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二人が乗る馬は颯爽と館を離れ山道を走ってく。

初めて乗る馬の上は大変不安定でライザは落ちないかと冷や冷やしながらどこかに掴まりたいと視線を泳がせた。

流れる木々を眺めながらライザは手をどこに持って行けばいいか困っているとルディが笑いながら手綱を顎で指した。


「不安定が怖いなら、握っていたら?」


馬車で移動することはあったが、馬に乗るのは初めてだ。

地面から想像よりも高くて恐怖を感じながらライザは必死に両手で手綱を握った。

その様子がおかしいのかルディは今にも大笑いしそうな顔をして眺めている。


(顔がいい王子といっしょに馬に乗るなんて!まるで物語に出てくる姫様と王子様ね。あっ!今、私は美しいエリザベス様だったのだわ……)


ルディの美しい顔がすぐそばにあってドキドキしていたが、不意に自分は仮の姿だったことを思い出して気分が落ち込んでくる。


傍から見たら美男美女がデートしている光景に見るだろう。

中身が何の変哲もないただの侍女だと知ったらきっとルディ王子もガッカリしてしまうだろう。


(絶対に知られないようにしないと)


馬から落ちないように必死に手綱を握りながらライザは心の中で誓った。



しばらく馬を走らせるとルディは馬の速度を緩めた。

ゆっくりと歩く馬の上からキョロキョロと辺りを見回している。


「なにかあったのかしら?」


エリザベスになりきって偉そうに聞くと、ルディは軽く微笑んだ。


「この辺りにいい休憩スペースがあるんだ。以前、遠乗りに来た時に見つけたんだ」


「そうなの」


エリザベスっぽく答えられているか心臓がバクバクしていたが平静を装ってライザは頷いた。

一言でも気を付けないといけない。


ルディは馬から降りると手綱を引きながら歩き始めた。


(ひぃぃぃ、急に降りないで!)


馬の上に一人残されて危うく叫びそうになり必死で悲鳴を堪えながら馬のたてがみにしがみついた。

そんなライザの姿が面白いのかルディは笑いを堪えている。

その笑みに心がキュンとしてしまい慌てて首を振った。


(まずいわ。ちょっとエリザベス様にルディ様が友好的な雰囲気だわ……)


もしこのまま結婚しても良いと思われた厄介だ。


ライザが必死に無表情を作りながら馬にしがみついている中、ルディは茂みをかき分けて馬を引いていく。

しばらく進むと、開けた場所に出た。

小さな湖と野原が広がっており、白い花が一面に咲いている。


「うっわー。綺麗ですねぇ」


おとぎ話の中に出てくるような幻想的な風景に思わず声が出てしまいライザは慌てて口を噤んだ。

今、思わず言ってしまった言葉はエリザベスっぽくなかった。

ライザが知る限りエリザベスは景色に感動をするような人ではない。


「僕のお気に入りの場所なんだ。これは二人の秘密だよ」


ルディはいたずらっ子のようににやりと笑って言った。

そんな秘密を課せられても困るし、こんな素敵な場所を二人の秘密だなんて言われれば胸がキュンとしてしまう。


(この人を好きになっても元の体に戻ったら手の届かない人なのだから!好きになっちゃダメよ!)


ダメと言いつつルディに心が既に傾いている。

どうしようもない気持ちに蓋をするように暗示をかけて無表情の顔をする。

自分は今エリザベスなのだと何度も心の中で呟いた。

そんなライザの様子が可笑しいのかルディは苦笑しながら馬を引いて野原へと向かう。


「一人で馬から降りられるかな?」


ルディに聞かれてライザは馬の上で首を横に振った。

どうやって降りたらいいか検討もつかない。

ルディは両手を差し伸べてライザの両脇に差し込むとあっという間に地上へ降ろした。

地面に降ろされて目をまるくしているライザにルディは苦笑した。


「羽のように軽いね」


「そ、そうね」


(本当の私の体はここまで軽くないわ)


