変化の兆し
もうやさぐれている彼女のところに変化の兆しが…?
私は、長方形の窓を見続ける。
ただ広いこの部屋の中では、何をする事もないから。ずっと見てても、ただ同じ景色が目に映るだけだけど。
聞こえてくるのは、綺麗な鳥の声。様々な声が聞こえてくる鳴き声が癒しだったが、今では私にとってはただのうるさい音でしかない。
最初は静かな部屋の中で何の音も聞こえない中で、聞こえてくる鳥の声に落ち着いていた。
でも、今ではそうじゃない。ずっと聞いていたら、煩わしくなっていった。
あんなに癒されてたはずの声が、こんなにもうるさく感じるなんて思いもしなかった。
冷えていく心の中で、改めて部屋の中を見渡してみる。
個室だけど、病院が用意している物を入れる棚とそこに備えられているテレビ、ベッド、ベッドの上にある机、洗面台、壁に備え付けられている棚、あとは備え付けられているシャワー。
それだけしかない。
危険物になり得るようなものは、周りに置かれてないどころか、棚の中にすら置かれていない。
何でないのかといえば、私が起こしてしまった事が原因だ。
この事については、私が悪いことはわかっている。だからこの処置も、納得しているし分かってもいる。
落ち着いた気持ちで考えながら、私はゆっくりとベットに移動していく。窓に近づけていた車椅子をベットへと向ける。
なぜ私が車椅子に乗っているかといえば、体の病気で歩くことがしにくい。だから移動する時は、車椅子に乗って移動している。それすらも、私にとってはとても煩わしい。
でも、仕方ないのだ。“病気“なのだから。
病気病気病気…。
いつも言われる言葉を聞くだけで、腹立たしくなってくる。しょうがないなんてこと、分かってはいる。
分かってはいても、心が納得しない。
苛立ちながら考えていたら、近くにあったベットにたどり着く。車椅子のストッパーをかけ、慣れた動作でベットへとゆっくり座る。
最初はこの動作も慣れず何回も転けていた。その度に看護師さんに呼ぶように言われたけど、私にとってはどうしても自分で出来るようになりたかったのだ。でも、転け続けて、看護師さんに見つかる度に怒られてしまい、仕方なく人を呼ぶようになった。
呼ばないといけないこととは分かっていても、病気だということを受け入れることができなかったから。
今だって、受け入れられてない。でも、どうにかやってくしかないのだ。
そんな事、本当は分かってる。病気と向き合わなきゃいけないこと。分かっていても、心が追いついて来てくれない。
小さくため息をついて、座ったままだった体を横に倒す。
「もう…どうしたらいいのか、わかんないよ…。」
そう呟いたら、涙がじわっとわいてきて、それを隠すように、手の前に持ってきていた両手に顔を埋める。
小さい嗚咽が漏れるのも気にせず、泣き続ける。
慰めてくれる人もいない。
私を気にしてくれる人もいない。
私自身と、向き合ってくれる人も、もう、見当たらない。
そう考えただけで、涙が止まらなくなってくる。悲しみで心が潰されそうになろうとも、私はたった1人きりだ。
そうして泣いていると、部屋の扉が2回叩かれる。慌てて起きて、流れ落ちてきた涙を勢いよく服の袖で拭いた。
それで、外に向かって声をかける。
「どうぞ。」
すると、看護師さんであろう人の「失礼します。」という、小さい声が聞こえてくる。そして、血圧計などが乗ったカートを押して入ってきた。
看護師の顔は引き攣った笑顔だったが、隠そうとしているのが丸わかりな感じだった。
イライラとさせる。
せめてその態度を、隠しせるようになってから来たらいいのにと、私は思う。
でも、そんな事関係ないかのように、私に向かって話しかけてくる。
「ど、どう?碧ちゃん。体の調子は、いい?」
私の名前―――高嶋 碧の名前を気軽げに呼んでくる。
それも、怯えるようにこちらの動向を伺うように。
いつもそんな感じでくる看護師のことすら、私をイラつかせるという事にこの人は気がついていない。
返事をするのも嫌になった私は、そっと看護師さんから目を逸らす。
