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剣聖ちゃんネクストステージ!  作者: クレイジーパンダ
第一章『新たなる命』
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仮面

——気づいた時には、真っ白な空間に立っていた。


「……んぇ?」


 天井も壁もない、どこまでも白い世界が続く空間。見覚えのない場所に、私は混乱していた。


「ここは……一体……」


 ついさっきまで、私は魔獣と戦っていたはずだ。当然、このような白い空間にはいなかった。瘴気の漂う森の中に……いたはずだ。


 魔獣を倒して、私は——そこまで考えて、思考が止まった。


 魔獣を倒したあとは、どうしたんだっけ?


「……おーい、誰かぁ……」


 声は反響することもなく、ただ虚空の中に消えていった。助けを期待することもできず、ひとまず、歩き回ってみることにした。


 こつこつこつと、硬い地面を歩く音がする。壁も天井もないが、床はあるらしい。どこまで続いているか分からない白い空間を、どれくらい歩き続けたか。何の変化もない世界に呆れ返り、私は足を止めた。


「……疲れた」


 その場に座り込み、膝を抱える。ここがどこだか分からない。一体私はどうなってしまったのか、それも分からない。


「お母さん……お父さん……お姉ちゃん……」


 会いたいのは家族だった。生まれた時から孤独だった前世の私には、終始得られなかったもの。大切な温かさをくれる人たち。


 訳の分からない空間に一人放り込まれて、弱気になっていたのかもしれない。涙腺が緩んで、ほろりと、少しだけ涙が流れた。


——その時だった。



「……?」



 どこからか、眩い光が漏れている。前方、遠く離れた場所に、真っ白な空間でも分かる何かの光があった。


……何かの手がかりかもしれない。私はすぐに立ち上がって、再び歩き始めた。


 歩いても歩いても、光との距離が縮まらない——なんてことはなく、もうあと少しすれば、手が届くほどの距離までやってきた。光の正体は、宙に浮かぶ謎の結晶だった。


「……クリスタル?」


 それが何なのかは分からない。ただ、クリスタルから放たれる光から、なんだか懐かしい気配を感じる。元から私のものであったかのような、そんな懐かしさだ。


 思わず、クリスタルに手を伸ばした。指先が触れようとしたその瞬間——視界に、何か霧のようなものがかかった。


「……?」


 立ちくらみをしていた。霧のようなものが晴れて目を開けると、手が触れる距離にあったクリスタルは消えていた。代わりに——目の前には、誰か(・・)が立っていた。


 白いフードを被った、誰か。顔には、真っ白で、目と鼻がなく、不気味な笑みだけが描かれた仮面が、上下真っ逆さまにつけられていた。


「……誰?」


 問いかけるが、返事はない。よく見ると、その誰かの手の中には、先ほどまで私の目の前にあった、あのクリスタルが握られていた。


「それは……何? あんたは、一体……」


 ゆっくりと、その誰かに向けて手を伸ばす。しかし——、



「……いづっ……」



 それに触れようとした瞬間、目に見えない膜のようなものに手を弾かれる。指先を、棘で刺したような痛みが襲う。それには触れられない。直感的にそう察した。


『——まだ、早い』

「え?」


 不気味な声だった。男とも女とも分からない、複数人の声をごちゃ混ぜにして発したような、奇妙な声。それだけ言って、その誰かは、私に背を向けて歩き出した。


「ちょっ……どこに……!」


 いつの間にかあの膜は消えていたのか、私はそれを追いかけた。しかし、走っても走っても、何故だかその距離が縮まることはなく。


 段々と、それの輪郭はぼやけていき、世界も、空間も、私も、やがて曖昧になっていった。そして——、







「……っ!」



——強烈な血の匂いで、目が覚めた。ゆっくりと体を起こすと、そこには真っ白な空間など広がっておらず、魔獣との戦闘を繰り広げたあの森だけが広がっていた。


 気を失う前と違う点があるとするなら、それは瘴気の有無だろう。濃い霧のように広がっていた瘴気は、まるで最初から存在していなかったかのように、綺麗さっぱり消え去っていた。


……全て、夢だったんだろうか? 私は、ただ、この森に来て気を失っただけで……。



 不意にそんなことを考え、周囲を見渡すと、そこには大量の死体があった。どれも、私が倒した魔獣の死体だ。


「……えっと……どこからどこまでが夢だ……?」


 夢と現実の区別も付かなくなってしまったんだろうか、私は。


 一体どうしたものかと頭を掻き、立ち上がる。近くに落ちていた剣を拾い上げ、鞘に納めると、空を見上げた。


——まだ、空は暗い。気を失っていたのはほんの短い時間だったらしい。今すぐ帰れば、お母さんたちが目を覚ます前には、家に着けるだろう。



 死体はどうしたものかと考えた末、朝になれば異変に気づいた防衛組が処理をするだろうと、その場に残しておくことにした。もしかすると、これら全ての魔獣を狩り尽くすような危険な存在が捏造され、いらぬ警戒体制を敷くことになるかもしれないが……実際のところ、そんなものは存在しないから、どちらに転んでも問題はない。


 そそくさとその場を離れ、村へと向かう。途中、交代制で見張っていたらしき防衛組に見つかりそうになったものの、なんとか誰にも目撃されずに、家に帰ってくることができた。


 家の外で、辛うじて残ったマナで服の血を洗い流し、軽く乾かしてから、家の中に入る。



「……よし、皆寝てるし……お父さんもいない」


 居間には誰もおらず、お母さんの部屋からは物音ひとつしない。忍び足で自室に向かうと、ベッドの上で寝息を立てるお姉ちゃんの横に滑り込む。そっと覗き込むと、お姉ちゃんは穏やかな表情で眠りに就いていた。


 何とか……誰にもバレずに、事態に収拾をつけることができた。危ない場面は何回かあったものの、及第点といったところだろう。また同じことをやりたいかと聞かれると、少し微妙なところではあるけど……。


「……ま、結果よければ全てヨシ、ってね……ふぁぁ、眠い……」


 いつもと違う生活リズムで戦闘したせいか、やけに眠気が強い。ふかふかのベッドに潜り込んだおかげで、私の疲労は限界に達し——私は、泥沼に落ちていくように、眠りに就いた。

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