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二階の自室へ戻ったライザはクローゼットを開いた。


城から持ってきた色とりどりのドレスがぎっしりと掛けられている。

動きやすいようにと今日は簡素なワンピースを着ていたがエリザベス姫はこのようなワンピースは着ない。

ルディにエリザベス姫はいつもドレスを着ているという情報を教えてもらった時は気を付けていたが、最近は生活に慣れてしまいワンピースを着ていたのだ。

真っ赤な色のドレスをクローゼットから取り出して急いで着替え、化粧を整えた。


鏡に映る自分の顔は何度見ても慣れない。

美しすぎる完璧な顔のエリザベスが映っている。

濃い目の化粧を施したエリザベスの顔に真っ赤な口紅を塗っていく。


「私はエリザベス……」


気持ちを切り替えようと鏡に映る青い瞳を見つめ暗示をかけようと何度か呟いた。


ここ数日は素の自分で過ごしていたためにエリザベスを演じるという緊張感とストレスが襲ってくる。

それも血塗れ王と恐れられているアレクサンドル王の前で演じないといけないのだ。

上手くいくだろうか。


不安で胃が痛くなってくるが、逃げるわけにはいかない。


(ルディ様をヒョロ男なんて呼べるかしら……)


好きな人を冷たい目を向けて酷い言葉を言う事が出来るか不安になるがやらないといけないのだ。

頑張ろうと心に決めた時に屋敷に人が尋ねてきた気配がした。

耳を澄ませて下の階の気配を探る。


ガヤガヤと数人の男が入って来た声がし、ルディが迎えているのが聞こえてきた。


「アレクサンドル兄上、お久しぶりです。急にどうされましたか?」


落ち着いた雰囲気で言うルディの声が聞こえて直ぐに大きな声が聞こえてきた。


「なに、元気にしているかと思ってな」


爽やかなルディとは違い野太い大きな声が聞こえる。

アレクサンドル王の声だけで恐怖を感じてライザは足が震えてくる。

野太い大きな声だけで体格がよさそうで狂暴そうな雰囲気が感じられた。

怖くて逃げたしたいが、ルディとエリザベスの生活の様子を見に来たのだろう。


(いつもの偉そうなエリザベス様を演じるわよ!)


