『この病院は誰のもの』
双子はいつも一緒に過ごしている。その、最期まで。
「きょうはあめがいっぱいふってる。こわいからはやくやんでほしいな!」
"わたし"は鉛筆を握り、大きな字で日記に書く。それと同時にその内容を声に出し満足そうに絵を描く。
「そうだね。早く止んでほしいね」
隣に居るお兄ちゃんが大きな手で"わたし"の頭を撫でる。それがとても気持ちよく、鉛筆から手を外してお兄ちゃんにぎゅっと抱きつく。その間にもお兄ちゃんは撫で続ける。
"私"達は双子の兄妹。2人とも記憶がなく、ただそれだけを覚えている。だが妹であるこの子の学習レベルは明らかに小学一年生ほどで、対して"私"は高校生ぐらいである。
この記憶が間違っている可能性だってあるが、妹の見た目は明らかに子供であり、その可能性はないと思えるほど"私"達双子には差がある。
「えへへ、お兄ちゃん!今日は雨だからここ探検しよ!」
「もちろん。いいよ、どこに行く?」
「そーっだなー!」
二人は考える。ここは森奥の廃病院、ずいぶん古くなった病院のため床が抜けていたり、壁がなかったり瓦礫に道をふさがれていたりと行けないところが多くある。
「あの部屋は?ベッドの部屋!」
「ベッドの部屋…?あぁ、あそこだね。いいよ」
「やった〜!」
"わたし"はお兄ちゃんから離れ走り回る。
「床が抜けるかも知れないよ」
そんな声も聞かず満足するまで走り終わると
「お兄ちゃん!行こう!」
お兄ちゃんの手を引っ張りこの部屋から出る。
目的の部屋は一個下の階にある部屋だ。いつ抜けるかもわからない階段を2人で歩く。だが不思議と2人でいれば恐怖心なんて無く降りることができる。
その時物音が鳴った。目的の部屋からだ。"わたし"は興味を持ってお兄ちゃんから手を離し走り去る。
「ちょっと!」
お兄ちゃんは後を追いかけその子供一人通れる分に開いたドアを全開にする。
そこには何時だってかわいいショートヘアの妹とベッドの近くに長髪の女性が立っていた。そして女性がこちらを振り向くその瞬間、女性は消えた。
「大丈夫!?」
「えっと、うん。大丈夫だよ!」
妹は笑顔で、物珍しいものを見たような顔でこちらに問う。
「あれなんだったの!?女の人がいたよ!」
その好奇心からくる質問にすこし困惑しながら答える。
「あの人は…」
"私"の憶測は幽霊だと思う。廃病院だし居ても何らおかしくはない。そのまま真実を伝えるか否か…怖がらせてしまったら…
「?…まぁいいや!うーーーーっどーんっ!」
"私"が考え事をしていると目の前から妹の姿が消えていた。どこに行ったかと顔を上げるとベッドで横になった妹が見えた。
「うーっ…ごほっごほ…」
「あはは、埃まみれだね」
妹は埃により咳を出し、"私"がそう言う。"私"が手で埃を取りながら妹を起き上がらせる。
「ありがと…お兄ちゃん。」
"わたし"はお兄ちゃんに感謝しながら立ち上がり、窓に近づき外を見る。窓は半分割れており、そこから雨が入り込んでいる。
雨が入り込んでいるところは水たまりになっており、そこは歩いちゃダメだよ、とお兄ちゃんが言う。
"わたし"が背を伸ばした外を見ると雨が未だにザーザーと降っており、止む気配はない。
「うーん、太陽さん見えないね…」
"わたし"が言い、横を向けばお兄ちゃんと目が合った。お兄ちゃんは微笑み、外を見た。
「そうだね」
そう一言言った時、強風が世界を覆った。
廃病院の中にもその風は吹き込んでいた。ぎりぎり立てるくらいの強風で"わたし"は手で視界を覆った。
強風が突然来ると目を反射的に瞑る。妹と絶対に離れないようにしながら目を開けると先程まで寝転がっていたベッドがこちらに倒れ込もうとしていた。
"私"が妹を守る。そう思い覆いかぶさるように動くとドンッと鈍い音が鳴った。
強風かそして去る。"私"は目を開ける。
"私"はその現実を、見たくはなかった。
"私"と妹はベッドをすり抜けていた。"私"達の体は半透明になっていたのだ。そして直感的に理解した。"私"達は幽霊なのだと。こんな廃病院に居るのも、明らかに幽霊だった女性が見えたのも。全て全てそれで理由がついてしまう。
とりあえず"私"達はベッドから離れ、驚きで何も喋れなくなってしまった妹を安心させる。"私"はしゃがみ妹と同じ目線になって言う。
「大丈夫だよ。ほら、"私"達は…」
そこで言葉に詰まる。生きていると言えない"私"はその言葉を口にできなかった。妹に目を合わせられないと、そう横を向いた時2つの紙が目についた。
"私"はその紙を取る。雨ですこし濡れ、よれているが、一つの紙は最近のもの、もう一つの紙は10年以上前のものだった。その紙に書かれた名前を見れば"私"達双子のものでそこには死亡診断書と書かれていた。その信じられない、もう分かっていた現実が目の前にあった。
「あっ…」
それと同時に記憶を思い出す。"私"達は10年以上も前、小学一年生の頃に交通事故に遭った。"私"と父母は軽傷で妹は重傷だった。妹はこの病院に緊急搬送されたが、惜しくも亡くなってしまった。"私"はというとこの病院に入院しながら闘病していたが亡くなった。
そんな記憶が思い出される。とても悲しい記憶だが"私"は、なんだかホッとした。すべての事象に理由が付き、安心したのだ。
「あのね、」
「…うっ…ど、どうしたの…?お兄ちゃん…」
"わたし"の頭を撫でながらお兄ちゃんは抱きついてきた。
暖かい声色で"わたし"の名を呼ぶ。
「___」
全ての真実を伝えられる。その事実に苦しくなりながらも"わたし"は…、"わたし"はお兄ちゃんと生きれたことが。人生で一番好きだったよ。
「おやすみなさい…"わたし"のお兄ちゃん」
「おやすみ、"私"の愛しい妹」
終