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あっという間に一週間が過ぎた。


エリザベスの結婚相手であるルディ第二王子と弟である第三王子ロバート王子が本日から二日間滞在予定のためにライザも忙しく動いていた。

徹底的に掃除をしている侍女たちを見ながらライザはエリザベスのお茶を淹れるためにワゴンを押して歩く。

エリザベスの部屋まで行く途中の長い廊下で、待ち構えていたかのように同僚のフィフィーが声を掛けてきた。


「お疲れ。今日サルセ国の王子が二人も来るのですってね。見染められたらどうしよう」


ワゴンを押して歩くライザに合わせて歩いているフィフィーをチラリとみるといつもよりお化粧が濃く、髪の毛も丁寧に巻かれている。


「王子が侍女に惚れるわけないわ、絵本の読みすぎよ。それに、私たちは美しい女性ではないし。ごく普通の顔をしたただの侍女でしょ。美人ならともかく……」


ライザの言葉にフィフィーは一瞬真顔になり、お互い顔を見合わせた。

不細工と言うわけではないが美人であるとは言えない特徴のないお互いの顔を見てフィフィーはため息をついた。


「確かに、美人だったら今頃嫁ぎ先が決まっているわよね。でも、夢を見てもいいじゃない」


「そうね、夢を見るのは自由ね。私は近くで王子様達を見ることができるから、もしかしたら私の方が見染められたりして」


ライザが言うと、フィフィーは首を振った。


「ないない。よく考えたら私たち美人じゃないし、魅惑的でも魅力的でもなかったわ。現実をちゃんと見ないとだめね。ありがとうライザのおかげで現実に戻って来られたわ」


肩を叩かれてライザの顔を見てお礼を言われるが、納得がいかない。


「私がものすごく不細工な言い方に聞こえるんだけど」


少しむっとして言うライザにフィフィーは目を細めて頷いている。


「仕方ないわ。安心して、きっと可愛いから」


「きっとって何よ」


唇を突き出して言うライザにフィフィーは指をさして笑った。


「その顔が、ものすごく不細工よ」


ライザは慌てて口を元に戻す。


「美人だとは思っていないけれど不細工って言われるのは嫌よ」


「そうね。じぁ、私は持ち場に戻るわ。王子達がカッコよかったら教えてねぇ」


ヒラヒラと手を振って去っていく同僚を見送ってライザは大きく息を吐いてワゴンを押して再び歩き出した。


「全くフィフィーってば失礼しちゃうわね」


美人ではないが不細工だとは思っていない。


美人というのはエリザベスのようなまつ毛一本まで完璧な造形を持っている人の事を言うのだろう。

エリザベスに比べたら自分など足元にも及ばないし比べるのも失礼であるが、あのような顔に生まれていたらと憧れてしまう。

赤茶色い髪の毛と同じ瞳の色、特徴のない顔は笑えば可愛いと母親からは言われていたことを思い出す。


(そんな年中笑っていられないわよね)