その私の様子に、苦笑いを浮かべているのであろう姿が空気でわかる。
「あはは、と、とりあえず、血圧とか測らせてね?」
そう言って、私の手を勝手に取る看護師さん。取られた手を払いたかったけど、ぐっと我慢をする。
こんなことで怒っていたら、また影で何かを言われることぐらい、分かっているからだ。ここにいる人たちの行動全てが私をイラつかせる。
(我慢だ、我慢…。)
そうやって自分に言い聞かせて、深呼吸をする。看護師さん私が息を吐くだけで、体をビクつかせる。
ただ息を吐いているだけなのに、何かするわけでもないのに、こんなに怯えられると腹が立ってきてしまう。
(むかつく。)
なんでそこまで…って思ったけど、仕方ないと思った。それほどのことを私はしたのだから。
嘲笑がこぼれる。色々されている最中に考えていると、薄ら笑っていると検温もお願いされる。
「これ、お願いしてもいい?」
「…はい。」
小さい声で答えて、体温計を受け取って脇に挟む。
静かな時間が流れる。私も相手も話すことはない。
私の調子や血圧などを、パソコンに書き込んでいるのか、キーボードをタップする音のみが響く。
すると、その音を断ち切るように体温計の音が鳴る。体温計を回収して、パソコンに結果を記入する。
これで全て終わったのか、私の体調を最後に確認してきた。
「体調はどう?問題ないか…。」
「見たらわかるじゃないですか。問題ないです。」
言い終わるのを待たず、私は看護師さんの言葉を遮るように答える。いつも同じことを聞いてくるから、流石に鬱陶しくなっていた。
拒否するように話す私に気まずくなったのか、看護師さんは慌てた様子で答えた。
「そ、そっか、良かった。それじゃあ、またね。」
そう言って、早々と去っていく。何度も何度も聞かれて、腹が立つのは当たり前じゃない、とそう思う。
見たらわかるはずの事を、態々聞くことが理解できない。本当は仕方ない事なのだ。それが仕事なのだから。
機械的にそれを、笑顔で聞いてきてるだけ。ただそれだけの事。
でもそれが私にとっては、癪に触るのだ。聞き方の問題なのだろう。
まるで機嫌を探るかの様に聞いてくるのだから、私が苛立つのも仕方のないこと。そう、思い込むようにしてる。
じゃないと、私は自分を保てないからだ。己のしていることを、正当化することで私は私でいられる。
また、思わず自嘲する。
悲しいけど、そうしないと私の心は壊れちゃう。必死にそう考えていると、また自然と涙が出てくる。
まだ、私には涙が出るような心があるんだ。何だか不思議な気持ちになった。
涙を拭う事なく、またベットから車椅子に移動して窓見向かっていく。窓から空をじっと見つめながら考える。私だって分かってるんだ。己がしてる事って、ただの八つ当たりでしかないことを。
(でも、そうであったとしても…!)
「寂しいの…!」
空を飛んでいく鳥を見つめながら、心の声を叫ぶ。
下を向いて膝の上に置いた手を握りしめていると、その手の上に涙の雫がこぼれ落ちるのを感じる。
その温かい感触に私も生きているんだなと、吐き出すような息がこぼれた。落ちる涙を拭う事なく、顔を上げて外を見る。いつも見ている景色が歪んで見えた。
不思議とそれが心地よかった。
自然と漏れた笑顔と涙の歪な状態に、何も思う事なく外を見続けた。そうしていると、急に扉が叩かれる音が聞こえてくる。
ここに来る人間なんて看護師さん以外は、必要最低限の物を持って来る家族ぐらいだ。でも、いつも来る連絡があるのに今日はなかった。看護師さんが来る時間でもない。
なら誰も来ないはずだと思ったから、きっと気のせいだと無視していたら、もう一度叩かれる音が聞こえてえきた。
気のせいではなかったようで、誰か分からずに焦る。
すると、小さい声が聞こえてきた。
『入っても、大丈夫ですか…?』
聞いたことのない人の声だったが、私は人が来たことに驚いてしまった。私を訪ねて来る人なんて、私にはいないと思っていたから。
だから私は何故か急いで袖で涙を拭いて、思わず返事を返してしまった。
「は、はい!」
返事をした後に、私はハッとした。
(なんで返事を返してるのよ!)
