで、本人に会って、気に入るかも知れないでしょ?」

「そ、、、うだよね、、、。えっと、山田くんが気に入って、付き合うなら、、、それは、、、」

「わかった」

(わかった?わかったってなんだろう、、、) 

僕は山田くんの顔を見た。山田くんはにっこり笑って、手紙を自分の鞄にしまった。



 それから山田くんはあまり喋らなくなった。今までも、口数は少ない方だったけど、、、。

 僕達の食事は、朝は自由だった。起きる時間も違うから。

 山田くんの朝は、卵かけご飯が多い。明太子を入れたり、ふりかけを掛けたりするのが好きみたいだ。僕は食パンにバターを塗って食べている。

 山田くんは最近、朝ご飯を食べていない。食器を使った形跡が無いからわかるんだ。

 そう言えば、あの手紙の返事どうしたのかな?付き合う事にしたのかな?

 大学の帰りに買い出しをする。予算内で済ませるのはなかなか難しいけど、山田くんは僕の作るご飯に文句を言った事が無い。

 僕の作る晩御飯は、丼が多い。肉を焼いて、少しの野菜と一緒にお米の上に乗せる。

 たまに、半熟玉子とかもトッピングするけど、基本はこんな感じ。肉が鶏肉だったり、豚肉だったり、たまにはハンバーグを乗せたりする。

 僕は山田くんが、あの手紙の返事をしたのか気になって仕方が無かった。

 玉ねぎをみじん切りにしていた時、失敗して左の人差し指の第二関節を切ってしまった。すぐに流水で傷口を流す。最初は痛くなかったのに、次第に痛くなって来た。

 救急箱代わりの箱を取り出して、絆創膏を探す。玄関の鍵が開く音がして、振り向いた。

「福山?」

僕が救急箱を開けていたから、山田くんはびっくりして慌てて靴を脱いだ。

「怪我したのか?」

「あの、、、大丈夫だよ!」

「だって、血が、、、」

山田くんはティッシュを持って来て、傷口に消毒液を掛けてくれた。それから、優しく絆創膏を巻いてくれる。

 僕は山田くんの手を見ながら、相変わらず綺麗な手だなと思った。

「あのさ、手紙の返事したの?」 

いつもなら個人的な事だから、聞かないようにしていたけど、今日は聞いてしまった。

「あ〜、、、してない」

(良かった、、、)

「実は、読んでもいない」

「え?読んで無いの?」

「読んで無い。どうせ、付き合わないのに読んでも仕方が無いから」

「そっか、、、」

僕は安心したと同時に、山田くんは誰とも付き合う気がないのかと不安に思った。

「俺も聞きたい事、あるんだけど、、、いいかな?」

「うん」

「俺、ずっと福山の事好きだったんだけど、気付いてないのかな?」

「え?」

「だよね、、、。そうじゃ無かったら、あんな手紙預かって来ないもんな、、、」

「ごめん、、、」

「いいよ」

と言いながら、山田くんは僕の頬を触ろうとした。でも、触りそうな距離で手を止めて

「ごめん」

と謝った。

「あの、、、」 

「ん?」

「あの、、、」

(僕も好きなんだ、、、)

山田くんは、僕が緊張して言いたい事が言えない時、いつも待ってくれる。

「あのね!名前で呼んでもいい?」

「ふはっ!」

(僕も好き、って言ってくれるのかと思ったのに福山らしいな)

