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27(最終話)

「ちょっと!ライザ!どういう事!」


「な、なにが?」


体も元に戻りエリザベス付の侍女に戻り数日が経過した。

体が元に戻っても姫様の我儘も癇癪も治ることなく日々変らず過ごしている。

ただ変わったのは、ライザは以前よりエリザベス姫が大好きになったことだ。



城の廊下を歩いているライザをフィフィーが怖い顔で腕を掴んできた。


「何がじゃないわよ!あのルディ王子とアンタが結婚をするって噂が出ているのだけれど嘘よね!」


真剣な顔をして聞いてくるフィフィーにライザは首を傾げた。


「結婚するかどうかはわからないけれど……」


「そうよね!噂は嘘よね」


安心したとほっとしているフィフィーにライザはニッコリと笑った。


「私、ルディ王子の家へ行くことは決まっているのよ」


「どうして?侍女として引き抜かれたの?まさか、王子がアンタに惚れたということは無いわよね」


怖い顔で聞かれてライザは勿体ぶりながら頷く。


「惚れたかどうかは分からないけれど……侍女としてではないと思うわよ」


言っていて侍女としてではないはずだと自分の心に納得をさせる。

間違いなくあの日ルディはライザの事を可愛いと褒めてくれし大事にしてくれていた。

勘違いではないはずだ。


「嘘でしょ……。なんか、負けた気分だわ……」


落ち込んでいるフィフィーの背中をライザは叩いた。


「大丈夫よ。フィフィーにもきっといい人が現れるわ」


「アンタに言われると腹が立つわ!私だって、負けないんだからね!」


キッと睨みつけると大きくため息をついた。


「仕事はいつまでやるの?あっちの国は今大変だそうじゃない?なんでも血塗れ王が王位から引きずり降ろされて何処かに幽閉されているんでしょ?」


「私も詳しい事はわからないわ。ルディ様が迎えに来るまで待っているの」


顔を赤くして言うライザにフィフィーは冷たい目を向ける。


「ホーホーそうですか。一番幸せから遠いと思っていたのに!まぁ、同僚が居なくなるのは寂しいけれど、幸せになりなさいよ!陰ながら応援しているわ」


ギュッと抱きしめられてライザもフィフィーを抱きしめかえした。


「ありがとう。私もどうなるかわからないし、もしかしたらルディ様の気が変わるかもしれないわ。迎えにこなかったら、ずっと城で働いているかもしれないからその時は一緒に笑ってね」


「大丈夫よ!自分を信じなさいって」


フィフィーに励まされてありがとうとライザは小さく呟いた。



ガラガラとワゴンを押しながらエリザベス姫の部屋へと向かう。


そろそろ午後のお茶の時間だ。


時間を一分でも遅れると怒られるために、ライザは速足で部屋へと向かった。


「失礼します」


部屋へ入るとエリザベスはお気に入りのドレスをトランクに詰めているところだった。


「なにをしているんですか?」


ワゴンを押しながら部屋に入り顔を顰めているライザに、エリザベスは晴れ晴れと笑う。


「今からブルーノの田舎に行くわ。やっと一緒に住めるのよ」


「えぇぇぇ?」


いつの間にそんな話になっていたのだと驚くライザを気にせずに大切なものを適当にトランクに詰め込んでいる。


「今お兄様と話しているわ。お兄様はすでに許可をしてくれていたのだけれど、ブルーノが気持ちを認めないから苦労したわよ」


亡くなった奥さんの事を忘れられないのだろうかと思いながらライザは頷く。

簡単な荷物を摘めてトランクを閉めると、ドアがノックされてブルーノが顔を出した。

後ろにはヴィンセントの姿もある。


頭を下げるライザにブルーノは人のいい笑みを浮かべた。


「久しいな。元気にしているようでなによりだ」


気軽に話しかけられてライザも微笑んでもう一度頭を下げた。


「はい。ご結婚おめでとうございます」


「うむ。俺の心が決まらずエリザベスには随分待たせてしまった。だが、前の妻を愛している俺のことも好きだと言ってくれたからな……」


その言葉を聞きながらヴィンセントは渋い顔をしている。


「仕方ないエリザベスはお前がいいと言って聞かんからな。無理やり嫁がせても乱暴な妹がその夫を殺す未来しか見えないからな」


アレクサンドル王の腹の傷口を足でグリグリと痛めつけているエリザベスを思い出して、ライザも大きく頷いた。

エリザベスは偉そうに鼻を上に向けてニッコリと微笑む。


「望みは自分で勝ち取るものよ。諦めなければ必ず手に入るのよ」


「その通りですね」


姫は言葉通り努力をしてブルーノという伴侶を勝ち取ったのだ。


(私も頑張ろう!)