焦ったが、もう返事してしまったのはどうしようもない。慌てて服を正して髪の毛も綺麗に整えたところで、部屋の扉が開く音がした。
誰だろうか、看護師さんが何か忘れたのかな、等といろんなことが頭を巡るが、急な事で何も思い浮かばない。
すると、入り口から声が聞こえてきた。
「あの…お邪魔してもよろしいでしょうか…?」
「え…?」
男の看護師さんとは違う、少し高めな男の人の声が聞こえてえきた。
今まで聞いたことのない声なだけに、少しどころかかなり戸惑ってしまう。誰か私に男子の友達なんていなかった。
暫く戸惑ってしまったせいで、黙っていたからか、相手の方が戸惑った声で話しかけてくる。
「今…ダメだったのなら、また出直してきますが…。」
「え、あ…い、いえ!大丈夫です!」
思わず言っていたまった瞬間に思わず自分の口に手を当てる。どうして大丈夫なんて言ってしまったのか。大丈夫なわけない。
知らない人を入れる事ほど、怖いものはない。しかも、私は危険人物に指定されている。それは私自身が一番、理解している。
親にも見捨てたれた身だ。人と会うのは、相手がとても危険だという事。
なのに、許可をしてしまった。
どうしたら良いのか、さっぱりわからない。でも相手の声は嬉しそうで、でもちょっと恐々と入ろうとする声が聞こえてくる。
「ありがとうございます…!あ、えっと…、失礼します…。」
「え、あ、はい…。」
私はもう、そう返事をするしかなかった。そして声をかけてきた男の人が私の前に姿を現す。
男の人は男のことは言うよりも、15才である私と同じくらいに見える顔つきで、目はクリッとしてるが、少し垂れ目で口は薄めで色は悪い気がする。
顔色もそこまでよくはない感じはするし、点滴もしている手はかなり細い。
ここまで来て、大丈夫なのだろうか。思わずハラハラしてしまうほどの雰囲気があった。私よりも具合が悪そうで、心配になってくる。
人の心配をしていう場合ではないのかもしれないが。そんな雰囲気の人が私の顔を見た瞬間に、男の人、ではなく男の子はとても嬉しいそうな顔をした。
「よかった、部屋合ってた…!」
「え?今なんて…。」
「え、いや!こっちの話です!あはは…。」
「はぁ…。」
なんだか変な子だなぁと思ってしまう。
そこで私は、思わず自嘲する。私も人のことを言えないし、私の方がもっと酷い。
すると、はたと思い出すことがある。私は面会謝絶というか、他人が入ってはいけないような感じになっていなかっただろうか。
だって、あんな出来事をしてしまったのだ。他の人が入ると危ないと言われているはず。だからこその、ナースステーションの前の部屋になっているのだから。
そうやって考えていると、男の子が話し出す。
「あの…それで、今日この部屋に来たのには、理由があって…。」
「なんなの?それよりあなた、どうやってこの部屋に入ってきたの?ここには入っちゃいけないって、看護師さんから言われなかったの?」
「言われましたけど…どうしてもってお願いしたら許可が出ました。何かあったら言ってきてねって、なぜか言われましけど…。」
「まぁ、そうでしょうね…。」
男の子の言葉に、私は嘲笑するしかない。いくら自分のせいとはいえ、こっちだって患者だ。そんな言い方をするなんて、よくないんじゃないのかと苛立ちを覚える。
看護師さんは私の事を思っているように見せかけて、自分たちの事しか考えていないのだと再認識させられた気分になる。
そんな嫌な空気を消すように、男の子が言葉を発する。
「あの…。」
「何よ。まだ何かあるの?」
そこで、ハッとする。いつもの看護師さんにするような、そんな態度をとってしまった。
でもよくよく考えると、急に女性の部屋に訪れるなんて、失礼なのではないだろうか。
