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遊撃隊『牙』小話集  作者: 姫崎ととら
王家の耳と呪われた聖女~王家の耳視点~ (遊撃隊結成二年目~七年目)

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13/18

彼と彼女は、歩き出した

なんでこんなに長くなった!!! ジュルク様編、完結です!!

 アリスと両親の感動の再会を後ろに控えて見守っていた。使用人の中には涙をしている者もいる。この四年間、一度もアリスは顔を見せなかったというので、より感動的だろう。

 抱擁を終えるとアリスの父がこちらへとやってきた。

 憤怒をなんとか理性で押しとどめている様子で睨み付けられ、ジュルクは神妙にその感情を受け止める。


「思った以上に健康そうで安心をしました。

 あの子が騎士を続けるのは、貴方の意向ですか」

「いいえ。彼女自身が選んだ道です。オレはただでさえ彼女の自由を奪ったのです。これ以上は奪えません」


 最大の自由を奪ったジュルクが、アリスにこれ以上何を望めるというのか。これからの人生、ジュルクに出来る事はアリスのやりたいことを支援することだけだ。浮気だけはしてほしくないので惚れてもらえるように精一杯の努力はするつもりだが。

 真剣な答えに、アリスの父は僅かに目の力を緩め、拳を解いた。


「……奪った自覚があるのなら、貴方の手で幸せにしろ。いいな。泣かせるようなことがあれば即刻離婚させる」


 少し認めるような発言に僅かに目を見張り、しかと受け止めて胸に手を当て誓いを立てる。


「はい。必ず、彼女を幸せにしてみせます」


 不服そうではあるがアリスの父は頷いてみせ、話は終わりだとアリスのほうへと向かって行った。



 親子の会話に挟まる隙などなく、神妙に待つ。使用人達の視線が非常に痛いが、当然の罰なので真摯に受け止めた。

 だが、アリスが庇うように前に出てきて目を見張った。さらに、彼女の髪を纏める銀のリボンに気付いてメイド長へと顔を動かしかけて止める。藍色のワンピースに銀のリボンなど、ジュルクの色ではないか。


「大丈夫。旦那様は私のこと本当に愛してるってもう分かってる。この服も旦那様が贈ってくれたものだよ。

 私は寝てたけど、毎日パルフェソートを贈ってくださっていた方だもの。絶対大切にしてくれるって分かってるから、心配しないで」


 家族に対するくだけた口調が可愛らしいなと一瞬だけ思ったがそれ以上の衝撃をジュルクが襲った。

 この口ぶり。まさか、彼女は結婚相手のことを何一つ聞かされていない、いや、彼女の性格を考えれば先入観を持たないためにわざと聞かなかった可能性が出てきた。

 憤怒を通り越してもはや魔人のような形相となったアリスの父の顔を、アリスの母が手に持っていた扇子で叩いた。かなり痛そうな音がしたとおり、痛そうに顔を押さえる彼を放置して、母は前に出てくる。


「ジュルク様」

「はい」


 平坦な声は感情を抑え込んでいるとジュルクでも分かる。睨み上げてくるアリスの母の顔は感情を抑えつけていっそ美しいほどに無表情だ。


「娘には、想い人がおりました」

「存じております」


 昨日は言われなかったが、このタイミングで言うということは、彼女も夫と同じようにアリスを幸せにしろと言うつもりだろう。

 視界の端でアリスの頬が赤く染まったのが見えたが意識をアリスの母に戻す。


「あの子はラベルタ家の中では珍しく、草花に興味を示しませんでした。

 そんなあの子が、恋をしてからとある花が好きだと私に伝えてきた。それがパルフェソートです」

「……はい」


 話が見えなくて困ったものの、神妙に話を聞く。手折ると白になる不思議な紺色の花。色合いが似ているため、パルスート家共通の家紋にもなっている。

 そこではたりと気付いた。もしや、花言葉に意味があるのだろうか。あるいは何か不思議な効能でもあるのか。花について調べなかったことに今さらながら後悔した。

 アリスの母はじっとジュルクの様子を見ていたが、落胆したように溜め息をついて首を振った。どうやら相手のことを突き止めていないことが分かって、落第のハンコを押されてしまったらしい。


「……これ以上この子を危険な目に遭わせないでください。私から望むのはそれだけです」

「それはもちろんです」


 落第でも結婚してしまっている以上、護れとの願いに大きく頷く。


「騎士団に務める以上、危険な目に遭わせないとは誓えませんが、彼女に何かあれば、私が必ず助け出します」


 決して嘘はつけない。騎士団は危険と隣り合わせだ。表向きは司書として働くとしても、有事には執行官も総長の指示に従い、後方支援に回る。

 それでも、アリスに何かあれば、ジュルクは立場を放り出してでも助けに行く。総長にもそう宣言してある。初老に見える男性は困ったように微笑みながらも許可を出した。予め宣言してあるだけマシだと思ったのだろう。