本当の自分の体重はもう少し重いということに軽く落ち込んでしまう。

そんなライザにルディは手を差し伸べた。


「さて、少し散策しようか」


「は、はぁ」


手を差し伸べているルディと背後に見える花畑の光景がまるで美しい絵のように見えてライザは思わず気の抜けた返事をしてしまった。

キラキラと輝く湖と同じぐらいブロンドの髪の毛が太陽に当たって輝いている。


ニッコリと微笑んでいるルディの顔があまりも美しくて思わずライザは目を細めた。


(そう言えば、私はルディ様と同じぐらい美しい顔をしているのだったわ)


ボーっとルディを見つめている場合ではない。


ルディには興味ありませんよというような態度をしないといけないのだ。

エリザベスだったら間違いなくツンと鼻を高く上げてルディを見下すように見るはずだ。

ライザは慌てて顎を少し上にあげて偉そうにする。


ルディはなぜかそんなライザを見て苦笑すると手を引きながら湖の傍へと近づいて行った。

山の涼しい風に吹かれて揺れる水面は太陽の風に当たってキラキラと輝いている。


「水の近くに来ると心が落ち着くから僕はこういう場所好きなんだ」


ルディは立ち止まるとチラリとライザの顔を見た。

なんて返事をしたらいいか悩んでいるとルディはギュッとライザの両手を握ってくる。


「な、なにをするのかしら?」


エリザベスっぽく言うライザの両手を握りながらルディが見つめてくる。

青い瞳から目を逸らせずにいるとルディはニッコリと笑った。


「兄上達に決められた結婚だったけれど、僕達は上手くやって行けそうで良かった。君と仲良く暮らせていけそうだ」


(えぇぇぇ、それは困る!)



心の中で悲鳴を上げているライザの体をぎゅっとルディが抱きしめてきた。

傍らから見たら美男美女が、それも王子と姫様が湖の畔で抱き合っているなど、どんな絵本よりドラマチックで絵になる光景だ。


だがそんな流ちょうなことも思っていられない。


出来れば、優しくて美しいルディにずっと抱きしめていてほしいが自分はエリザベスではないのだ。


(ど、どうしよう!)


半ばパニックになりながらライザは抱きしめている腕から逃れようと体を動かした。

ルディは笑みを称えたままライザの顔を覗き込んでくる。


「恥ずかしがることは無いよ。僕達はこれから夫婦としてやっていくのだから。少しずつ愛し合っていこう」


甘く囁くように言われてライザは心が揺れるが、その言葉はエリザベス姫に言っている言葉なのだ。

自分に言われた言葉ではないことになぜか傷ついてライザは首を振った。


(私はエリザベス姫様!)


何度か心の中で素早く呟いてライザは平常心を取り戻しながら偉そうな態度を作った。


「アンタなんかと愛を育むことなんてしたくないわ!」


(うぅぅ、ごめんなさい。そんなことは微塵たりとも思っていないんです)


心の中で詫びながらライザはエリザベスになりきって冷たく言い放った。

エリザベスっぽく冷たくいう事が出来たと思っていたがルディには全く響いていないようだ。微笑みながらエリザベスに顔を近づけてくる。


(こ、このままではキスしちゃうじゃない!)


経験など無いが、ライザはなんとか逃れようと顔を引いた。

逃げようとするライザの体をぎゅっと抱きしめて後頭部に手を置かれて身動きが取れなくされる。

近づいてくるルディの顔から逃れられない。

形のいいルディの唇がくっつきそうになりライザは慌ててルディの顔を両手で押さえた。


「だめー!駄目よ!私はエリザベス様ではないのよぉぉ」


近づいてくるルディの顔を両手で押さえながらライザは大きな声で叫んだ。

パニックになってしまいとんでもないことを言ってしまったと顔を青くする。


(ど、どうしよう……)


今更冗談でしたと言える状況でもなくライザは固まったままルディの美しい顔を見つめた。




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