予定も入れず、急に来るのは良くないこと。そうやって、自分の言った事を正当化する。
私はそこまで考えて、彼の方を強い目線で見つめる。
すると、私にきつく言われて戸惑っていた男の子が、意を決したように話し始めた。
「あ、あの!俺は隆、新崎 隆って言います!」
「はぁ…。私は、名咲 碧よ…。それで、何の用ですか?」
「それで…あの、えっと…俺と…俺と…おお俺と付き合ってください!!」
「…え!?」
まさかの言葉に、驚きを隠せなかった。
付き合うということは、どういうことだろうか。
買い物とかに付き合う、ということじゃないことくらい私にだってさすがに分かる。男女が恋人になることだってことくらい。
でも、この男の子に会ったことすらないはずなのに、付き合って欲しいとはどういうことなのだ。
私は見かけたことすらない。同じ病院ということしか情報がない。そのはずが、付き合ってほしいとはどいうことなのか。
あまりのことに、私は混乱して、必死に言葉を紡いだ。
「わわ私、貴方に会った事ないわよね!?なのに、急に告白なんてどう言う事!?」
「あ!そ、そうですよね!すいません!でも、僕は貴方の事を知ってて…。」
知ってるとは、どういうことなのだろうか。すれ違ったこともないと思う。
私の記憶の限り、ないはずだ。私はこの部屋から検査以外では、出たことがないのだから。
あの事件以降、私はこの部屋から出ることができなくなっているから。出ようものなら、看護師さんが止めに来るようになっている。
なのに会った事あるとは、いつのことを言っているのだろうか。私は、全くもって覚えていない。
もしかして、この人は…。
「ストーカー…?」
「ちちち違います!!ストーカーとかじゃないです!」
「それ以外に、私を知っている理由があるの!?私は貴方の事、知らないのに!」
「そうだと思うんですけど、僕は貴女の事を知ってるんです!」
「私は知らないって言ってるでしょう!」
「俺は!」
私の大きな声よりも、もっと大きな声が返ってきて、体がびくついく。思ったよりも強い口調で言われて、言葉を返すことができなかった。
私を見てくる目線も、とても強くて心が込められていて目を奪われてしまった。こんな目で見てくれる人なんて、もういないと思っていたから。
その目に、私は心を奪われたんだ。ぼうっと彼を見ていると、私の視線を奪った本人が言いにくそうに話し始めた。
「俺、実は何回かすれ違ってて…その時に綺麗な人だなぁって思って…。」
「え、あ、き、綺麗!?」
「はい。すごく綺麗で、話しかけてみたいなって思ったんです。」
「私に…話しかけてみたい…?」
「そうです。でも、廊下では話しかけることができなくて…看護師さんが常に側に居たから。それで、勇気を出そうと思って…。」
「…それで、私の部屋に来たってこと?」
「そうなんです。でも…、勢い余って…その…告白、してしまいました…。」
しゅんとした顔をして、下を向く彼。私が悪いようでバツが悪くなる。
いやでも外側だけを見て、告白してくるやつなんてきっとろくなやつじゃない。
どういうのが普通なのかは私にはわからないけれど、でもきっとたくさん話をしてから、好きになっていくのが普通なのではないだろうかと思う。
それにたった何回かすれ違っただけで、人を好きになるものなんだろうか。私には全くもって、その気持ちがわからない。
だって恋愛なんてことも、ましてや、人を好きになるということもしてこなかったから。どんな感覚なのか、私にはさっぱり分からない。
でも今はそんなことどうでもいい。私は、別に彼のことを好きでもなんでもない。だから断ることなんてすぐにできる。
でも、ちょっとした悪戯心が湧いてしまった。かぐや姫みたいに、無理難題を突きつけてしまえばどうなるんだろうと。
