『この透明は誰のもの』
一話完結の短編です。この世界は"私"で構成されてると、誰しもが知っているはずです。
私は誰にも見られていない。きっと、透明だからだ。自分の、体さえ見えない。
「あの、」
「…」
「…あの、」
「…」
彼女はどこかへ行ってしまった。私の目に触れずに消えてしまった。偶然、どこかに。
彼女は私の姉だった。部屋もない。いつの間にか、存在そのものが消えた。私の姉がそうなるのなら、きっと私もいつかそうなる。だから、それが今起きてるだけなんだ。
きっと、そうだ。
「すみません…」
「…」
「……あの、」
「…」
私の姉は、優秀だった。顔もよく、性格もいい完璧人間だった。誰から見ても、もちろん。私から見ても。
姉はバイオリンが得意だった。教室にも通っており、演奏会でも優秀な成績を収めていた。私もその演奏が好きで姉は私の自慢だった。私の全てをあげれるほどに。
私は、姉の為にいた
「……ごめんなさい、あの」
「…」
「すみません…」
「…」
姉は年々笑顔が減っていった。おそらく、透明になっていったからだと思う。私も、透明になって辛いよ。
姉は疲弊していた。何に疲弊していたのかは、定かではないが私はとても心配した。姉は引きこもってしまった。
私が、なんとかしたかった。
「ごめんなさい、」
「…」
「あの………」
「…」
私は引きこもってからご飯もろくに食べずに食べたとしても全て嘔吐していた。痩せ細り、体重計に深夜こっそり乗れば35キロと書かれていた。
そんなに痩せても私はバイオリンを弾くのをやめなかった。明かりさえもつけていない小さな一部屋が、私の居場所だった。
だったはずなのに。
「ごめんなさい、ごめんなさい。」
「…」
「私…私、」
「…」
何もかもが、消えていっていく。
「あの、」
「」
「わた、し。」
「」
私の世界が、崩れていく。
「」
「」
「あたま」
「」
…………
姉の部屋はある時消えた。たしか、冬の時だった。この日も姉の部屋の前にご飯を置きに行こうとしたら、姉の部屋ごと消えていた。
姉の部屋があった場所には、無垢の壁があった。
私は、そこに部屋があったという事実を、姉がいたということを、思い出したくなかった。
その日から何も無い壁からバイオリンの声が聞こえてきた。バイオリンの声は叫び声のようなキンとした声で。私は、気持ち悪かった。
私は何もできなかった。
できなかったから私は姉に失望した。
私は、姉の為にいたはずなのに。姉にも、私にも失望した
鏡を、見た。
バイオリンを弾いた、一目の化け物がいた。
姉は消えた。私も、いずれ消える。
私が消えるのは、全てに したから。
私は、私は。
「 」
終
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