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黒をはらふ  作者: 徳森真山
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8. 車椅子ジェットコースター

「よし、誰もいねえな」

優くんと岩村さんを歩道へ寄せ、「少し待ってて」と、宇宙(あーす)は確認するように周囲を見渡した。

「何するつもり?」

問いかけるわたしと目も合わさず、アスファルトに転がる石を拾っては端へ寄せる。

「お前さあ、『ジョゼ』とか『ビューティフルライフ』とか観たことある?」

「観たことあるけど……」

「遊園地といえばアトラクションだろ。車椅子は乗り物じゃねぇか」

「話しが読めないんだけど」

「この坂道、車椅子で下ればいいんだよ」

宇宙(あーす)は得意げに親指で後方を指した。何を考えてるんだ、こいつ。

「そんなのダメに決まってるでしょう」

「なんでだよ」

「なんでって、考えたらわかるでしょう。もし怪我させたら、わたしたちじゃ責任取れないよ」

「成功にはリスクがつきものなんだよ」

そう言い放つと、あいつは二人の元へ戻って行った。

「お待たせ。優、お前、遊園地で何がしたいんだ」

「ジェットコースターに乗りたい」

「よし、任せろ」

宇宙(あーす)は、屈託のない笑顔をして、まるで飼い犬のように、優くんの頭をガシガシ撫でた。

「岩村さん、この坂、優を乗せて車椅子で下ってみませんか」

「え?」

岩村さんは目を見開いて、不安そうにわたしを見る。

「ねぇ、やめようよ」

わたしが言い終わる前に宇宙(あーす)が再び口を開いた。

「俺、授業に遅れそうなとき、ここより急な坂道を自転車で下っていたんです。そうしたら、車椅子の男性が颯爽と俺を追い抜いて行きました」

撫でていた右手で優くんの手を、左手で岩村さんの膝の上の手を握る。

「自由自在に運転する、その男性に気付かされたんです。自分でも知らないうちに、車椅子生活の方を気の毒に思っていました。車椅子だからできないんじゃなくて、車椅子だからこそできることがあると思うんです」

彼はさらに強く手を握り、二人と目線を合わせる。

「本物には乗れなくても、俺らがそう思えば、ジェットコースターになります。この下り坂の先はしばらく平坦で、原っぱが広がっています。この時間帯は誰も通らないはずです。下で待っているので、俺に向かって来てください。必ず、必ず、受け止めます」

初めて見る宇宙(あーす)の真剣な眼差しに、思わず背筋が伸びた。

「山本さんも受け止めてくれる?」

いつもの穏やかな表情に戻った岩村さんに問いかけられた。宇宙(あーす)も優くんもわたしを見る。

「はい。必ず受け止めます」

口をついて出てしまった。岩村さんはいつものように「ありがとう」と、微笑む。

「ばあば! 一緒にジェットコースターに乗れるね!」

先ほどの泣き顔が嘘のように、満面の笑みをした優くんは、脇の下を抱えられ、岩村さんの膝上へ移された。

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