性格が悪いことなんて分かりきっているから、もうどうせ何をやったとしても罪悪感なんて湧かない。
よし、とりあえず何か難題をぶつけてやろう、そう思って声をかける。
「良いわ、付き合ってあげても。」
「良いんですか!?」
私の上から目線の言葉にも嬉しそうに答える姿に、ちょっと罪悪感が芽生えるがそれでも諦めてもらうにはするしかない。
私は人を傷つけることしかできない出来損ないで、お母さんたちの子どもでもないから。
ちょっと寂しい気持ちになったけど、首を振って気持ちを切り替えて彼に向かって言葉をかける。
「ただし!私の要求に答えられたらの話よ。」
「要求、ですか?」
「そう、私からの要求。何?出来ないって言うわけ?なら、付き合うって事は、無かった事に…。」
「やります!」
私の言葉に被せるように、彼が言ってくる。前のめりに、私に顔を近づけて。
まさかこんなにやる気満々で、やりますなんて言われると思っていなかった。
だって、こんな要求を飲まないと付き合わないなんて、そんなことを言ってくる女に誰が付き合いたいと思うんだろうか。私だったら嫌だと思う。
でもこんなに目をキラキラさせて、やるなんて言うと思わなかった。
これは本格的に、無理難題を考えて諦めてもらうしかない。
そう考えて、私が要求を言おうとしたら、先に彼が話し始める。
「貴女の要求だったら、なんだって叶えてみせます…!そしたら、僕と付き合ってまもらえますよね!」
「も、もちろんよ!私に二言はないわ。」
「やった!これで僕の願いが叶う…。」
「え?最後、何か言った?」
「いえ、何も!」
「そう…。」
「それで!まずは何かありますか?頑張って答えてみせます!」
「え、あ…そうね、えっと…。」
無理難題を突きつけようと思ってはいたが、どんな難題を突きつけるかを考えていなかった。 どうしようと、必死に周りを見渡して考えてみる。でも周りに何もなさすぎて、何も思い浮かばない。
彼をチラッと見ると、両の手を胸の前で握りしめて、こちらが言ってくるのを待っている。
キラキラした目に、うっと思わず身を引いてしまう。
何か言わねばと思っていたからか、焦りすぎて頭に思い浮かんだ事を咄嗟に言ってしまった。
「そ、そう!花よ!」
「はな…ですか…?」
「花よ!しかも、ただの花じゃなくて、花束が欲しいわ!」
「花束…。」
花束って、そんな簡単なことを言ってしまったと、心の中で頭を抱えた。
でも、この人は入院中だ。花束なんて簡単には持ってこれないはず。現に、今ちょっと困った表情を浮かべているように見える。
これはいけるかもしれない。そう思考を切り替えて、強気な気持ちになる。これできっと諦めてくれるだろう。
勝ったような気持ちで考えている私をよそに、彼はとてもいい笑顔で話しかけてきた。
「分かりました!明日には持ってきますね!!」
「そう、諦め…って、明日!?持ってくるっていうの!?」
「はい!待っててくださいね!」
「え…!?ちょ、待って…!!」
勢いよく言うや否や、彼は走って部屋から出ていく。
花束なんて、いくらなんでも急に用意できるはずがない。なのに彼は明日、用意すると言ってた。
花束なんて、どうやってすぐにできるんだろう。あんなに豪語して大丈夫なのだろうか。そこまで考えて、頭を勢いよく振る。
私は難題を突きつけて、諦めさせるのが目的だったのだから、むしろこれは好機と言える。明日用意できなくて、きっと諦めてくれるという事が理解できた。
きっと大丈夫だろうと私は確信していた。明日にこの部屋に来た時には、やっぱりダメだったと言うに違いない。
そして、付き合いたいという事を、取り消すことになるはずだ。
私は幸せな気分で眠りにつくことができた。