6. 折り紙
「それでは、準備ができた方からはじめてください」
いつものように、施設担当者の号令を合図に指先を動かす。
「この前の手芸でも思いましたけど、岩村さんって、ものすごく器用ですよね」
「こういう細かい作業が好きなのよ」
「すごい。わたしは鶴すら折れませんよ」
「あら、おばあちゃんは目を閉じてたって折れるわよ」
そう言うと、岩村さんは実際に目を瞑り、迷うことなく折り鶴を形成していった。
参加するようになって半年、正直、この活動がかったるくて仕方なかった。しかし、共同作業を通じ、自然とコミュニケーションが生まれ、次第に苦ではなくなった。料理教室で婚活イベントが開催される理由がよくわかる。
「あれ、山本のくせに綺麗に折れてるじゃん。仲間だと思ったのに」
わたしが人見知りだと知ってか、宇宙はいつもちょっかいをかけてくる。今日もよれよれの折り鶴片手にやって来た。
「岩村さんの教え方が上手なの」
「山本さんのセンスが良いのよ。宇宙くんにも教えましょうか」
「まじ? ありがとう、岩村さん!」
誰にでも分け隔てなく接する彼は、ここでは絶大な人気を誇る。腑に落ちない。
「すごいよ、岩村さん。俺でも折れたよ」
「次は兜なんてどうかしら。孫にも教えているの」
悔しいが、わたしより数倍のスピードで岩村さんと打ち解けている。
兜を完成させたタイミングで、「ばあば!」と、幼稚園児が岩村さんの胸へ飛び込んできた。倒れかけた車椅子を慌てて宇宙と支えると、小さな瞳が我々の姿を映す。
わたしは両膝をついて、左胸につけたネームプレートを掴み、「はじめまして。『やまもと』です」と、今できる最大限の笑顔を披露した。幼稚園の先生ってこんな風だったな、と、遠い過去の記憶を頼りに演技する自分に驚いた。ちょっとサムい。
「はじめまして。ぼく、ゆう。『やさしい』って書いて、『ゆう』だよ」
好奇と緊張を含んだ表情で、青いお遊戯服の裾を小さく握り締め、一生懸命に伝えてくれた。
「優くん、よろしくお願いします」
「俺は、宇宙。『宇宙』って書いて『アース』って読むんだ」
「すごい! かっこいいね!」
「だろ? 気に入ってるんだ。そうだ、兜を折ったから優にあげるよ」
「ぼくもばあばに教えてもらったけど、まだ折れないんだ」
「じゃあ、一緒に作ろうぜ」
熱心な優くんの姿を見て、岩村さんは嬉しそうに、再び最初から丁寧に折り方を教えてくれた。
橙色のあたたかな夕日が小さな手元を照らす時間、優くんは、ようやく完成させた新聞紙の兜を被り、色とりどりのそれらをカバンいっぱいに詰め込む。「またね」と小さくかわいらしいお手々をひらひらさせ、満足気におばあちゃんと帰って行った。