最悪の事態が…
初の作品です。
暖かい目で見ていただけると嬉しいです!
人によっては不快になる表現がありますので、ご注意ください。
一つ一つのことが大きく重なって、それは破裂してしまう。
そうすると…元に戻せるのが困難になる…。
彼女の悲しみはここから始まった。
白い壁、真ん中になんの変哲もないベット、大きな窓、窓の近くには質素な棚のある机が置かれていて、洗面台もあるが他には何も置いていない簡素な部屋の中。
部屋の中に1人の女の子が車椅子に乗って、静かに窓の外を見ていた。
そんな少女の顔からはなんの感情も読み取ることができないようなほど真顔で、目からは光が消えていた。
少女のいる部屋の引き戸の扉が開かれ、白い服を着た女性、所謂看護師さんと呼ばれる人物がお椀がたくさん乗っているお盆を持っていた。
お盆の上のお椀の中には食事が入っているのであろう。それを少女に声をかけながら机の上に置く。
「朝ご飯よ。今日はいい天気ねぇ。きっといいことが…。あら?」
そう言いながら机の下にあるゴミ箱を見ると、花や色紙、折り紙で作られたであろう折り鶴が、無造作に捨てられているのを見付けた。
ゴミ箱を拾い上げ、少女に向かって看護師が尋ねる。
「どうしたの、これ。折角学校のみんなが作ってくれたんでしょ?なんでこんなところに…。」
「…いらない。」
「いらないなんて、作ってもらったのに…。」
「うるさい!いらないこと言わないでいいから、早く出ていって!」
看護師さんが言い切る前に、少女の大きな声がその言葉を遮る。
少女のその様子に、看護師さんはゴミ箱を置いて慌てて部屋から出ていく。
そして、少女は机の上に置かれたお盆をしばらく見つめた後、車椅子から体を乗り出して、机の上に置いてあるそれを腕で、思いっきり下に向かって払いのける。
そのまま、机が壊れるんじゃないかと思うほど、血が滲み出るほど握りしめた拳で机を叩き始める。
ものすごい音が部屋中に響く。部屋の中を響き渡るのだから、ナースステーションまで届くような音だ。
それでも誰かが来ることはなかった。手から血がでるほど机を叩いて満足したのか、はぁはぁと息を切らしながら、血が出ている手を車椅子の外側へと握り締めた手から力を抜き下へと垂らす。
「何よ…誰も来ないじゃない…。」
少女は、皮肉な笑みを浮かべながらそう呟いた。
目から雫が膝にこぼれていっていた。表情からは、何もかもを諦めたような表情が浮かんでいた。
少女がいる場所は、病院。部屋は4人部屋ではなく、個室であった。
本来ならば個室は高くて入りにくいのであろうが、その少女の家は決して裕福な家庭というわけではないのだが、少女は個室に入っていた。
なぜ個室に入っているのかというと、それは少女の奇行のせいだ。
少女が起こす奇行とは、急に癇癪を起こしたり暴れたり物を投げたりするため、他の患者さんからも忌避されるのみならず、看護師さんからも忌避されていた。
そのためか暴れても他の患者さんに迷惑がないように、個室に入れられることになったのだ。
暴れてしまう少女を説得しようと、家族が会いに来た。しかしそんな家族に少女は物を投げ、二度と会いに来ないように告げたのだ。
それもそうだ。彼女の家は世間体がいい家と言われる家であったが故に、病気であると言うことだけで出来損ないのレッテルを少女に貼ったのだ。
学校に行けている間は少女は開放感に浸れるほど、家の中は息苦しさを感じていた。
しかし病気になった事で、要らないものとレッテルは貼られたが、あの家から解放されて幸せを感じていた。
会いに来た家族は必ず怒った顔をしていて、二度とこないように言った後に出ていってからは、その日以降会いに来ることもなかった。
いろんなことを思い出した少女は、嘲笑を浮かべた。
「みぃーんな一緒。結局は自分が大事なのよ。私のことなんてどうでもいいんだ。」
そのまま小さく、「馬鹿みたい…。」と呟いて、涙をこぼした。
少女の涙を拭う人物は、そこには誰もいなかった。本人とて解っていたのだ。この状況は全て、己のせいだということを。
「まぁ、全部私が悪いんだけどね…。」
わかっているからこそ、嘲笑するかのように呟く。
悲痛な顔を浮かべながら、涙を流し続ける。そんな様子を誰も知る由もなかった。
しかし彼女にだって、こうしている理由だってあったのだ。