ルディが本当に迎えに来てくれるのか不安になっているライザが感動して頷いた。


「私もそちらへ行った方がよろしいですか?」


姫様付の侍女としてはついて行った方がいいかとライザが尋ねると、エリザベスは首を振った。


「結構よ。産休していた侍女があっちで復帰するから」


「そうなんですね」


ブルーノの領地までついていくのだろうかとライザが首を傾けているとブルーノが付け足した。


「一家で俺の領地に引っ越してくるそうだ。田舎で子供を育てたいそうだ」


「なるほど」


長年エリザベスの世話をしてきた侍女が復活するのなら自分は必要ない。

ライザは少し寂しくなりながら頷いた。


「アンタも、ヒョロ男が迎えに来てくれることを祈るわ」


「ありがとうございます」


エリザベスはライザに励ましの言葉をかけて風のようにブルーノの田舎へと旅立って行った。



エリザベス付の侍女から、元の城のただの侍女に戻ったライザは忙しく働いていた。

水仕事が多くなり、重いバケツを持って階段を上がったり下がったりしている毎日だ。

季節は夏になり、暑い風が廊下を吹き抜ける。

ジリジリと熱い日差しが庭を照らしているのを眺めながら額の汗をぬぐった。


「はぁ、暑い」


小さく呟いて手に持っていた水入りのバケツを廊下に置いて少し一休みをする。


体力はある方だが暑いというだけで疲労が増している。

春の終わりにルディと出会い、あっという間に夏がやってきている。

いつか迎えに来てくれると期待をしていたが、ルディから手紙一つ無い。


噂を聞いている侍女達がヒソヒソと“王子の気まぐれ”と言われているのは知っているが、待っていてほしいというルディの言葉をライザは信じている。


それでも、たまに不安になる時があるがその時はエリザベスの言葉を思い出すのだ。

諦めなければ必ず手に入ると。


侍女達は年中怒っているエリザベス姫が居なくなった事にせいせいしたと言っているが、ライザは寂しくて仕方がない。

いつの間にか、エリザベスのお小言や怒鳴り声が可愛く思えていたのだろう。

いつまでもこうしていても仕方がないと、ライザはバケツを手に持って歩き出した。


「ライザ!」


会いたいと思っていたルディの声が聞こえた気がしてライザは首を傾げた。

あまりにも会いたいと思っているのと暑さで空耳かと自分を納得させて歩き出す。


「ライザ!どうして無視するの」


空耳ではなく、会いたいと思っていたルディの声にライザはゆっくりと振り返った。

気配を消して近づくのが得意なルディはライザのすぐ後ろに立っていた。


「わっ!」


直ぐ近くに立っているルディに驚いているライザに軽く笑った。


「ごめんね。いろいろと忙しくて手紙すら書けなかった。迎えに来たよ」


両手を広げてニッコリと笑っているルディをライザは目を見開きながら見上げる。


忙しかったのか少し頬がホッソリとしたが、美しさは損なわれていない。

彼の周りにキラキラした光が見えるような気がしてライザは何度も瞬きをした。

自分が見せた幻影だろうかと思うほど彼が輝いて見える。


「本物のルディ様ですか?」


訝しみながら見上げるライザにルディは肩をすくめる。


「本物だよ!」


失礼だなと言いながらルディは広げた手でライザを抱きしめた。

ギュッと力強く抱きしめられて、本物のルディだとライザは認識する。


「えぇぇぇ?本物!ど、どうしてここに?」


狼狽えるライザが面白くてルディは笑いながら抱きしめる腕に力を入れた。


「迎えに来たんだよ!聞いたよ、エリザベス姫はブルーノ殿と田舎の領地で暮らし始めたらしいね。あれだけ糞田舎って馬鹿にしていたくせにね」


「そうです。突然ブルーノ様と城を出て行きました」


ルディに抱きしめられながらライザは頷いた。


「僕もライザを迎えに来たんだ。さっさと荷物をまとめてあの館に帰ろう」


「えっ?まだ仕事がありますし、そんな急には行かれません」