「?」

「いいよ、俺も暖人って呼んでいい?」

「うん、光弘くん」

「ミツでも、みっちゃんでも良いよ」

「家族にはなんて呼ばれるの?」

「親父は光弘で、母さんはミツって呼んでる」

「じゃあ、みっちゃんにしようかな、、、」

暖人はふふっと嬉しそうに笑った。



*****



 みっちゃんに好きって言われた。僕は嬉しいのに、自分の気持ちを伝えられなかった事が、悔しかった。  

 みじん切りの続きを切って、ボールに入れる。お米のスイッチはさっき押したから大丈夫。サラダも先に作ってある。

 パン粉と卵、牛乳を入れて塩と胡椒を振る。合い挽き肉を入れて、もう一度塩と胡椒を振って、よく捏ねる。

 後は焼くだけ。

「ハンバーグ?」

「うん、挽き肉が安くなってたから。すぐ食べるし、助かったよ」

みっちゃんがすぐ近くにいる。

 でも、ちょっと距離がある。さっき絆創膏を貼ってくれた時は、すごく近くてドキドキしたのに。

「絆創膏してるけど、平気?」

「左手だから、大丈夫だよ。すぐ焼くから待っててね。あ、大きいの1つと小さいの2つ、どっちが良い?」

「大きいのが良いな」

みっちゃんが嬉しそうに笑った。

 フライパンに油を引いて、形を整えたハンバーグの生地を2つ乗せる。手を洗ってからガスに火をつけて弱火にする。

 蓋をしてゆっくり待つんだ。

「暖人、絆創膏替えよう」

さっき手を洗ったから、気にしてくれたみたいだった。

「ありがとう」

絆創膏を剥がすと、みっちゃんが絆創膏を巻いてくれた。

「今日は、洗い物全部やるから」

「みっちゃん、、、」

(今。今、言わないと)

「ハンバーグ、ひっくり返さないの?」

「わぁ!」

僕は急いで蓋を開けて、ハンバーグを2つひっくり返す。

「セーフ!」

なかなか好きって伝えるタイミングが無くて困ったな。

 みっちゃんは絆創膏のゴミを捨てに行ってしまった。

 ハンバーグをフライ返しで抑えて、肉汁が透明になったのを確認する。

 ちょっと前に炊けたご飯を丼に装り、サラダを乗せる。ハンバーグを乗せて、空いたフライパンに酒とソースとケチャップを入れてハンバーグに掛けるソースを作る。良い匂いがして来た。

 ハンバーグにソースを乗せて、完成!お箸と一緒にみっちゃんの前に置く。

「美味そう」

「どうぞ」

僕は2人分の水を運んでから、自分の分を運ぶ。

「食べよう」

「頂きます」

みっちゃんはいつも両手を合わせて言う。

「頂きます」

「美味い!」

みっちゃんの顔を見てるだけで、嬉しくなる。


 ハンバーグ丼は、すぐに空になりみっちゃんが2人分の片付けをしてくれた。

 僕はキッチンに立つみっちゃんの後ろでウロウロしていた。

「ちゃんと洗えるか、監視してる?」」

みっちゃんが笑う。

(違うよ、タイミングを測ってるんだよ)

みっちゃんが洗い物を終えて、手を洗う。僕は

「えいっ!」

と声を掛けて、みっちゃんの後ろから抱き付く。

「暖人?」

「みっちゃん、、、僕も好きです」

「え?今?。今、言うの?」

みっちゃんが笑う。僕はみっちゃんにピッタリくっついた。頬に当たるみっちゃんの身体が、大きくて安心する。

「ちゃんと伝えたかったから、、、、。でも、顔を見られると恥ずかしいし、これなら、顔が見えないから、、、」

みっちゃんの背中は安心する。

「みっちゃんの事、好きだなぁ〜」

みっちゃんは、後ろから回した僕の手をポンポンと叩いて、両手で包んでくれた。

「俺も暖人の事、好きだなぁ〜」

みっちゃんが僕の言い方をマネしたから、2人で大笑いした。



*****



 最近気付いた事なんだけど、僕とみっちゃんはキスどころか、手を繋いだ事も無い、、、。

 今朝、布団の中で突然気が付いてしまった。僕は、みっちゃんから先に好きと言ってくれたから、僕から先に手を繋ごうと思いついた。

 出来れば、キスだって僕から先にしたい、、、。

 そう思ってから、すでに3日が経ってしまった。みっちゃんは相変わらず、朝ごはんを食べていない。

 朝一の授業を取っている日もあるし、2限から始まる日も早く学校に行って、勉強しているそうだ。

 僕は今年はまだ、慣れないから1限の授業を外した。洗濯をしてから出たかったからだ。生活のリズムが整えば1限からの授業も出られると思うから、来年の授業は1限から入れるかも知れない。