心で呟きつつも口角を引き上げながらワゴンを押していると後ろからまた声がかかった。


「ライザ、エリザベスの所にお茶を運ぶのか?」


低い声に慌てて振り返ると大きな体をしたヴィンセント王太子が大量の騎士を引きつれて立っていた。

廊下の端により慌てて腰を低くするライザにヴィンセントは大きな声で笑った。


「驚かせてしまったか。予定より早いがルディ殿をエリザベスに合わせようと思ってな」


そう言うと、横に立っている背の高い男性に視線を送った。


ライザも礼を取りつつ視線だけを動かして隣に立つ男性を見る。


ヴィンセントのように騎士服を着て剣を身に着けているが、煌びやかな雰囲気の男性にライザは見とれた。


美しい顔をしたルディ王子の金色の髪の毛は少し長く風も吹いていないのにサラサラと揺れている。青い瞳がライザを見ると優しく微笑んだ。

エリザベスと同じぐらい整った顔のルディにライザの顔は赤くなる。


ルディの顔を見たまま顔を赤くして固まっているライザにヴィンセントが大きな声を上げて笑った。


「はっはっ、どこに行ってもルディ殿の顔を見て女性が顔を赤くするな!美形で羨ましいですな」


「兄上の顔を見て顔を赤くしない女性はいないですからね。羨ましいです」


ルディの後ろからひょっこり顔をだした青年は顔を赤くしたままのライザを見てニヤリと笑った。

金色の髪の毛と青い瞳どこかルディと顔が似ている青年はサルセ国の第三王子ロバートだろう。

ルディと共に来るという事は知っていたのでライザは慌てて頭を下げた。


ロバートはルディよりも頭一つ低くライザと同じぐらいの背丈だ。

優しい雰囲気を出しているルディと少し少年っぽい雰囲気のロバート。

どちらも美形だが、ルディが飛び抜けて美しい顔をしているとライザは頭を下げながら思った。


「ライザ、王子達のお茶も用意を頼む」


「畏まりました」


頭を下げているライザの返事を聞いてヴィンセント達は護衛を引きつれて歩き出した。

彼らが去った後、ライザは小走りでワゴンを押して給湯室へと向かう。



給湯室へと飛び込んできたライザに、先輩侍女達は侍女を察知しているのかお湯の入った大きなポットをワゴンへと乗せた。


「ほら、大量のお湯と最高級の茶葉だよ。そして人数分の茶菓子ね。まさか、王子達との顔合わせがエリザベス姫様の部屋だとは思わなかったわね」


息を切らしているライザに、先輩侍女はワゴンの上に人数分のお茶の準備をしていく。

息を整えながらライザは頷いた。


「そうですね。てっきり城の中のちゃんとした場所でお会いすると思っていました。エリザベス姫の部屋の掃除を完璧にしておけばよかったです」


「あれよ、姫様が嫌がって会いに来ないかもしれないと考えてのことかもしれないわね。やるわね、ヴィンセント様も」


「なるほど。そうかもしれませんね」


予想外の時間に部屋に来られたら絶対に逃げられない。

とりあえず顔合わせだけしてさっさと嫁に出そうというヴィンセントの考えなのだろう。


(あのエリザベス姫が素直に嫁に行くとは思えないけれど)


「それで、王子様達はどうだった?ルディ様は凄く美しいって評判じゃない?」


先輩侍女の一人がワクワクしながら聞いてきたのでライザは頷いた。


「はい。美しすぎて見とれてしまいました。弟のロバート様も大変可愛らしかったです」


「ルディ様は今年28歳で弟のロバート様は25歳。母親違いの兄妹なのよね。ルディ様のお母さまは事業で成功した一般の家庭の生まれらしいわよ」


急いでお茶を淹れに行きたいが、先輩たちの会話にライザは足が止まってしまう。


「えっ?腹違いのご兄弟なのですか?」


言われてみれば顔はどことなく似ている程度だ。

エリザベスとヴィンセントの二人があまりにもタイプが違うため兄妹といえども似ていないことに違和感を感じなかったが、ルディとロバートはエリザベス兄妹よりは似ているとライザは思った。


「有名な話よ。ルディ様のお母さまがあまりにも美しいからサルセ国の王様が手籠めにされたそうよ。第二夫人にと言われたそうだけれど辞退されたって。でも息子であるルディ様は王家に迎え入れたってね」


「へぇ、複雑なのですね」


(王家もいろいろ大変なのね)


ライザは頷いて話を聞いていたが、エリザベスの部屋にお茶を出すという大役を思い出して慌ててワゴンを押して歩き出した。


「ありがとうございました」


小走りで去っていくライザに先輩侍女が声をかけた。


「後でどんな様子だったか話を聞かせてね!」


「はーい」


ライザは頷いてエリザベスの部屋へと急いで向かった。





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