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「うぅぅ、私はエリザベス姫様よ……」


自分の寝言にライザは目を覚ました。

昨日、自分はエリザベスだと思い込ませながら生活していたためにノイローゼのようになったライザはうなされながら目が覚めた。


荒く息を吐きながら起き上がり直ぐに手鏡を手に取って顔を見る。


鏡に映っているのは寝起きでも美しいエリザベス姫の顔だ。

ガッカリしながら大きく息を吐いた。


「早く自分の体に戻りたいわ。もうこれ以上エリザベス姫様のフリをするのは無理よ……」


悪夢を見てうなされるほどのストレスを感じているぐらいだ。


昨日の晩もニコニコ微笑んでいるが目は笑っていないルディにじっと見られながら食事をしたが、エリザベス姫に見えるように振舞うあまり緊張しすぎて上手く食べることができたか不安で仕方がない。

もうそろそろ心が持たなくなってきているような気がしながらライザはベッドから降りて身支度を済ませた。

またルディに見られながら朝食を採らないといけないのかと重い気持ちになりながら食堂へ向かった。


「おはようございます」


すでに着席していたルディに挨拶をしてライザは彼の前に座った。


「おはよう。今日のドレスも素敵ですね」


「……どうも」


心が落ち込んでいるせいかエリザベス姫が着ないような地味な色を選んでしまった。

淡い色の花の模様が入ったワンピース姿のエリザベスは美しいが彼女らしさはない。

“こんなボヤっとした色を着ると思って?”とエリアベスの怒声が聞こえてきそうだ。

失敗したと思ったが、表情に出さずに無表情を貫く。


じっとルディに見つめられ居心地が悪い思いをしていると、ミーガンが朝食を運んできた。


「おはようございます。エリザベス様。よく眠れました?」


「えぇ」


エリザベスのように冷たく答えるが、ミーガンはいつも通りニコニコしながら机の上に朝食を並べて行った。

パンとスープとサラダという簡単な食事だったが、エリザベスであろうと気を使って過ごしているストレスのせいか食事が喉を通らない。

パンを数口とスープを半分だけ食べてライザはもうこれ以上食べることができないと食事をする手を止めた。


「もうお腹がいっぱいなのですか?」


「えぇ、そうね……」


食事が進まないライザに怪訝な顔をしながらルディに聞かれて頷いた。


「どこか体調でも悪いのかな?」


ルディに聞かれてライザは首を振る。


(エリザベス姫様のように過ごさなければならないと思うと食事も喉を通らないわよ)


じっとルディに見られているのもストレスだ。


ルディに見られているだけで食べられるものも減ってしまう。


「じっと家に居るのも体に良くないでしょうから、昼はピクニックでも行きましょう」


「ピクニック?」


出来ればルディと離れて過ごしたいのに、ピクニックなど行きたくない。

それでも自分好みの男性とピクニックをしたいという欲望も芽生えてくる。

気分は落ち込んでいても、薄っすら芽生えた恋心に断りたくても断れないとライザは困惑する。


(エリザベス様として過ごせるか不安だわ)


困っているライザを見てルディはまた笑いだそうとするような顔をして目を伏せた。


「残念ながら、エリザベス姫には断ることはできないよね。僕がこの家の主人だから……」


含み笑いしながら言われライザは仕方なく頷いた。



(異性とピクニックなんて初めてだわ……)


それも美しいルディ王子とピクニックという名目だけれどデートだと気付いてライザはドキドキする胸を押さえながら居間のソファーに座っていた。


「サンドウィッチとお茶などを用意したのでこちらをお持ちください」


緊張しているライザに聞こえるようにミーガンは机の上に籠を置いた。

本来なら“ありがとう”とお礼を言うべきだが今、自分はエリザベスなのだと心の中で唱え冷めた目で頷くにとどめた。


昼には少し早い時間だが、準備を終えたルディが居間へと降りてきた。

屋敷に中ではラフな格好をしているが、出かける準備をしたルディは白いワイシャツに黒いズボンにブーツを履いた服装だ。


いつもと違っているのは剣を差していることぐらいだろうか。

ライザの視線に気づいたのかルディは剣を指さした。


「一応護身用の為に持って行くだけですよ。山に行くだけで危険などありませんから大丈夫」


ルディが剣を持っていることが珍しいだけで危険があると思ったわけではないがライザは一応頷いておく。


「では行きましょうか」


ルディに右手を差し出されてライザは顔をしかめてしまった。


男性と過ごすことなどほとんどない生活をしていたせいでルディがエスコートをしてようとしているのだと認識するのに数秒かかってしまう。

慌てて差示唆してくれているルディの右手に手を置いてライザは立ち上がった。

ルディは満足そうに頷いてライザの手を握ったまま外へと向かう。

玄関のエントランスには馬が二頭用意されており執事のデニスが準備を進めていた。


「出かけるのは私とルディ様だけですか?」


てっきり馬車が用意されていると思っていたライザは顔を引きつらせながら聞くとルディは当たり前だと頷く。


「もちろん二人きりですよ。僕達の仲を深めようと思っているのに他人を連れて行くような無粋な真似はしませんよ」


ニッコリと微笑まれてライザは頷きそうになるが慌てて首を振った。


「う、馬は苦手なのですが」


苦手以前に乗ったことが無い。


乗馬の経験などあるはずもないし、エリザベスは馬に乗れるのかどうかも分からない。

ライザが侍女になってからエリザベスが馬に乗ったことは無いように思う。

記憶を探りながらライザが言うと、ルディは眉を上げた。


「おや、そうでしたか。ならば僕と一緒に乗りましょうか」


「ふ、二人乗り……」


好みの異性と馬に乗るという事はかなり密着するという事だ。


(心臓が持つかしら……)


エリザベスのふりをしながら二人乗りなどできるかと心配しているライザにルディは微笑んだまま頷いた。


「大丈夫ですよ。こう見えて僕は馬も得意ですから落としはしませんから」


心配しているのはそこではないのだが、そう言う事にしておこうとライザは頷いた。



不安そうにしているエリザベスの姿をしたライザを軽々持ち上げて馬に乗せるとルディも馬に跨った。

お姫様のように横乗りにされ不安定な状態だったが手綱を握るルディの腕が背中を支えられているような感じがしてなんとか耐えられそうだ。


「揺れて怖かったら僕に掴まって構わないから」


馬の腹を蹴りながら言うルディにライザは頷いた。




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