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剣聖ちゃんネクストステージ!  作者: クレイジーパンダ
第一章『新たなる命』
6/21

目撃者

 四歳の誕生日を迎えてからというもの、私にはある程度の自由が許されていた。具体的には、村の中で安全が確保されている場所については、一人での外出が許可された。


 そんなこんなで、ここ最近は自宅を離れ、山に近い場所にある少し開けた場所にいる時間が長くなった。危険な害獣が出ることもなく、木々が邪魔をして村の方角からの視認性はあまり良くない。稀に昼食を担いでやってくる村人はいるものの、その時は気配で察知できるので問題はない。


 と言うのも……自宅の庭でのトレーニングに限界を感じてきたのだ。設備云々ではなく、あまりにも人目につきすぎる。本格的な剣術の訓練に取り掛かりたいというのに、近隣の目があって派手な技を使えないのだ。


 流石に、そこまで目立つことはできない。今の私はただの四歳児として通っているのだ。少なくとも、七歳頃までは実力を隠しておきたい。監視の目が増えれば、それだけ厳しい訓練ができなくなってしまう。


「さぁて……体もこなれてきたことだし、久しぶりにやりますか」


 手製の木剣を構え、目の前に敵をイメージする。私の直感で創り出された、空想の敵。それは、巨大なベア種の魔獣だった。巨大な体躯と刃を通さぬ頑強な毛皮。鋭い爪と牙は、一度獲物を捕らえれば相手が絶命するまで離さないだろう。


 イメージは重要だ。ただの空想と侮るなかれ。強固なイメージは、時に、現実以上に現実を侵蝕する。私が今いるこの世界には、確かに、その魔獣が存在している。


 前世では確か、イマジナリーファイトと呼ばれていた。空想の敵を具現化し、それと戦うことで経験値を積む。ただし、イメージが弱ければ空想は形を成さず、ただの空想に終わる。ある意味、真の強者にのみ許された訓練方法だ。


「……ふぅ」


 前世のように恵まれた身体能力はない。けれど、今世の私には前世以上の魔法の才能がある。


 まずは、事象を書き換える(・・・・・)。体内に流れるマナを用いて、マナそのものを書き換える。身体の自然治癒能力を向上させる治癒魔法や解毒魔法の応用である、身体能力の強化魔法だ。


 肉体に負荷がかかる魔法だ。まだ未成熟な四歳児の体では、そう強くも掛けられない。それでも、元の身体能力とは比べ物にならないほどの力が手に入る。


「……シッ!」


 空想のベア種……イマジナリーベアが吠え、腕を大きく広げながら迫ってくるのを、その小脇を潜り抜けることで避ける。すぐさま体を反転させ、背中を斬り付けた。


 しかし……。


「んがっ……!?」


 空想は強固だ。強固過ぎた。本来はそこに何もいないはずなのに、強固なイメージが私の剣を弾き返した(・・・・・)。実際のベア種の頑強な毛皮を知っている私は、ただの斬撃で、しかもただの木剣では、それに傷一つつけることができないと分かってしまったからだ。


 弾かれた剣を強く握り、後方に跳ぶ。先ほどまで私がいた空間を、イマジナリーベアの凶悪な爪が抉り取った。圧倒的物量で放たれた一撃から、思わず怯んでしまいそうなほどの風圧が襲いかかる。


 たった一度のやり取りで、それこそ、命のやり取りが行われたようだった。双方無傷のままではあるものの、手製の木剣で奴を仕留めるイメージができない。


「毛皮がダメなら……内側からか」


 木剣を腰の高さで、地面と水平に構える。鎧を着た相手や、硬い皮膚を持つドラゴンなど、刃が通らない相手にはとっておきの技がある。


 たらりと、額から汗が流れる。イマジナリーベアは、どうやら私をただの餌としか認識していないようで、涎を垂らして余裕を見せていた。


 次の一撃で全てが決まる。そう思った。


「……っ!」


 先に動き出したのはイマジナリーベアだ。先ほど小脇を潜られたからか、今度は姿勢を低くして体当たりの姿勢で迫ってくる。爪ではなく牙で、このか細い肉体を食い破ろうとしている。


 向こうから来てくれるなら、好都合だ。私は剣を構えたまま、その時を待った。


——そして。


「……今っ!」


 イマジナリーベアが大口を開き、飛び込んでくる。私は少し姿勢を低くして、その胸元に飛び込んだ。


「アニュエ流剣術——砕破刃(さいはじん)っ!」


 構えていた木剣を、イマジナリーベアの胸元……心臓部に向けて振り抜く。命中した部位への『斬撃』ではなく、その内部への『衝撃波』を目的とした技。イマジナリーベアは突進の勢いを殺さないまま、むしろ、その勢いの分だけ威力が増した一撃を、心臓に受ける。