 僕とみっちゃんの行動範囲は家と大学とスーパー位で、思えばデートもした事が無かった。

「バイト、しようかな、、、」



「バイト?」

「うん、ちょっとお小遣い増やしたいな、って、、、」

「俺は止めないけど、大丈夫?洗濯と料理もしてくれてるし、課題とかもあるでしょ?」

「うん、早く帰れる日に少しだけやってみようと思うんだ」

「ファストフード店とかなら、学生も多いし、試験の時は休ませてくれるらしいよ。時間も短くてもいいみたいだし」

「そうなんだ、考えてみるよ」

僕は早速、近所のファストフード店を調べた、週に4日、2時間で働きたいと言ったら、すぐ面接になった。


 僕は相変わらず、みっちゃんと手を繋ぎたくて、チャンスを探している。でも、家の中ではなかなかチャンスが来ない。いつもみっちゃんの手を見つめてばかりいる。



*****



 暖人の様子がおかしい。急にバイトをしたいと言って、何か考え込んでいる。なんだろう、、、。



*****



「みっちゃん、バイト決まったよ。明日から行く事になったんだ、だから、帰りが遅くなる事もあるけど、ご飯はちゃんと作るからね」

「暖人、無理しないで」

僕は、初めてのお給料でみっちゃんをデートに誘って、絶対に手を繋ぐと決めた。

 お給料は15日に締め日があって、25日に口座に振り込まれるらしい。今月は15日が過ぎたばかりだから、ほぼ1ヶ月分のお給料が来月の25日にもらえる。

 みっちゃんをデートに誘わないと!

「みっちゃん、、、来月の月末なんだけど、、、」

「ん?」

みっちゃんが、スマホから視線を外し、こっちを見てくれた。デートしよう!と言おうと思った途端、変に緊張してしまった。

「あ、空いてるかな?」

言えない、、、。

「流石に1ヶ月以上先だから、予定は無いよ」

「じゃあ、来月の30日、予定開けておいてね!」

「いいよ、カレンダーに書いておくから」

僕はみっちゃんの手を見ながら、絶対に手を繋ぐと決めた。


 

 バイトは最初、レジからだった。夕方から2時間だけど、慣れない接客は大変だった。

 メニューも覚えて無いし、レジの操作も早く無い、何度も同じ事を聞くのが恥ずかしいし、でも、聞かないとわからないし、、、。2時間があっと言う間だった。

 家に帰ると、手を洗ってお米を研ぐ、野菜を洗って千切るだけのサラダを作って、冷蔵庫に入れる。

 スーパーで味付けしてあるお肉を、買って来たのでフライパンで焼く。

 玄関の鍵が開く音がして

「ただいま」

とみっちゃんの声がする。早炊きしたお米が炊けて、いつも通り丼にする。

「はぁ〜、お腹空いた」

手を洗ったみっちゃんがリビングに入ってくる。

「お疲れ様、ご飯食べよう」

僕もお腹が空いていたから、丁度良かった。



*****



 俺はこっそり、暖人のバイト先に行こうと思った。

 暖人は相変わらず、視線を落とし何か考え込んでいる事がある。急にバイトをしたいと言い出した時はびっくりしたけど、お小遣いが欲しい気持ちはわかる。

 バイトを始めて3週間が経った。そろそろ、暖人もバイトに慣れた頃だと思う。

 暖人のバイト先は、フードコートの中にある。だから、ちょっと離れた場所から暖人の事を見る事が出来る。

 夕方で、学生の客が多い感じがする。仕事も大分慣れたのか、緊張している感じがない。

 暖人の後ろで少し年上の男が注文を受けたジュースやポテトをトレーに乗せていく。暖人と親しいのか、やたらと声を掛けていた。

 客が途切れると、何かを教えているのか2人で話しをしている。その男が暖人の肩をポンと叩いた瞬間、俺の胸の辺りがザワリとした。

 ヤキモチだ、、、。最初は暖人を驚かせようと、空いたタイミングでオーダーしようと思っていたけど止めた。俺は、何も買わずに家に帰った。

 ただ、一緒に働いていただけだ、心配する事は無い、と思いながら頭から離れない。

 暖人が考え事をする様になったのはいつからだった?バイトを始めた頃からじゃないか?バイトを始めて、あの男の事が好きになったのか?俺の妄想が悪い方へ悪い方へと流れて行く。