ライザが再度決意したときに、ドアがノックされた。


「なにかしら?」


今、自分はエリザベスなのだ。


偉そうに答えると申し訳なさそうにミーガンがドアを開けて部屋に入って来た。


「エリザベス様、アレクサンドル王が突然来られまして。姫様をお呼びです」


先ほどまで心配そうにしていたミーガンとは違い、エリザベスの我儘にビクビクしている様子を出している。

演技が上手だなと感心しながらエリザベスも偉そうに鼻をツンと上げてミーガンを見下ろした。


「王が?仕方ないわね」


嫌々という様子をだして、エリザベスは部屋から出る。

赤いドレスに着替え、化粧も完璧だ。

どこから見ても世界一美しいエリザベス姫だ。


凛と背を正して嫌々という様子で階段をゆっくりと降りて行った。


「貴様がエリザベス姫か……」


階段を降り切る前に野太い声がしてライザはチラリと視線を向ける。

ヴィンセントと同じぐらい大きな体をした男がニヤリと笑って立っていた。


「はじめまして。アレクサンドル王。わざわざ雨の中、お疲れ様ですわね」


内心怖くて仕方なかったが、エリザベスが言いそうな態度で言った。

アレクサンドル王は鋭い目青い目をライザに向け鼻で笑った。

顔つきはよく見ればルディと似ているようにもみえるが、やはり母親が同じロバートの方がよく似ている。


優しい顔をしたロバートよりも、鋭さが強く人をいつ殺すか分からないような雰囲気を漂わせていて恐ろしい。


アレクサンドル王の赤いマントは雨でぬれていて床に水溜まりを作っている。

上半身だけ鎧をつけて腰には大きな太い剣が鈍く光っている。


血塗れ王と呼ばれている事から、あの剣で何人殺したのだろうと思うと恐ろしくなってくるがライザはツンと顎を上へ向けた。


生意気に見えていればそれでいい。


王はジッと見つめると、つまらなそうにルディを振り返った。

いつもと変わらないように見えるが、ルディの瞳の奥が心配そうに揺れているのが見えてライザも不安になる。


「つまらん。もっとギャーギャー騒ぐ女だと思っていたが普通だな」


アレクサンドル王の言葉にルディと後ろに居た王の部下たちに緊張が走った。

自分に興味が無くなったのならそれでいいではないか。


ライザがそう思ったと当時に腹に激痛が走り後ろの壁に叩きつけられた。


腹の痛みで立ち上がることができず、ライザは腹を押さえて廊下にうずくまった。

追い打ちをかけるように、アレクサンドルが黒いブーツを履いた足で再度胸のあたりを蹴りつけてくる。


「兄上!おやめください!」


一回胸を蹴られて、息が吸えないほどの痛みを感じているとルディが慌てて止める声が聞こえた。


「なぜ止める。お前もこの女が嫌いだろう?」


「好きではありませんが!さすがに他国の姫に暴力を振るのは問題になります!」


胸とお腹が痛み起き上がることも目を開けることもできないが、ルディが必死で止めている声が聞こえてくる。

様子を見ていたアレクサンドル王の部下たちもルディの言葉に賛同している様子がうかがえた。


「ヴィンセント王の怒りを買いますよ」


「あんな男、俺の相手でもないわ。しかしつまらん女だったな。口と腕は達者だと聞いていたが……ただの噂だったか。やり返してくるか、薄汚い言葉を吐くか楽しみにしていたのに。痛みでうずくまるなどただの女だな」


興味を無くしたとアレクサンドル王は呟いて、うずくまったままのエリザベスの姿をしたライザを見下ろした。


「誰でも兄上に突然殴られれば同じようになるかと思いますが」


無表情にルディが言うと、アレクサンドル王は眉を上げる。


「それもそうだな。俺の攻撃をかわせる者はこの世には居まい」


上機嫌になったアレクサンドル王に部下たちもホッとしたように頷いている。


「つまらんから帰る。お前にはまた今度なにか余興を考えておこう」


「いえ、結構です。この田舎で好きでもない相手と生活しているだけでストレスが凄いので」


嫌そうに言うルディにアレクサンドル王は満足そうに頷いた。


「お前を虐めるのはこれだけではまだまだ足りないな……」


アレクサンドルは唸るように低く言うと退屈そうに廊下を歩きだした。


「こんな糞田舎、さっさと帰るぞ」


「は、はっ」


アレクサンドルが歩く後を顔色が悪い部下たちが付いていく。

世界一美しいと言われる姫を殴りつけたアレクサンドル王に恐怖している様子が伺えてライザは床にうずくまりながらうっすらと目を開けた。


廊下に水滴を垂らしながら去っていくアレクサンドル王の後ろ姿を見みつめた。


(噂と見た目通り、恐ろしい人だわ)


しばらくすると数頭の馬のいななきが聞こえ遠くへと駆けていく音が聞こえた。

アレクサンドル王に殴られ蹴られた箇所はまだ痛い。


廊下に寝転がっていると、ルディが廊下を駆けてくるのが見えた。


「ライザ!大丈夫?」


横たわっているライザの背に手を入れてゆっくりと起こしてくれる。

ルディの手を借りなければ一人で起き上がることもできないほど蹴られた箇所が痛い。


「姫様の体なのに、骨が折れていたら大変ですね」


痛みで顔をしかめながらライザが言うと、ルディは眉をひそめた。


「エリザベス姫のことよりも君の事だよ。大丈夫?ちょっと触るね」


そう言いながら蹴られた場所を丁寧に確認していく。

グッと力を入れて押され、痛みでライザは顔を歪めた。


「いたい!」


「多分、骨は折れていなさそうだけれど……立ち上がれるかな?」


「……なんとか」


蹴られた時よりも痛みはだいぶ引いている。

ルディに抱えられるようにしてヨロヨロと立ち上がるが蹴られた腹が痛み座り込みそうになる。

ルディは慌ててライザを抱え上げるとそのままソファーへと向かった。


「す、すいません」


「いや。軽いからだ丈夫だよ」


心配そうな目で見られてライザは顔を逸らした。


「本当の私の体はもう少し重いですけれどね……」


拗ねたように言うライザにルディは軽く笑った。


「そうなの?体が戻ったら確かめるよ」


(体が戻ったらもう二度と会わないし、こうして気楽に話せる仲じゃないのに)


