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午後になり、ヴィンセント王太子がエリザベスを訪ねてきた。


護衛騎士を数人つれてエリザベスの部屋へとやってきたヴィンセントにライザは緊張で震えながらお茶を出す。


約一年、エリザベスお付きの侍女をしているがヴィンセントが部屋を訪ねてくるなど過去に2度しかない。

ライザが初めてヴィンセントと会ったのは、エリザベス姫お付きの侍女にスカウトされた時だ。世界一美しいエリザベス姫の兄だけあり、さぞ美しいのだろうと期待をしていたが残念なことに父親であるバラ王国の現国王とそっくりの男らしい顔だった。


短く刈り込んだ金色の髪の毛は妹であるエリザベスと似ているところがあるが、顔はあまり似ていない。青い瞳と目元が微かにエリザベスと似ているような気がする程度だ。

ほっそりとしたエリザベスと比べて、ヴィンセントは元々大きな体に鍛え上げた筋肉のせいでかなり大きく見える。

大きな体をしたヴィンセントはソファーに座ると、大きな声で笑った。


「久しいな!エリザベスよ。相変わらず美しいな」


「お兄様は、相変わらずガサツね」


足を大きく開いてふんぞり返っているヴィンセントにエリザベスは軽蔑の目を向けている。

エリザベスの少し乱暴な言葉遣いや態度はヴィンセントとよく似ているのではとライザは部屋の隅で気配を消しながら思った。


(エリザベス姫様の乱暴さは遺伝だったのね)


妙な関心をしながら二人の会話を眺めていると、ヴィンセントは一枚の手紙を懐から取り出した。


「お前の嫁ぎ先が決まったぞ」


「何ですって!お兄様、今なんて言ったの?」


人殺しのような恐ろしい顔をしながら言うエリザベスに臆することなくヴィンセントは手紙をテーブルに置いて大きな声でまた笑った。


「はっはっ。驚くのも仕方ない事だ、突然決まったのだからな。サルセ国の第二王子ルディ殿だ。よかったな、かなりの美形だぞ」


「顔なんてどうでもいいわよ!サルセ国ですって?あんな野蛮な国にお嫁に行くなんて絶対嫌よ!私には心に決めた人が居るの!」


心に決めた人が居るという爆弾発言にライザは驚いて目を見開いた。

ライザがお世話している間、エリザベスと恋仲になりそうな男性がいただろうかと記憶を辿るが思い出せない。


(もしかして、護衛騎士の誰かとか?)


エリザベス姫には護衛騎士は数人いるが、ほとんどが妻帯者であり恋愛対象ではないはずだ。それでももしかしたら、人に言えない恋心があるのかとライザはドアの前で警護をしている騎士を見回した。