 玄関の鍵が開く音がした。

「ただいま!」

暖人が元気に帰って来た。随分ご機嫌だと思った。

「おかえり、バイト大変だった?」

「今日は、そんなに大変じゃ無かったよ」

暖人はスーパーで買った肉を取り出し、冷蔵庫にしまう。

 石鹸で手を洗い、洗ったレタスを千切る。ハムを2枚出して、切るとレタスと混ぜる。

 一度手を洗って、肉を取り出し、フライパンで焼く。

「お腹空いたでしょ?待ってね、すぐ出来るから」

暖人がニコニコしている。あの男と仲良く出来たから、機嫌が良いのか?自分でも変な事を考えているのがわかる。

 肉を焼きながら、冷凍してあった白飯をレンジで温めて装る。もう1人分温めて丼に装る。肉の火を止めて、サラダを丼に乗せて肉を盛り付ける。

「お待たせ」

暖人が俺の前に丼と箸を持って来る。

「ありがとう」

「どういたしまして」

暖人はいつもと変わらない気もするし、いつもよりご機嫌な気もする。

 俺は自分の気持ちを持て余して、口数が減る、、、。



*****



 僕はお給料がどれ位貰えるか計算してびっくりした。思った以上に貰えるみたいでワクワクしている。

「暖人、ご機嫌?」

「え?」

お金の計算をして、浮かれてるなんて恥ずかしい。

「そ、そんな事無いよ!」

思わず、強く否定してしまった。

みっちゃんが変な顔をしている。

「みっちゃん、30日大丈夫だよね?」

「うん、空けてある」

「朝から大丈夫?」

「1日空けたよ」

「そっか、良かった」

僕は嬉しくて、一人でニコニコしていた。

 


 でも、30日は生憎の土砂降りだった。29日の天気予報ですでに大雨だって知っていた。

 みっちゃんと買い出しに行ったから、食べ物には困らないけど、僕の気持ちは落ち込んでいた。

「すごい雨だね、、、」

みっちゃんが窓から外を見ながら言う。

「うん、、、」

僕は計画が全部流れて落ち込んでいた。朝から着替える気にもならず、二人共パジャマのままだった。部屋の中は薄暗くて、激しい雨の音がする。

「暖人?大丈夫?」

僕は落ち込んで布団から出る事が出来ない。

「みっちゃん、、、僕、今日の計画色々考えてたんだ。始めてのお給料で、みっちゃんとデートしたかった、、、。この辺の事、詳しく無いから職場の人に聞いて、お薦めの場所教えてもらったのに、、、。何でこんな土砂降りなんだよ、、、」

「暖人、、、」 

みっちゃんは隣に敷いた布団の上に座った。

「どんな計画だったの?」

「えっと、朝はモーニングが食べられる、パンケーキのお店に行って、その後映画館に行って映画を見て、ランチはピザの美味しいお店を教えて貰ったから、そこでピザを食べて、その後水族館に行きたいからバスに乗って水族館に行く予定だった」

