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黒をはらふ  作者: 徳森真山
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5. 一限目

 正午すぎ、痛みで割れそうな頭を抱え、大学の門をくぐった。


「貞子、もしかして二日酔い? 代返するからたまには休みなよ」

昨日のアルコール摂取量がわたしより多いはずの青葉の身だしなみは完璧だ。起き抜けのまま引っ張り出したTシャツとジーンズ姿が恥ずかしい。

「ボランティアがあるから。今日は折り紙なんだよね。幼稚園以来したことないし、準備しなくちゃ」

 放課後、大学近くのケアハウスで催されるボランティア活動に参加している。各々担当が割り振られ、ワークショップを行う。岩村さんという、七十歳過ぎのおばあちゃんがわたしの担当だ。生け花、水彩画、キャンドル作りに取り組んだ。この活動は地元の新聞記事に掲載されたらしい。就活で使えそうなので参加を決めた。何より、週一回の活動で単位がもらえる。

「アオも履修すれば良かったなぁ。今学期、試験ばっかり。レポートが良いなぁ」


 通常の大学生は、二年間で卒業に必要な単位数の七割を取得し、三年生で残りの単位を埋め、四年生は卒論に集中するというのが理想らしい。それは編入学生にとって厳しい。編入学前に取得した単位を互換認定ができるが、実際に認定される単位は五割で圧倒的に足りない。大卒としてストレートで社会に出るには、ひたすら単位取得との戦いになる。形だけ「大学生」を振る舞っても、中身は永遠に「編入学生」である。


「いやいや、青葉、わたしと同じくらい単位取れてないんでしょう? また留年したらやばいじゃん」

 大型スクリーンに映し出されるスライドの内容を書き写していた手を止め、隣りに座る青葉を見た。ふて腐れた表情で教壇を見つめ、頬杖をつき、鼻先と上唇でシャープペンシルを挟んでいる。隠れて見えないが、両足はきっと床から浮かせて前後にブラブラ揺らしているに違いない。

「アオだって最初は頑張ってたんだよ? ……でも、三年生を二回したから貞子と仲良くなれたんだからオールオッケー」

青葉はこちらを向いて、くしゃくしゃの笑みをこぼした。

「そうだね」わたしも微笑み返す。笑顔とともに落とされたシャーペンを拾い、机上に置いてあげた。

「アオはまだ将来のこと決められないから、大学院でゆっくり考えようって思ってるし。また留年してもどっちでもいいや」

「わたしだって何をしたいのかわかんない。就職することは決めたけど、エントリーシートの志望動機とか何を書けばいいのか」

 教室の外を見遣り、蹴伸びをして溜息をつくと、青葉も同じタイミングでうんと腕を伸ばした。

 同じ人間なのに、何がここまで違うのだろう。

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