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剣聖ちゃんネクストステージ!  作者: クレイジーパンダ
第一章『新たなる命』
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 足早に、気分は軽く、私はバッツさんの鍛治工房へとやってきた。カウンターの向こう側では、ちょうど休憩をしている最中だったのか、バッツさんが濡れたタオルで頭を冷やしていた。髪の毛一本すらない頭皮が、テカテカと輝いている。


 扉に取り付けられた鈴が鳴ると、そんなバッツさんの視線が私に向けられた。


「おう、来たか、アニュエ」

「うん。そろそろだと思って。もしかして、もう出来上がってる?」

「ついさっき仕上げが終わったところだ。今は一休み中ってところだな」


 バッツさんは、カウンターの上にある水差しの中身を一気に飲み干すと、それを景気良く音を鳴らしながら置く。どこか高級そうに見える、青と白の水差し。水差しではあるものの、中に入っているのはお酒だ——と、以前ザックから聞いたことがある。仕上げた作品が渾身の出来だった時だけ、仕事終わりに飲む一杯。一杯というか、いっぱい(・・・・)というか。


 この場合の渾身の出来というのは、タイミングを考えても、私の剣以外にない。早く剣と対面がしたいと、思わず、体が揺れ動いた。


「へっ……待ちきれないって顔だな。少し待ってろ」


 そう言って奥に消えるバッツさん。小さな椅子に腰掛けて待っていると、やがて、動物の革のようなもので作られた真っ黒な鞘に納められた剣が運ばれてきた。


「これだ」


 専用の台に、その剣を置く。私はすぐさまそれを手に取って、ゆっくりと、鞘から引き抜いた。


 シンプルな意匠。シンプルな両刃直剣。見た目は、私が訓練中に折ってしまった剣とはあまり変わらない。ただ、持った感覚で言えば、少しだけ軽くなったように感じる。


「少し軽くなった?」

「剣身の素材が違うんだ。前回は鉄だったが、今回は青銀(せいぎん)に変えてある。そこそこ質の良いのが手に入ったんでな」

青銀(せいぎん)?」


 聞き覚えのない単語に思わず首を傾げる。


「ああ。魔法が精霊によって引き起こされる奇跡だってのは当然知ってるだろう? 銀はな、その精霊の力を少量ながらも蓄える性質を持ってやがるんだ」

「ほうほう……」

「そうして変質した銀は青く輝くんでな。だから『青銀』って呼ばれてる。硬度も増して武具に向いてる鉱石ってこったな」


 精霊の力を蓄える鉱石。私はそれに似たものを知っている。前世……オルタスフィアでは『レアストーン』と呼ばれていたものだ。外的要因によって、長時間エーテルやマナに晒され変異した鉱石のことである。


 この鉱石を用いて作られた道具には、特別な能力が宿る。主に剣や指輪に加工されていたそれを使うと、レアストーンの力でマナの変換効率などが向上して——平たく言えば、魔法を使いやすく、さらに、強く出力することができるのだ。


「魔法が使いやすくなったりはしないの?」


 私の質問に、バッツさんは困ったやつに笑って、首を横に振った。


「そいつぁ『精霊石(せいれいせき)』で作った武具だな。よく知ってたな」

「あー……本に書いてて」


 全くの嘘である。というか、精霊石なんて名前を聞いたのもこれが初めてだ。


 バッツさん曰く、どうやら、この青銀という鉱石にも等級が存在するらしく、私が言ったような魔法を使いやすくするような効果を持つものは『精霊石』と呼ばれ、青銀と比べてさらに長期間精霊の力を蓄えたものだそうだ。今回の剣に使われた青銀は、それなりに質の良いものではあるものの、精霊石クラスには遠く及ばない代物であるらしい。


 バッツさんは苦笑しながら、頭をぽりぽりと掻く。


「流石に、こんな田舎村の工房に精霊石を卸してくれる奴はいなくてな。もっとも、仮に手に入ったところで、俺じゃ加工できん。力不足ってやつだな」

「へぇ……」


 単純に手に入らないだけではなく、加工さえ難しい。そう言えば、オルタスフィアにおけるレアストーンも、加工には一流の技術が必要だという話を聞いたことがある。特殊な道具も必要なんだとか。


 そうして作られた武具は『レアギアス』と呼ばれていた。アニュエ・ストランダーが左手につけていた指輪も、レアギアスの一つである。


「ちなみに、精霊石で作った武具は『精霊器(せいれいき)』って呼ばれてる。名前くらいは覚えといて損はないぞ」

「精霊器、ねぇ……」


 オルタスフィアでのレアギアスに該当するものだろう。この世界でもいつか手にする機会はあるんだろうか。


(……いや、無さそう)


 少なくとも、この村で生涯を終えるつもりなら、死ぬまで目にすることはないだろう。大きな街に旅行にでも行けばあるいは……ってところか。





……というわけで。



「新しい剣を手に入れましたー!」

「おー」


 剣を受け取ってすぐいつもの広場に向かうと、ザックはまだ一人で特訓を続けていた。そんなザックを呼び出して、剣を掲げると、やや薄い反応で、拍手をされた。


「なんでそんな反応薄いの、ザック。師匠が新しい剣を手に入れて喜んでるのに」

「あんま喜ばねえだろ。師匠が新しい剣手に入れても」


 そうかな? 私なら喜……ぶかどうかは分からないか。相手によるな。


 そんなことは置いておいて。四歳の誕生日に約束していた剣を半年で折って以来、久しぶりの真剣。木剣を使っている時とは違う、妙な緊張感がそこにはある。早速試し斬りをしようと、私は手近にあった木に触れた。


「何してんだ、アニュエ」

「いや、試し斬り用の丸太を作ろうと思って」


 事象を書き換え、鋭利な風の刃を生み出す。もちろん、ザックにバレないようにそれっぽい詠唱をして。木は、大体大人の身長三本分ほどの丸太に切り分けられて、その場に転がった。


「!?」


 ザックが何やらパクパクと魚のように口を動かしている。どうしたんだろう。


 続いて、転がった丸太の先端を簡単に削り出して杭のような形にすると、身体強化の魔法をかけ、思い切り地面に突き刺す。こうすると、簡単に練習用の木のカカシ……というより、棒ができる。


 ここまでして、ようやく試し斬りだ。私は杭から少し距離を取り、腰に差した剣の柄に触れた。そして、神速一閃——剣を振り抜くと、杭が上の端から三枚分、薄い円盤のようになって斬り落とされた。


「アニュエ流剣術——瞬連斬」


 前名乗りではなく、後名乗り。剣を一度鞘に納めると、背後にいるであろうザックの方へ振り返った。


「流石バッツさん。良い剣だよ、これ」

「いや……」


 何故か、ザックは木の陰に隠れ、顔だけを出してこちらを見ている。何故なのか。


「何してんの、ザック」

「お前……もしかして、前もこんな訓練してたの?」

「え、うん」


 あっけらかんとそう答えると、ザックは頭を抱え、項垂れてしまった。


「……そりゃ、そんな使い方してたら親父の剣も半年で折れるぜ……」

「???」


 言っている意味がよく分からないまま……その後、私はザックに、『剣は木を斬る道具じゃない』と、数時間に渡り説教をされたのだった。

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