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黒をはらふ  作者: 徳森真山
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2. 居酒屋

「どうして宇宙(あーす)が居るの!?今日は貞子とおしゃれカフェデートの予定だったのに!」

青葉は頬を膨らませ、小さな握りこぶしを下方に突き出し、右足、左足、右足と地面を踏みつける。わたしはその頬を自分の両手で包み込み「ごめん、偶然掴まっちゃった」と中の空気を抜く。青葉は眉毛を八の字にしていつもの笑顔を見せた。わたしを見る整った顔がくしゃくしゃになる様は、毎度毎度堪らない気持ちにさせる。


 宇宙(あーす)に連れられ、一品二百八十円の居酒屋チェーンへ入店した。三分の二がゴキブリのせいか、年齢確認はされなかった。青葉はわざわざ黒光りの就活バッグをさらに奥へ移動させ、わたしの隣りに座った。

「で、会社説明会どうだった?」

両手で頬杖をついて覗き込みながら、わたしに聞いてきた。

「まだ就活って実感が湧かないかな」

「山本は寝てたからだろ」

「貞子やる気なさすぎでしょー!」

「だって、動画を流すからって電気消すんだよ。暗くなると寝ちゃうよ」

 中身のない会話が続く。無意識に口が動き、勝手に声帯が活きる。他人との会話は、声が耳を通り、何を意図してその言葉を発したのか、脳をフル回転させ、地雷を踏まない言葉を選択して相槌を打つ。言葉が脳内をあちこち寄り道するせいか、いつも後頭部が痺れて苦しい。

 しかし、青葉は違う。反射神経で会話ができる。普段の何気ない言動から、わたしを正しく理解していることが伝わる。何を言っても誤解されることはない。


「俺さ、初めて面接まで進んだんだよ。自己紹介しろっつうから名乗ったら『アースって読ませるの? キラキラネームって実在するんだな、ツチノコに出くわした気分』ってほざきやがったからな」

 宇宙(あーす)は何故か少ししゃくれながら大きな身振り手振りで面接官を演じ終え、「俺は好きでキラキラしてる訳じゃねぇし、ツチノコって何だ」と、中ジョッキを半分飲み干した。

「アオだったらそんな会社で働きたくないな」

「でも、名は体を表すって言うでしょう。宇宙(あーす)は寛大で良い性格してるよ。わたしなんてお化けだよ」

「お前は気にしすぎなんだよ。ってか、俺にも青葉みたいに『貞子』って呼ばせてよ。俺だけ『山本』呼びなの寂しいじゃんか」

「絶対に嫌。呼んでも返事しない」

 黙った宇宙(あーす)は、食べ終えた枝豆の皮を殻入れへ落とした。皮は容器の縁からはみ出る。死角なのか、彼は気づいていない。

「そもそも名は体を表すってお前だろ。貞実なところとか」

「あー、貞子はいつもお手本みたいな行動するもんね」

「だから驚いたんだよ。説明会で寝てたから」

「その会社がよっぽどつまんないんじゃん?」

何が面白いのか、酒の量が増えるにつれ二人の笑い声は大きくなった。置いて行かれないよう、右手に握る生ビールを飲み干した。



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