ライザの視線を受けて数人の騎士がさっと目を逸らし軽く首を振っている。

ヴィンセントはエリザベス姫の恋のお相手を知っているのか大きな声で笑った。


「あんな冴えない男よりもルディ殿がいいと思うぞ。第二王子で地位もある」


「地位じゃなくて、私を人質にして友好関係を築くつもりでしょう!絶対にお嫁になんて行かないから!この糞筋肉男が!」


美しい顔をしたエリザベス姫の顔から“糞筋肉男”と言う言葉が出て驚いているライザにヴィンセントは言われ慣れているのか大きな声でまた笑った。


「お前が何て言おうとこの結婚は決定されたものだから諦めろ。では、俺は仕事に戻るから嫁入り準備でもしておくのだな」


立ち上がったヴィンセントにエリザベスは中身の入っていない花瓶を掴むと力いっぱい放り投げた。


「おっと」


物を投げ慣れているヴィンセントはなんてことなく花瓶を片手でキャッチするとテーブルの上に置いた。


「そうポンポン物を投げるな。嫁入り先で嫌われるぞ。生まれ故郷でも侍女に嫌われているのだから少し慎め」


「失礼ね!嫌われているんじゃないの。私が首にしているのよ」


エリザベスはツンとして言うが、ヴィンセントは肩をすくめた。


「どうだかな。お前の評判は悪いぞ。とりあえず、ルディ殿が来週挨拶に来るからそれまでにその暴力癖を治しておくんだな」


「お兄様の妹だから無理よ。私は絶対にお嫁には行かないから」


「今更決まったことをグダグダ言うな」


ヴィンセントはエリザベスを睨みつけると部屋を退出した。

護衛騎士達も居なくなった部屋にはライザとエリザベスだけになった。

まだ怒りが収まっていない様子のエリザベスに気を使いながらライザはそっとテーブルの上に置いてあった花瓶を棚の上乗せる。

テーブルの上には熱い紅茶とお茶菓子が乗っており、もし紅茶を掛けられたらと考えながらエリザベスから距離を取った。


「紅茶なんて投げないわよ。新しいお茶を淹れて、ブランデーを垂らしてね」


「畏まりました」


ライザは頭を下げて紅茶を用意する。

エリザベスがブランデーを垂らしてくれと言ったら半分以上はブランデー入りの紅茶のことだ。

ライザは頭の中で産休中の侍女が教えてくれた紅茶とブランデーの割り合いを思い出しながらエリザベスの怒りが収まるように祈りながら心を込めてお茶を淹れる。


(それにしても、結婚が突然決まるなんて……姫様も大変なのね)


貴族としてはある程度家同士で結婚が決まることも珍しくは無いが、昨今は恋愛結婚が主流になりつつある。


「私、絶対に結婚なんてしたくないのよ」


お茶を淹れているライザに向かってエリザベスは呟いた。


「でも、かなりの美形だっておっしゃっていましたね」


ライザの言葉にエリザベスはギロリと睨みつける。


「顔なんてどうでもいいのよ。私は好きな人がいるの。その人以外とは結婚なんて無理よ」


聞いていいものか悩みながらライザはそっとエリザベスを振り返った。

怒りはだいぶ収まってきつつあるようで、テーブルの上に頬杖をついている。

美しすぎるエリザベスはまるで一枚の絵のようで、ライザは見とれてしまう。


「エリザベス姫様の好きな方はどういう方なのですか?」


怒りださないかと気を使いながら言うと、エリザベスはため息を一つついた。


「辺境伯爵よ。5つ年上だけれど、素手で熊を倒せるぐらいのたくましい体でとても素敵なの」


うっとりとして言うエリザベスにライザは一人だけ思い浮かべる人物が居た。

数か月前に田舎から出てきた大きな体をした辺境伯がエリザベスを訪ねてきたことがあった。熊を倒せそうというよりは、大きな熊に近い体と顔をした伯爵は、エリザベスとヴィンセントと旧知の仲であると言っていたような気がする。


「結婚相手のルディ様もエリザベス姫様が気に入るような男性かもしれませんよ」


「見た目が気に入ったからといって、好きにはならないわよ。幼い頃から避暑地で過ごした私とブルーノとの積み上げてきた絆と思い出があるの。ポッと出の第二王子なんかに私は心を奪われないわよ」


「なるほど、一人の男性を想われているのは素晴らしいですね」


ブランデーたっぷりの紅茶をテーブルに置いて頷くライザをエリザベスはちらりと見た。


「そういうアンタは誰か好きな人は居ないの?」


まさかのエリザベスの言葉にライザは驚きながら首をかしげた。


「誰も居ませんね」


幼少期から思い返すが、異性と触れ合う機会もなく過ごしてきたような人生だったと少し気分が落ち込みながらも答えるライザ。

エリザベスは憐みの視線を向けると紅茶を一口飲んだ。


「好きな人の一人も居ないなんて可哀想な人生ね。アンタがルディ第二王子と結婚すればいいのに。顔がいい人が好きなんでしょ?」


「そうですねぇ。顔がいいに越したことはないですが、優しい方がいいですね。できることなら変わって差し上げたいですが、身分が合わないので無理ですねぇ。ルディ王子はどのような方なんでしょうね?」


「さぁ。そもそも、サルセ国って言うのが嫌。あそこの若くしてなった王って言うのが血塗れ王と言われるぐらい残忍なのよ。私をそんな野蛮な国に嫁がせるなんて嫌がらせよ」


ブランデー入りの紅茶を飲んで怒りを鎮めながらエリザベスは唇を噛んだ。

形のいい唇が切れてしまうのではないかと心配しながらライザは頷く。


「血塗れ王などと初めて聞きました」


「そうでしょうね。血塗れ王子が王になったのが去年だったかしら。気に入らない部下などを容赦なく殺すらしいわよ。あとは他国にも容赦なく戦争を吹っかけているって言う噂よ。そんな国に嫁に行けだなんてお兄様は何を考えているのかしら」


うんざりしているエリザベスにライザは同情して頷いた。




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