 まだ未熟な四歳児の剣術。だがしかし、前世では邪神をも討伐した世界最強の剣士、剣聖ちゃんの一撃だ。それを、衝撃を逃すこともなく心臓に受ければ……ただでは済むまい。



 ゆっくりと、大口を開けたままのイマジナリーベアが地面に倒れ込む。下敷きにならないようにひょいっと横へ避けると、剣を二度払って腰に差す。


「ふう……衰えてないみたいで安心した」


 袖で汗を拭い、地面に座り込む。死亡してこの世界に来てから四年が経ち、この訓練方法に衰えが現れることを心配していたけど、どうやら、無駄に終わったようだ。


 近くに置いていたカバンからタオルを取り出し、残った汗を拭う。少し休憩したら、もう一戦やってみよう。そう思いながら、水袋を取り出そうとする。



「……ん?」



 その時、何やら視線を感じた。背後から。


 嫌な予感がして、ゆっくりと振り返る。久しぶりのイマジナリーファイトで気が引き締まりすぎていたのか、周囲への警戒を怠っていたか。


 振り返った私の視線の先に、こちらをじっと見つめ、パンを貪り食う一人の少年がいた。



「……おい。今の、何してたんだ?」

「……げっ」



 見覚えのあるその顔に、思わず妙な声が出た。『奴』はそんな私の反応に不快感を示すように、顔を顰めた。


「『げっ』ってなんだよ、げっ、て。幼馴染だろ」

「幼馴染だから見られたくなかったのに……」


 パンを残らず頬張った『奴』は、ゆっくりとこちらに歩いてきて、イマジナリーベアが倒れた辺りでしゃがみ、まじまじと地面を見つめ始めた。


「一人で訓練してただろ? 独特なやり方だな」

「さ、さあ……何のことかなぁ……」

「とぼけるなよ、アニュエ。剣を振り下ろして、勝手に仰け反った辺りから見てたんだぞ」

「見てたなら言ってよ……ザック」


 奴——鍛冶工房のバッツさんの一人息子、ザックは、怪訝そうにこちらを睨み付けていた。


……疑われている。だから、こいつにだけは知られたくなかったのに。


 ザックはこの村でただ一人、私と歳が同じで、所謂幼馴染というやつだ。バッツさんの息子ということもあってか、将来は剣士になってこの村を守ると意気込んでおり、そのせいか、同い年でバッツさんに認められた私を目の敵にしている。


 絶対に面倒なことになるから、知られたくなかった。油断した。まさかこいつに見つかるだなんて。


「いつもここで訓練してるのか?」

「そうだけど……だったら何?」

「いや、別に。気になっただけだ」


 ザックはそう言って立ち上がると、腰に差していた木剣を抜く。何をするつもりなのかと観察していると、突然、こちらへ斬りかかってきた。


「ちょわっ!?」

「ちっ」


 敵意も何もない、軽い素振りのようなもの。だからこそ気付けなかった。ぎりぎりのところでそれを躱すと、私も剣を抜いた。手にしていた水袋は転がり、中身がこぼれていた。


「いきなり何っ!?」

「このくらいなら躱せるんだろうなって思ったんだ。お前、俺より強いから」

「だからっていきなり斬りつけるのはマナー違反ってやつじゃない!?」


 ザックは剣を振り抜いた姿勢のまま動かない。こちらを見ることもなく、言葉を続けた。


「お前……さっき何かと戦ってたんだろ。見てれば分かる。何となくな」


 そうして、私の方を見て、私に、切先を向けた。


「俺とも戦ってくれよ。さっきみたいに」


 突然の挑戦状に、頭が混乱する。話の流れが全く分からない。


「は……? なんで……?」

「なんでも」


 答えになっていない。訳が分からない。


……が、私は知っている。このザックという男、普段は大人しいのだが、一度心に火が点いてやんちゃモードに入ると、何を言っても聞かなくなるのだ。


 これ以上何を言っても、恐らく、戦う結末は変わらない。仕方ない——ここは一つ、剣術の先輩として胸を貸してあげるとしよう。


「……一回だけだからね。満足したら帰ってね、お願いだから」

「ああ。それじゃあ……いくぞっ!」


 お互い剣を構え、駆ける。四歳児同士の、何か信念のようなものを賭けた戦いが始まった。

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