「随分、盛り沢山だね」

「お薦めだったから、、、」

「薦めてくれたのは、男の人?俺くらいの身長で細身の、、、」

「何で知ってるの?そうだよ、いつもお世話になってる店長さん」

「店長なんだ、、、」 

「良い人だよ。仕事の教え方もわかりやすいし、失敗しても、大丈夫、大丈夫って笑ってくれるんだ」

「それは、暖人だからじゃない?」

「ん?」

「暖人の事、気に入ってるからとか、、、」

「違うよ、みんなにそうだよ」 

「そうかな?暖人の事、、、好きとか」 

「みっちゃん、それは無いよ。店長さんは結婚していて、子供も二人いるよ。いつも奥さん自慢してる」

「本当?」

「本当。モーニングのお店もピザのお店も奥さんのお気に入りのお店だよ」 

「そっか、、、良かった、、、」  

みっちゃんがいつもと違う。

「みっちゃん?」

「俺、1度だけ暖人がバイトしてる時、行ったんだ」

「え?何で声掛けてくれなかったの?」

「暖人が、その人と親しかったから、何となく、、、ね」

僕は布団に包まりながら、顔だけ出していた。目の前にみっちゃんの手がある。

「ヤキモチ妬いたの?」

みっちゃんの顔を見上げると、恥ずかしそうに笑っていた。みっちゃんもこんな顔するんだ。

「みっちゃん、僕ね」

右手でみっちゃんの左手に重ねる様に触る。

「初めてのお給料で、みっちゃんと始めてのデートして、手を繋いで歩きたかったんだ。まだ、した事無かったでしょ?」

みっちゃんの左手がキュッと握られる。僕は重ねた右手で、包み込む様にして撫でる。僕は布団の上に座り直して、みっちゃんの顔を見る。

「僕ね、思った以上にお給料貰えて嬉しかったんだ。だから、みっちゃんとあちこちデートに行きたかった。土砂降りの雨で出掛けられなくなっちゃって、残念だけど、、、」

みっちゃんは僕の両手を握って

「俺は残念じゃない、暖人と1日ゴロゴロしていられる、、、。たまには、何にもしないで二人でのんびりするのも良いと思う」

「そうだね。今日は1日怠け者になろう」

そう言って、二人でそれぞれの布団の中に入った。僕はそっと、みっちゃんの布団の中に手を入れて、手を繋いだ。

 薄暗い部屋と雨の音が何だか気持ち良くて、ウトウトして来た。



 昼前に目が覚めた。みっちゃんはまだ寝ていた。朝はいつも僕より早く起きていたから、久しぶりに朝寝をしている。

(みっちゃんも疲れているんだな、、、)

と思って、出来るだけ近くに寄る。みっちゃんが寝ているから、ゆっくり寝顔が見られる。

 始めて会ったのは、高校の入学式だった。それから3年、みっちゃんは更に背が伸びて男の子から男の人になった。

 あの頃もカッコ良かったけど、今はもっとカッコ良い。

「みっちゃん」

小さく呼んでも起きない。

「みっちゃん?」

、、、ふふ。僕はみっちゃんの頬をそっと突く。

(みっちゃん、起きないな)

僕は、もう少し近寄る。

(チャンス、チャンス)

と思いながら、頬にそっとキスをする。

ムフフ。まだ起きない。もう一度、チュッとキスをする。起きない。

 僕はこっそり、みっちゃんの布団に入り込む。

(みっちゃんが好きだな)

しみじみ思う。みっちゃんに抱き付きながら、またウトウトし始めた。



*****



(暖人の視線を感じる、、、)

目を開くタイミングを逃した俺は、そのまま寝たフリをするしか無かった。

「みっちゃん」

と暖人が呼んで、もう一度名前を呼ばれて、頬を突かれた。

 笑いそうになるのを堪えて、寝たフリを続ける。

 どのタイミングで起きたフリをしようか考えていたら、暖人がそっと近寄って来た。

 そして、俺の頬にキスをする。

 俺は口元がニヤケそうになる。

 暖人が微笑んだ気がした後に、もう一度キスして来た。そして、そっと俺の布団に入って来ると、俺を起こさない様に抱きしめて、暖人はそのまま寝た、、、。

 暖人の寝息がゆっくりになって来て、俺はやっと身体を動かす事が出来た。

 そっと身体の向きを変えて、俺も暖人を抱きしめる。俺の背が伸びた分、身長差が少し開いてしまった。

 俺は暖人の頭をそっと持ち上げて、腕枕をする。その方が密着出来て嬉しい。


「みっちゃん」

暖人の声がする。

「みっちゃん、お腹空かない?」

暖人が俺を見下ろしていた。

 俺が寝返りを打ちながら、暖人を抱きしめた。そのまま、身体の位置を反転させて、暖人を組み敷く。

「みっちゃん?」

「おはよう、暖人」

チュッとキスをすると、暖人が真っ赤になる。

「ファーストキスだね」

俺はニヤリと笑う。暖人は俺の首に腕を回して

「ズルい、、、」

と言った。暖人は俺に気づかれたく無いのか、キスした事を隠した。

「ちょっと待ってて」

俺は布団から出て、鞄を漁る。小さな箱を取り出して暖人の側に戻る。暖人も布団の上に座る。

「指に嵌めると無くしちゃうかも知れないから」

そう言って小さな箱を開ける。プラチナのチェーンにプラチナの指輪を通したプレゼント。

「いつも付けてて欲しいんだ」

「ふわ、、、指輪だ、、、」

「俺も朝、バイトしてたんだ。やっとお金が貯まったから」

「良いの?」

「良いよ、暖人の内緒のキスを貰ったお礼」

「、、、、!、、お、起きてたの?」

暖人が慌ててる。

「ありがとう。暖人からキスしてくれて。嬉しかった」

暖人は、真っ赤になりながら

「どういたしまして、、、」

と言った。

「暖人、後ろ向いて。俺が付けたい」

暖人は静かに背中を見せた。耳まで赤くて可愛い。ネックレスのフックを止めると、暖人が指輪を撫でながら、もう一度お礼を言った。

 俺は後ろから抱きしめて、耳にキスをした。

「暖人、大好き。これからもよろしくね」

暖人は、うんうんと2回、頭を振った。



最後まで読んで頂けて、嬉しいです。

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