 真摯に誓うジュルクに、アリスの母はもう一度息を吐いた。表情が少し和らいだので、及第点にはなったようだ。

 アリスへと視線を移した彼女は、母の顔で娘にもう一度「いつでも帰ってきなさい」と言い含め、受け取ったアリスは、何故か硬い声で返事をしていた。


****


 もう少し側に居てもいいと勧めても、アリスは大丈夫だと首を振って両親に別れを告げ、馬車に自分で乗り込んでしまった。仕方なくジュルクも別れを告げて馬車に乗る。

 走り出した馬車の中、アリスはじっと窓の外を見てジュルクに視線を合わせようとしなかった。ジュルクが結婚相手だと流石に気付いただろう。遠くを見つめているのは現実逃避か。

 短い距離を走って、馬車は我が家に到着した。

 アリスの子爵家と屋敷の大きさは変わらない。なにせ家に金をかけるくらいなら、本につぎ込んだほうが良いと豪語する家だ。代わりに隣が図書館になっており、主はいつでも自由に出入りできる内部通路がある。

 馬車から降りれば、やらなくていいと言ったのに使用人達が全員並んで出迎えていた。歓迎はしているのに、哀れむような視線が彼女に注がれる。重ねた手がびくりと怯えたのを感じ取って、そっと手を離しながら視線を遮るために前に立った。

 アリスの金の瞳がゆっくりと上がってきて、震えながらやっとジュルクを映す。


「アリス。今日からここが君の家になる。伯爵家としてはこぢんまりとした家だが、その分魔導書の豊富さだけは自慢できる。王都内すべての図書館の禁書エリアも利用できるよう手配済みだ。いつでも馬車を出せるように君専用の馬車も用意した。

 それと社交についてだが、我が家はあまり出る必要はないし、誘われることも滅多にない。王家主催の物は出なくてはならないが、それぐらいだ。安心してくれていい。

 あと君が気にする点はなんだったか……」


 思い出そうと少し視線を逸らす。本が読めるかどうか。社交界にはあまり参加したくない。あともう一つ何か気にしていたはずだが、流石に四年前の会話はすぐには出てこない。


「あの。ジュルク様。私、旦那様が誰なのか、聞いていません」


 震える声で驚くことを言われて、彼女へと視線を戻す。

 やはりアリスは一切の情報を断っていたようだ。震える視線に胸がズキズキと痛むが無視して、カラカラに乾いた口内を唾液で濡らして言葉を紡ぐ。


「このオレ、ジュルク・ソル・パルソートが君の夫だ。

 ドゥガローヴェが書いた蒼の章のように美しく、オレと同じくらい魔導書を愛している君とどうしても一緒にいたくて、君の同意も無しに強引に話を進めた。いくらでも罵ってくれて」


 構わない。

 そう続けようとしたが口の中に消えていった。

 胸ぐらを掴まれて引き寄せられ、強引に唇を塞がれる。目の前にはぎゅっと目を瞑ったアリスのアップ。ふわりと花の香りが鼻腔をくすぐった。

 合わせただけの唇は離れていき、金がゆっくりと瞼から現われてジュルクを映す。彼女の瞳の中、驚く自分の顔が見えた。


「私の想い人は『月に愛された人』で、エッデアガーの夜の章のように格好良くて、私と同じぐらい魔導書を愛していて、一緒に魔法理論を考えてくれる年上の方――ジュルク様です」


 目を潤ませ、見たことがないほどの嬉しそうな笑顔で愛を囁くアリスに、ジュルクは大きく目を見開く。

 脳裏を駆けたのは、先ほどのアリスの母の言葉。恋をしてから好きになったという紺と銀の花、パルフェソートは、パルスート家の家紋だと気付いておきながら、それが自分に結びつかなかった。母親は気付いたからジュルクにヒントをくれたと言うのに、あの場で全く気付かなかったから落第になったのだろう。

 アリスが恥ずかしくなってきたか離れようとしたので捕まえ、腕の中に収める。小さな悲鳴が耳元で聞こえた。


「ジュルク様!?」

「すまない。夢のようで信じられない」


 肩口に顔を埋め、この温もりが本物であることを確かめる。胸を満たす花の香りは彼女の肌から香っているような気がする。いや、髪か。何か特別な香水でも渡していただろうか。