押し黙ってしまったらライザの顔をルディが覗き込んできた。


「大丈夫?」


「だ、大丈夫です。痛みも和らいで来ていますから」


近すぎるルディの顔にドキドキして体を離したかったがお腹と胸が痛み動けない。

痛みで顔を顰めて手でお腹を押さえるライザにルディは眉をひそめたままだ。

お腹を押さえるライザの手の上から自らの手を重ねてくる。

大きなルディの手に胸が高鳴りすぎてどうにかなりそうだ。


「アレクサンドル王は酷くなってきているな。人を痛めつけるのが楽しくなってきているらしい」


「私が嫌いだから殴ったんではないのですか?」


他国の姫だから殴られたのではと、ライザが言うとルディは軽く肩をすくめる。


「それもあるかもしれないけれど、少し機嫌が悪くなっただけで最近は人を殴ったりするらしいよ。もう何かの病気だね」


「病気……」


ライザが呟くとミーガンが部屋に入って来た。


「大丈夫かい?まったく、女を突然殴るなんて酷い男だよ。この田舎の館には医者なんていないからとりあえず、折れないなら張り薬でも貼っておくといい」


ミーガンは怒りながらも張り薬を手にライザの隣に座った。


「そうだね。かなりの応急処置だけれど張り薬で対処しよう。洋服を脱がないと貼れないね。部屋へ行こう」


ルディはそう言うと、ソファーの上に横になっていたライザの体を両手で持ち上げた。

お姫様のように横抱きにされてライザは顔を赤くしながら首を振った。


「痛みも治まって来たので自分で歩けますから!大丈夫です」


ルディと体が密着している状況が恥ずかしくて必死で首を振るライザだったが、気にする様子もなく彼は歩き出した。


「無理しない方がいい。体はエリザベス姫なのだから何かあったら大変だ。もちろん、ライザの体であっても僕は同じことをするけれどね」


軽々とエリザベスの体を抱えてルディは階段をゆっくりと登って行った。

できれば本当の自分の体で抱っこされたかったと思ったが、エリザベスよりも体重が重いことに気づいて慌てて首をふった。



ライザを部屋のベッドへと降ろすとルディは心配そうな顔をしつつも微笑んだ。


「よくミーガンに診てもらうんだよ。僕は失礼するけれど何かあったらすぐに呼んでね」


「わかりました」


心配してくれていることが嬉しくて痛みも忘れてライザも薄く微笑んで頷いた。

それを見てルディも頷いて部屋から出て行った。

ライザはベッドに横になったままでいると、ミーガンが張り薬を手に近づいてくる。


「さぁて、よく見てみようかね」


そう言ってさっさとドレスを脱がすとアレクサンドル王に蹴られた箇所をゆっくりと押し始めた。

痛みが走りライザは声を上げる。


「痛いです!」


「折れては無いようだね。青くなっているけれどそんなに腫れていないようだね。ちょっとは手加減したのかね、あの王も……」


ルディと同じように言ったのを聞いてライザはホッと息を吐いた。


「ルディ様も同じことを言っていました。二人に言われれば安心です。この体はエリザベス様のだから……」


「アンタは偉いねぇ。他人の事を心配して。元の体に戻れるかもわからないのに」


ミーガンは呟くと貼り薬を丁寧にエリザベスの体に貼っていく。

真っ白なエリザベスの肌に二か所大きく青くなっている。

もし、アレクサンドル王が本気で蹴っていたら骨が折れていたかもしれないと思うとぞっとする。

世界一美しい姫の体を傷つけてしまって申し訳ないと思いながらライザはラフな洋服に着替えさせられた。


「今日はゆっくりしていた方がいいね。何かあったら大きな声で呼んでくれれば直ぐに来るからね」


「ありがとうございます」


エリザベスの体なので無理はせずにミーガンの言う通り大人しくしていようとベッドに横になった。

ベッドに入ったのを確認してミーガンは部屋を出て行った。


蹴られた箇所の痛みはだいぶ引いてきているが動くのは辛い。


ベッドに横になりホッとしたのか改めて恐怖が襲ってきた。

出会い頭に突然殴られたこともアレクサンドル王が噂通りの男だったこともショックだ。

優しいルディと腹違いとはいえ同じ血が通っているはずだから少しは優しいのだと思っていたためにショックが大きい。


「ダメだわ。少し寝よう」


心が落ち込んでいる時は寝るに限るとライザは目を瞑った。

考えていても何も変わらないのだ。

心も体も疲れているせいかあっという間に眠りについた。




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