表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

あんなに楽しかったのに

恐れていた事態が起こってしまう。

 翌朝、気持ちよく起きれることがでいたけど、花は萎びてしまっていて、寂しい気持ちになった。

 そう考えた瞬間に、私は頭を思いっきり振って両手で頬を叩く。

 違うんだ、そうじゃないんだ。私は、そう考えている場合じゃない。諦めさせないといけないのだから。

 

(頑張らないといけない。)

 

 グッと両手に力を込めて、心を決める。

 今度こそ、諦めさせるようにしなくてはいけない。

 力強く考えていたら、コンコンと扉を叩く音がする。外から、彼の声が聞こえてくる。

 

『入っても良いですか…?』

「え、ええ、良いわよ。」

 

 ちょっと動揺(どうよう)してしまったけど、バレてないとは思う。何でか、昨日よりも会うのにドキドキしている。

 昨日はそんなことなかったのに、何でこんなにも胸が高鳴るのだろうか。そう考えると不思議な気持ちだ。


 ちょっと胸の辺りを押さえて、鼓動(こどう)(おさ)えようとしていると、扉の開く音がする。そして、ひょっこりと彼が顔を出す。 彼の顔はとてもニコニコしていて、こちらが悩んでいるのがバカバカしくなるほどに。


 後ろ手には何かを持っているようで、紙のような物がちらりと見えるが、それが何かはわからない。

 何だろうとは思うけど、それを気にしている場合ではない。彼に、どうにかして嫌われるようにしなければならない。

 私は冷たい口調で話すようにと心がけて言葉を放つ。

 

「何よ。花束でも、持ってこれたっていうの?そんな嘘つくきなら…。」

「持ってきました!」

「そう、やっぱりむ、り…って、また!?そ、そんなはずないでしょう!?そんなすぐに持って来られるはずないわ!きっとまた、そこら辺に生えている花でしょう?それならもう終わりよ。これで話は終わったわね。早く出てってくれるかしら。」

「違います!今度は、ちゃんとした花束を持ってきました!」

「ちゃんとした花束って…、どうやって…。」

「それは秘密です。あ、その花束がこれです!」

「秘密って…、一体何した…ちょ、ちょっと!!何、薔薇(ばら)の花束!!」

「これこそ、本当の花束ですよね!!」

「そ、そうだけど…、一体そんな花束どこで…。というか、その花束、大きくない!?しかも、多いわね!?何でこんなに大きいのよ…。」

 

 一体、何が起こっているのかよくわからなかった。目の前には確かに、花束と呼ばれるものであった。

 でも、どうやってそれを持って来たのか、私には分からない。後、花束にしたって本人も持つのが大変そうなほど大きい。それに何で薔薇(ばら)だけなのかという、疑問もある。


 普通に考えて、花束とはいろんな花が入ってできているものではないのだろうか。

 私の(つたな)い知識ではあるが、そんな感じであった気がする。私がよく分からず唸っていると、彼が話し出す。

 

「本当は、いろんな花を入れようと思ったんですが、調べていたら薔薇(ばら)の本数には意味があるらしくて、その話を知ってその本数を用意してきました!」

「意味って…、薔薇の本数なんかに、何の意味があるっていうのよ…。」

「この薔薇の数、二十四本なんですが、その意味が『一日中貴女を想っています。』って意味なんです!僕の今の気持ちにピッタリで、この本数にしました!」

「…え…え、あ、はぁ!?ちょ、ちょっと、何言ってるのよ!」

「えへへ、本当のことですから!」

 

 意味がわからなかった。最初言われても理解することができず、返事をすることができなかった。 私のことを一日中想ってるなんて、そんな人いるはずないと思っていたから、まさかそんなこと言われるなんて思ってもみなかったのだ。


 薔薇の本数にそんな意味があるとも知らなかったし、それをわざわざ調べて買ってくるなんて、そんなことまでするとは思ってなかった。

 私のことを、そこまで考えてくれる。もうそんな人なんて、いないと、思ってたの。

 そう考えていたら、彼が、私ではない後ろの方を見ていることに気がついた。


 一体何を見ているのだろうと思って後ろを見てみたら、そこには枕元に置いていた、昨日の花束がそこにはあった。

 思わず、慌てて言い訳をしようとする。

 

「こ、これは!捨てるのはもったいないかなって思って…!」

「置いていてくれると持ってなかったので、すっごく嬉しいです!!」

「う、うるさいわねぇ!そんなんじゃないって言ってるでしょう!?」

「えへへ、それでも嬉しいんです!」

「人の話を聞かない人ね…!」

 

 昨日の花束はもう萎れてしまってるのに、私は捨てることができないでいた。

 ちょっと悲しい気持ちになったから置いていただけなのに、まさか彼にバレるなんて思ってなかった。


 忘れてしまっていたなんて…。夜のうちにすぐ捨てればよかったと、後悔の念に()られる。

 悔しい気持ちになりつつ、それでも彼の顔が気になってチラッと見てみると、とても嬉しそうな顔をしていた。


 あんなに昨日酷いことを言ったのにも関わらず、この大きな花束を持ってきてくれて、置いていた花束にとても嬉しそうにしてくれた。

 この人は私の事を考えて笑顔でここに来て、私にまた花束を渡しに来てくれた。そう考えた瞬間、私の胸が高鳴(たかな)るのを感じる。


 私はもしかしたら、本当にこの彼に好かれているのかもしれない。いや、そう思ってはいけないと考えていた事を、消そうとする。

 独りでいなければいけない。

 たとえこの彼の気持ちを、踏み躙ってしまったとしても、私はこれ以上感情を爆発させない為に。

 