少女は少し重い病気でかなり長期の間、この病院に入院している。その中で、初めはお見舞いに来ていくれていた人たちに笑顔で対応していた。
一緒の部屋の人たちとも、楽しそうに話をしていたのだ。
嬉しい反面、少女の中である一つの想いが芽生え始める。勝手な想い、願いかもしれない。
しかし、きっと長期で入院している人ならば、誰しもが芽生える思いなのではないだろうか。
それは、外への羨望。
いろんな人が入院してきては、退院して出ていく。
少女にとっては、長いようで短い期間で去っていく人達。
そして、見舞いに来た友人達の外の話。
出ていく人達見て友人の話を聞いていく中で、彼女の中で喜びを通り越し、悲しみ、憎しみになってきてしまっていた。
ある日、彼女の感情は爆発した。
きてくれた見舞いの子達の持ってきてくれたものを目の前で破り捨て、それをその子達に投げつけ。
「もう来ないでよ!」
そう吐き捨ててしまったのだ。
少女とて、そんなことなど言う気持ちなどなかった。しかし、時はすでに遅かった。
ハッと少女が気がついてしまった時には、冷たい空気になっているのを感じ取って慌てて顔を上げる。
彼女たちの目は、とても冷たいものになっていた。
「何それ、私たちが見舞いに来てあげてるのに…。そう言うなら、もう来ないわよ。行きましょ。」
はたから聞くと正直上から目線の苛立ちすら感じる言葉なのだが、行ってしまった彼女達に少女は泣き崩れた。
こんな事を言うはずではなかった。ただ、羨ましさが勝ってしまった。
それだけの事だったのが、友情いう絆を壊していった。自分のせいで、友情を壊してしまった。
わかった瞬間に、涙は止まることを知らない。
なんて事をしてしまったのだろうと、自分に恐怖して体が震えていくのがわかる。泣きそうな顔でいる彼女に、周りの人たちは慰めの言葉をかけた。
「いくらあなたが強く言ったとしても、あんな言い方はよくないわよね。気にすることないわよ。」
「そうよ。きっと彼女達も反省するわ。」
優しく慰めの言葉を言ってくれる。そんな周りの人たちに、心が温かくなるのを感じる。
でも、わかっていたのだ。きっと彼女達が、もう来ないことを。
しばらく時がすぎていくと、やはり彼女達が来ることはなかった。他の自分のクラスの子達も、誰も来ることはなかったのだ。
そんな彼女を慰め続けた同室の人たちだったが、その言葉が少女にとっては心を串刺しにしてくる鋭い針にしかなっていなかった。
そんな少女のもとに、家族がやってく来る。傷ついている少女を慰めに来たのかと思いきや、思ってもいないことを投げかける。
「あなた、折角お見舞いに来てくれた子達に怒ったんですって?そんなことしちゃダメよ。しかも、作ってきてくれた物も、破いたって聞いたわよ?酷いじゃない。」
「そうだぞ。みんなお前を気遣ってきてくれていたのに。」
まるで少女を気遣うことのない言葉の数々に、少女の心は壊れていく。
なぜ私が責められないといけないのか。私ではなく彼女達が責められるべきなのではないのか。
モヤモヤとした思いが心の中を巡っていく。
少女とて分かっていた。あんな事を言ってはいけなかったことぐらい。
だが、少女のことを考えることなく、責め立ててくる両親に堰き止められていた気持ちが溢れできてた。
「なんで…なんで、なんでなんでなんで!!なんで私が責められるの!?私は、ずっと我慢してたのに!!どんな自慢話を聞いても我慢してたのに!」
「そんな、自慢話だなんて…!彼女達が楽しませようと話してたのよ!?そんなこと言うなんて、そんな子に育てた覚えはないわ!」
「なんでそんなことが言えるんだ!お前には、彼女達の優しさはわからないのか!」
家族の少女の気持ちなど何も考えることのない言葉に、涙が溢れるのがわかった。
流している涙が悔しさから出る涙であると思った家族は、少女に対し心のない言葉をかけ続ける。
そんな家族に、同じ部屋の人たちが反論する。
「なんてことを言うの!来てやってるなんて言う子達に、この子が何か言われる筋合いなんてないはずよ!!」
「そうよ!なのになぜ、この子を責めるのよ!そんなことよくないわ。」
「黙っててください。これは家族の問題です!」
「いいえ、ずっと黙って聞いていたけれど、これは口を出させていただきます。これではこの子が可哀想だわ!」
可哀想、その言葉が少女の心に突き刺さった。
私は可哀想なのか?