 困った様子だったアリスが、ヒュッと息を飲んだのが聞こえた。


「……じゅ、ジュルク様」

「なんだ」

「こ、の、りぼん、は。なんで」


 震えた声での途切れ途切れな問いかけは、ジュルクの髪を纏めるリボンについてだろう。アリスとしてはもう捨ててしまっていると思っていたはずだ。

 逃がさないために腰を抱いたまま顔を上げ、彼女の顔を覗き込む。顔を真っ赤にして唇を震わせている様は非常に愛らしく、先ほどの言葉は夢ではなかったのだと実感させた。それどころか、彼女もあの頃からずっとジュルクを思っていたのだと分かって、笑みが溶ける。やはりあの誕生日プレゼントのクッキーは彼女の手作りだったのだ。


「ああ。あの頃から君のことが好きだから、君色の物は捨てられなくてな。これが付けられるように髪を伸ばして、休日の度に付けていたんだ」


 一度は捨てていたが、その辺りは後で話せば良い。付けていた頃の話をすればアリスは恥ずかしそうに胸に顔を埋めてしまった。

 あまりの愛おしさでどうにかなってしまいそうだ。顔を上げてもらおうとしたら、背後からわざとらしい咳払いが聞こえた。そのせいでアリスが我に返ってしまい、離れようとするのでしっかりと抱きしめながら肩越しに後ろを振り向く。

 執事のバートンとメイド長のメイサが呆れかえった顔をしていた。使用人達もとても生温い笑顔で見守っている。


「ジュルク様。両思いだったことが発覚して何よりですが、そろそろ中に入りましょう。歓迎の用意をしている料理人達にも奥様を紹介しませんと」

「……そうだな」


 まだ門をくぐったところだった。バートンの言葉はもっともで、名残惜しいがアリスを離して微笑む。


「アリス、行こうか」

「……はい」


 あからさまにホッとした様子なのは少々気に食わないが、嬉しそうな笑みを浮かべたのですべてが吹っ飛んだ。

 差しだした手に重ねられた細い手をしっかりと握り、屋敷へと歩き出した。



 この後。かつての部下達が第二騎士団を示す青いタイを付けて祝いに来て驚いた。遊撃隊の皆も祝いに来て、全員でジュルクがいかにアリスのことを好きだったのかを語り始めた。

 あまりの恥ずかしさに物理的に一人一人止めていたが、アリスの兄を迎えに行ったティカが兄共々やってきて、今度はアリス側の話を始めるのだから宴は大盛り上がりした。




「おや。では、テトム様はお気づきで?」

「ええ。だって普段家に帰ってこない妹が大慌てで帰ってきて、いきなりクッキーを焼き出したんですよ。

 久しぶりすぎて上手く焼けなかった中でも、比較的マシなものだけを選んで、自分色のリボンで袋の口を閉じるものですから、見ていた使用人ともどもピンと来ましたね。騎士団の中に想い人がいるって。

 それから、草花に興味のないあの子がパルフェソートに興味を持った。それでパルスート家かと見当が付く。

 そして王家主催の新年祭に参加してみれば、ジュルク様があのリボンをしているじゃないですか。ニマニマしちゃいましたね」

「わ~~。状況証拠は揃ってるのに、すれ違ってたんですね」

「あの子から諦めてしまったんでしょうね。身分が違うって。ジュルク様もあの子を尊重してくださったんでしょう。

 しかしまぁ、強引ではありましたが丸く収まって安心しました」

「あの。ご両親は誤解をしたままでは……」

「ははははは。魔草しか興味のないくせに、いきなり現われて親面してやがるあの野郎どもなんて放置してりゃいいんですよ。

 僕が六歳、アリスが四歳になってからこの王都の家で使用人に育てさせて自分たちは研究三昧。節目にしか会いに来ず、子供の間に会いに行こうとしたら来るなと拒絶され、僕らが大人になってから研究者になれとか言い出したクソどもなんぞ知ったこっちゃないです」

「うわぁ、毒親だったんですね……」

「魔草の研究は素晴らしいと分かっているので、研究者としては尊敬しますよ。親としてはクズですけどね」

「使用人さん達も睨んでたみたいですけど」

「彼らには両親と同じ表情をするようにと言い渡しましたので。自分たちだけ知らないなんて両親が気付いたら、鬱陶しいことこの上ないですからね。母は流石にアリスの様子から気付いたみたいで、僕を睨んでましたけど。知ったこっちゃねぇわ」

「……テトム様、案外お口が悪いですね?」

「僕、【遊ぶ子猫亭】の掲示板の利用者なんですよ。レオンさんとはよく議論を交わしています」

「レオン……レヴェさん……顔広すぎでしょ……」

「ははは。隊長の顔が広いのは良いことだと思いますよ」

「あ、そうだ。魔物は大丈夫ですか? 必要であれば遊撃隊出張しますよって隊長から言伝です」

「ああ、大丈夫ですよ。隣の領から流れてきた魔物(・・)は、ジュルク様が退治してくれましたから」

「……隣って、元第二の団長の実家とかパルスート様から聞いたんですけど。魔物って……」

「ふふ。魔物ですよ」

「うわぁ……」

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