「もう!変な事言わないでちょうだい!花束…は…つ、罪はないから、置いてかえるといいわ。」

「花束、貰ってくれるんですか!?」

「そ!それに罪はないもの!」

「ありがとうございます!!やった!これで第一関門突破(かんもんとっぱ)ですね!」

「え!?あ、まぁ…そう、なるわね…。」

「よっしゃ!じゃあ、次の要求はありますか!?何でも答えてみせます!」

「~~~~っ!!うるさいうるさい!もう!次の要求を言うわよ!」

「はい!」

 

 

 


 

 そこからは、怒涛(どとう)の一週間だった。

 

「鳩の羽を持ってきて!」

「はい!鳩の羽です!」

 

 

 どんな要求をしても。

 

 

「数量限定のケーキを買ってきて。」

「はい!これですよね!」

「え!?本当にあの有名店のケーキ!?」

 

 

 どんなに無理なことを言っても。

 

 

「新しく発売された本を買ってきて。」

「はい!この本ですよね!」

「テレビではもう売り切れてたのに、どうやって!?」

 

 

 私しか知らないことを言っても。

 

 

 

「私の好きなものを持ってきて!」

「このプリン、お好きでしたよね?」

「何で知ってるのよ!?」

 

 

 

 少し()が張るものを言っても。

 

 

 

「この本に()ってるバックを買ってきて。」

「これ…ですか?」

「そうよ、何か悪い?」

「いえ!わかりました!」

「これですよね!本に()ってたの!」

「ちょ、嘘でしょ!?」

 

 

 

 私の好みのものでないとわかっているとしても。

 

 

 

「このギラギラしたスマホケース買ってきて。」

「これお好きでないのでは…?」

「いいから買ってきて!」

「はい、これですよね!」

「どこのお店かも教えてないのに、どうやって!?」

 

 

 

 もうどこにも売ってないとされるものでも。

 

 

 

「この可愛い服買ってきて。」

「これって…売り切れって書いてますけど…?」

「私が欲しいって言ってるのに、無理なの?ならいいわ。これで終わり…。」

「いえ!買ってきますね!」

「え、これ無くなってるのよ!?」

「はい!これですよね!」

「本当にどうやって買ってくるのよ!!」

 



 一週間、何を言っても諦める様子は全くなかった。しかも私の無理な要求に、最も簡単に答えてくる。

 こんな無理な事を叶えてくるのかもわからない。どうやっても叶わないはずの、無理な内容もあったはずだ。


 だって、お店の名前も知らせてないところもあったり、行きにくいところもあったり、もうないはずの服もあったりしたから、そんなものをどうやって見つけれたのかが私にはわからなかった。

 でも、どんな要求にも、楽しそうに嬉しそうに答えてくれる。


 その姿が、私には(まぶ)しく(うつ)った。

 けれど、ずっと交流していく中で、私は心の冷たい感じが溶けていくのを感じた。

 いつも彼が、屈託(くったく)のない笑顔で私に問いかけてくる。

 

「へへ!次の要求を教えてください!」

 

 そう言って、私に笑顔を見せてきてくれる。彼の笑顔が、嫌な感じもしないし、嘘をついている感じもしなかった。


 その感じがとても嬉しくて、心地よかった。この時間が幸せに感じてた。

 すると、私も自然と笑顔が(あふ)れるようになっていった。

 どんなことを言っても、叶えてくれることよりも、私に対する(あふ)れ出てくる気持ちが、私にとって心地よかったから。

 気がついたら、要求だけ話すのではなく、普通の話をするようにもなった。

 

「今日、何だか暑くない?」

「そういえば暑いような…?」

「何で感じないのよ。」

「いつも、碧さんと会ってたら、気持ちが高まって暑くなってるから、わかんないんです!」

「…はぁ!?な、何言っちゃってんの!?意味わかんない!」

「だって、本当のことなのに…。」

「あ!今、敬語じゃなくなった!」

「え?あ!忘れてた!」

「いいわよ。敬語無くしなさいよ。私だけって、おかしいでしょ?」

「それってもしかして…寂しいとか?」

「そ、そんなわけないでしょ!調子に乗るところ、よくないわよ!」

「あはは!冗談だよ!これからは、敬語なしで話すね。それと僕の事は、隆って呼んで!僕は碧さんって呼ぶね。」

「え!?そ、それは…えっと…その…た、隆くん…?」

「…え?待って、今、僕の名前呼んだ!?」

「き、気のせいじゃない?」

「気のせいじゃないよ!やったー!嬉しい!!」

「う、うるさい!周りに響くでしょ!」

「だって、嬉しいんだもん!」

「…ふふ、変な隆くん。」

「その言葉は、返すなぁ。変な碧さん。」

「えー、ずるいなぁ。」

「へへへ。」

「ふふふ。」

 

 彼、隆くんと会う時間は、私にとって、何よりも大切な時間になっていった。会って話すだけで、幸せな気持ちになれた。

 こんな日々が続けばいいと思っていた。


 それくらい、隆くんと話す時間が大切なものになっていた。

 でも、そんなこと、起こるわけなかったんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