この状況が、可哀想に見えるのか?
頭の中にこの思いが流れ込んできた瞬間に、頭の中がぐちゃぐちゃになり、少女の口から大きな声が出ていく。
「わーーーーーーーー!!」
そう叫んだと同時に、近くに置いてあった花瓶を目を瞑りながら投げる。ガシャンと音がしたが聞こえたが、しばらく顔を上げることができなかった。
息を整えた少女が顔を上げると、そこには衝撃の光景があった。頭を押さえながら、床に崩れ落ちる同じ部屋の高齢の女性がいた。
しかも頭を押さえている手の間からは、赤い雫が滴れてきていた。
少女は愕然とした。
散らばる花瓶の破片、血が滴り落ちるのを抑えている崩れ落ちた高齢の女性、自分をまるで怪物かのように見つめてくる人たち。
「違う…違うの…!」
震えた声でそう言いながら、少女は後ろに下がっていく。体が震え出す。
歯が体の震えに呼応して、ガチガチと音を立てる。
そんな少女を、家族が責め立てる。
「何が違う!どうしてこんな事を…!」
「酷すぎるわ!」
「早く謝りなさい!」
「よくそんな事ができたわね!」
「私は
『やめて。』
貴女をそんな子に育てたわけじゃないわ!
『お願い。』
貴女なんて
『言わないで!』
私の子じゃない!」
少女の母が放った言葉を聞いた瞬間、彼女はその場を飛び出していた。
人にぶつかろうと何かを言われようとも、必死に走り続けた。走り続けていると、気がつけば病院の外へと出ていた。
外の空気を感じた瞬間、何だが零れ落ち始めた。気持ちが溢れて溢れてきている内に、笑いが心の内側からこぼれ出てきた。
「あは…あはは…あははははははは!!!」
雨の中であったのに濡れることも気にすることなく、少女の笑い続ける声は辺りに響き渡るほどだった。
少女の周りを歩いていた人々は、少女を忌避の目で見つめて避けるように通っていた。
そんなことなど関係ないと言うかのように、少女は笑い続けた。
これで全てう失った。
もう自分には何もない、少女はそう思った。
家族も、親友も、友人も、仲の良かった人たちも、全て、何もかも失ったのだと、少女はそう考えた。
その瞬間に悲しみよりも、この状況を笑うしかなくなってしまったのだ。
彼女を迎えにきた人たちは彼女の異様な光景に、言葉をかけることができなかった。
それもそうだろう。
誰もが、こう考えてしまったのだから。
彼女は狂ってしまったのだと。
実際、少女は狂ったように見えるのであろう。
しかし、そうではなかった。事実は小説より気なりとは、よく言ったものだ。
狂ったのではなく少女はただただ、苦しみ、悲しんでいただけだった。
そんな些細なことを、周りの人間は気づこうともしていなかった。
拷問とも言えるであろう、そんな状況に置かれてしまっていたのに、考えようともしなかった。
せめて誰か一人でも少女を理解しようとしている人間がいたのなら、この状況は変わっていたのだろう。
悲しいかな、そんな人間はただの一人もいなかったのである。
そして少女は慌てて来た看護師達によって部屋まで戻され、起こった事をについての謝罪と処置をされたのである。
花瓶を当てられた人物は、帰ってきた少女に怯えながらにも見えたが彼女を許した。
傷以外には特に問題がなかったことから、この問題を特に大きくしたくないと、花瓶をぶつけた事について少女が責任を取られる事はなかった。
そこから、少女は大部屋ではなく個室に入れるべきだと病院側が判断して、それを家族が承諾したことによって、本人の意思関係なく個室へと移動させられた。
少女はそこから、患者の人たちにも、看護師達にも、忌避の目で見られるようになり、その目が怖くなった少女は、個室の中に引き篭もるようになってしまった。
誰が悪かったのか。
何が悪かったのか。
それは誰もわからない。
ただ1つ解る事と言えば、少女はいつの状況でも
心も、体も
1人であったのだ。
ただそれであっただけだった。
その状況を、気がついた者はいなかったと言う事実が
そこにはあった
悲しみの連鎖はこうして起こっていった。
それが真実とも言えるのではないだろうか…。
それに誰も気がつく事がなかった。
第一話となります。
いかがだったでしょうか…!
まだまだこの先が続いていきます。
ゆっくり見ていただけると嬉しいです。