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剣聖ちゃんネクストステージ!  作者: クレイジーパンダ
第一章『新たなる命』
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魔法剣士を目指して

『誕生日、おめでとう!』


 盛大に祝われて迎えた、四歳の誕生日。テーブルの上には祝い事でしか見ないような豪華な食事が並び、そのどれもが私の好物だった。


「アニュエも、気づけばもう四歳か……早いもんだなぁ」

「それ、去年も聞いたよ、お父さん」

「そうだったかぁ?」


 父、イング・バースが愉快に笑う。農業と村の防衛で鍛え上げられた筋肉が、服の上からでも分かるほど、逞しい肉体をしている。私の栗色混じりの黒髪はお父さん譲りなのだろう。お姉ちゃんはお母さん似だけど、私はどちらかと言うとお父さん似だ。


「でも、本当にあっという間ね。アニュエはあまり泣かなかったし、いつの間にか本だって一人で読めるようになってるし」

「そうそう。一人で書庫の本を読んでた時は驚いたよ」

「あ、あはは……」


 忘れもしない。三歳の誕生日の少し前、書庫にいるところをお父さんに見つかった日のことを。危ないからと、珍しく怒られてしまった。


 もっとも、そこで本が読めることをアピールしたおかげで、ある程度の自由が許されるようになったという転換期でもある。今思えば、良いタイミングだった。


「しかし、まあ……」


 お父さんが、ちらりと私の体を見る。


「トレーニングは順調みたいだな、アニュエ」

「うん、まあね」


 魔法の才能が発覚したあの日から、私は体力トレーニングを毎日欠かさず続けている。どうやら今世の私は、前世の私のような天性の身体能力には恵まれなかったみたいだけど、そこは代わりに得た魔法の才能でカバーできる。


 目指すは、前世の私をも超える魔法剣士。そのためには、今のうちから肉体作りを進めていかなければならない。


 恐らく、今の私は、村にいる四歳から七歳くらいの子供の中では一番強いと思う。前世の経験で効率の良いトレーニングを繰り返しているし、魔法の練習だって進めてる。


 そうなってくると、お母さん達も認めざるを得ないだろう。私が本気だということを。


「……いいだろう。そうだな、ラタニア」


 お父さんは真剣な面持ちで、お母さんの方を見た。お母さんは悩むような素振りを見せ、静かに頷く。


「ええ、まあ……アニュエの意思は硬いみたいだし……」

「じゃあ……」


 それは、書庫で見つかったあの日にお父さん達と交わした約束。『魔法剣士になりたい』と言った私に、二人は『一年間、毎日欠かさずトレーニングを続けられたなら、次の誕生日には剣を見繕おう』と告げた。


 恐らく、私の言葉を、まだ幼い子供の戯言だと思っていたのだろう。お母さんは私が魔法剣士になることを良く思っていなかったのか、あまり良い顔はしていなかった。だけど、約束は約束。一年間、私は毎日トレーニングを続けてきた。


「明日……バッツの店で剣を見繕おう。お前が気に入った剣を一本。それが、誕生日プレゼントだ」

「やったっ!」


 約束通り、お父さんは剣をプレゼントしてくれるらしい。小さなこの村にある、ただ一つの鍛治工房、バッツの工房で。


 私と同じように笑うお父さんとは対照的に、お母さんは相変わらず、あまり良い顔をしていなかった。魔法剣士というものそれ自体に、何か忌避感のようなものを持っているように思えた。


(……今度、こっそりと聞いてみようか)


 単に、危険を冒してほしくないからなのか、それ以外の理由があるのか。機会があれば、聞いてみる方がいいのかもしれない。






 その翌日。私はお父さんに連れられ、鍛治工房にやってきた。主婦層の使う鍋から、農耕用のクワ、はたまた防衛組の使う剣や盾まで、様々な品を取り扱う村唯一の工房だ。


 その店主、バッツはきらりと輝く頭をさすりながら、困った笑みを浮かべていた。


「おいおい、イング……親バカもここまで来たか?」

「酷い言い草だな、バッツ」


 何やら、私の顔をジロジロと見つめるバッツ。どうやら、私のための剣を買いに来たということで、不審がっているようだ。


 それも、そうか。私は前世の記憶を持っているものの、側から見れば剣など到底振るうことの出来なさそうな、四歳のか細い女の子だ。誕生日プレゼントが『剣』だなんて、逆の立場なら私だって聞き返すだろう。


「ったく、こんな小さい子の誕生日のプレゼントが剣だなんて……何考えてやがんだ?」

「俺の発案じゃない。アニュエ自身がそうしたいと言って、俺達が出した条件もクリアした。魔法剣士になりたいそうだ」

「……おぅ?」


 お父さんの言葉に、バッツは眉を顰めた。そのままカウンターから出てくると、私の前で屈む。


「アニュエ。オレぁ、お前を赤ん坊の頃から知ってるが……本気か?」

「うん。私、魔法剣士を目指してるの」

「魔法剣士なんて、魔法と剣、両方の才能に恵まれてなきゃただの『器用貧乏』って言われて終わりだ。それでも目指すのか?」

「うん。魔法も使えて剣も使える。最強ってことでしょ、それ」


 バッツは真っ直ぐと私の目を見つめたまま、逸らさない。私の覚悟でも確かめるつもりなのだろう。私が目指すところは前世のアニュエ・ストランダーを超える魔法剣士であり、それが揺らぐことはない。


 やがてそれを悟ったのか、バッツは『やれやれ』と首を横に振り、カウンターの奥へ戻る。天板に肘をつき、首を傾げた。


「……本気みたいだな?」

「だから言ってるだろ。この子が望んでることだって」

「いやいや、立派なもんだよ。この歳で、はっきりとした未来が見えてやがるな。ウチのバカ息子にも見習ってほしいもんだぜ」

「ザックか? あの子も剣士になって村を守るって意気込んでたろ」


 ザック。バッツの息子で、私と同い年。気が強いようで弱いような、やんちゃでありながら大人しいような、よく分からない奴だ。一つ言えるのは、今の私よりも弱い。


 お父さんがザックを擁護するように言うと、バッツは呆れたようにため息をこぼした。


「お前、腐ってやがるな。目が」

「あ?」

「その子がそんなちっぽけなもん目指してるように見えるんなら、腐ってるぜ、イング」


 その言葉に、お父さんは振り返り私の顔を見た。言葉の意図がよく分かっていないようだ。


 そんなお父さんを他所に、バッツは再び私に声をかけた。


「アニュエ。見ての通り、ここには剣も売ってあるが、どれも大人向け……よくて、もう少し大きい子供向けのものばかりだ。はっきり言って、今のお前に合う剣はない」

「そんな……」


 村で剣を売っているのはこの工房だけ。大きな街へ出ればその限りでもないけれど、『四歳の子供では体力的に厳しい』と、まだ連れて行ってもらったことがない。どうやら、街まではそれなりに距離があるらしい。


 もう少し大きくなるまで真剣はお預けか、と肩を落としていると、バッツはニヤリと笑う。まるで見計らっていたかのようだ。


「だから、打ってやろう。少し時間はかかるが、お前のための剣だ。欲しいだろう、そういうの」

「……! うん!」



——どうやら、この工房には今後も世話になりそうだ。剣の完成が、待ち遠しい。

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