今すぐにでも出発しそうな勢いにライザは驚いて声を上げた。

ルディはライザを抱きしめたまニヤリと笑う。


「大丈夫。ヴィンセント殿に許可は取っているし、ほら君の同僚だって許可してくれるよ」


そう言ってチラリとライザの背後に視線を向けた。


ライザが振り返ると、フィフィー達が廊下の角から顔を出してこちらを見ている。

ライザと目が合うと大きく頷いてさっさと行って大丈夫とジェスチャーで伝えてきた。

ルディに抱きしめられているのを目撃された後、城に残って働くのも大変だなと思いライザは頷く。


「わかりました」


「よかった。あんまり待たせたから断れるかと思った」


ホッとしたと笑うルディにライザは首を振る。


「そんな。断るなんて……」


「僕もあの館に戻るのはあの日以来なんだ。きっとミーガンが美味しいお菓子を用意して待っているよ」


ライザの手を繋いでルディは歩き出した。


「どこへ行くのですか?」


目的地が解っているような確かな歩き方に手を引っ張られながらライザはルディに尋ねる。


「荷物をまとめるために君の部屋だよ」


「えっ?」


まるで自分の部屋を知っているかのように歩いているルディ。

彼は何でも知っているのだろう。


「あっ、バケツを片付けないと……」


ライザは思い出して振り返るとフィフィーがバケツを持って手を振っているのが見えた。

ジェスチャーで片付けておくからサッサと行けと伝えてくる。


「ライザ用に麦わら帽子を買ってあるんだ。きっと似合うと思うよ」


ルディはライザの手を繋いだままニッコリと微笑む。


「ありがとうございます」


「ロバートの戴冠式は来年行われることになったからそれまでに僕達も籍を入れて、一緒に参加しようね」


なんてことないようい言うルディにライザはまた驚いて声を上げた。


「戴冠式に私が出席?というか、今さらっと籍を入れてと言いました?」


先ほどから夢ではないかという言葉をルディから聞いて真実味が湧かない。


「言ったよ」


ライザの手を引っ張りながら歩くルディは上機嫌に頷いた。

すれ違う侍女達が目をまるくしてライザとルディを見つめている。


「あの、手を離してください。それに、どうしてここでそんな話を……」


侍女達の目が気になって仕方ないライザにルディは強く手を握った。


「だって、ライザは“王子の気まぐれ”で期待させられて可哀想にって城で噂になっているんだろう?」


「ど、どうしてそれを!」


「さぁ、どうしてでしょう。こうして歩いていればそんな噂は無くなるし、ライザの悪口を言っていた人も悔しい思いをするし一石二鳥だね」


自分の悪口を言っている人が居たのかと初めて知ってライザは驚いた。


「ルディ様の方が城の内情に詳しくありません?」


それも他人の城なのに……。

怪しいというようにライザの視線をルディは軽く受け流した。


「まぁね。さぁ、早く荷物をまとめて」


いつの間にかライザの寮の部屋の前にたどり着いていた。


ルディに急かされるように急いで荷物をまとめる。


もしかしたらルディはこないかもしれないと思っていたが彼はちゃんと約束を守ってくれた。

エリザベス姫が言っていた言葉を思い出す。


“望みは自分で勝ち取るものよ。諦めなければ必ず手に入るのよ”


エリザベス姫の偉大さを感じながらライザは物珍しそうに部屋を見ているルディを振り返った。


「準備できました。あとは送ってもらいます」


「じゃ、帰ろうか」


そう言ってルディはニッコリと笑って手を差し出した。


「はい」


ルディの手に自分の手を重ねてライザは頷く。

これから先もどうなるかは分からないが、彼とずっと一緒に居られるように諦めず頑張ろうと心に決めてルディに手を引かれて歩き出した。



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