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摘んだハーブを入れた籠を抱えて館に戻るとミーガンが笑顔で迎えてくれた。


忙しいと言っていたはずのルディもなぜか後ろから付いてきている。

気が抜けないと思いながらライザは籠をミーガンに見せた。


「勝手に採ってしまったのだけれど……」


少し申し訳なさそう言いうライザにミーガンは後ろに居るルディに目配せをすると頷いた。


「いいのですよ。畑も好きに収穫してください」


「ありがとう。これでお茶を淹れてもいいかしら」


なんとか偉そうにライザが言うとミーガンはもちろんだと頷いた。

ルディに怪しまれないように精いっぱいエリザベスのフリをしていたライザだったが、フレッシュハーブティを淹れられるという喜びに、満面の笑みを浮かべて喜んでしまった。


「ありがとう」


喜ぶライザの顔を後ろからルディが覗き込んできた。


「エリザベス姫は笑った姿は世界一美しいですねぇ」


顔を見られながら言われてライザの肝が冷える。


(まずいわ、私は今エリザベス姫様だった……)


気を付けていたはずなのにふとした時に偉そうな態度を忘れてしまう。

世界一美しいと言われているエリザベスが微笑めば、ルディだってすぐに惚れてしまうだろう。

今の自分の姿で好きになってもらっても困る。

エリザベス姫は他に好きな人が居ると言っていたし、もし一生このままの姿であっても本当の自分の姿ではない状態で好かれても嬉しくもなんともない。

困っているライザにルディは微笑んだ。


「あぁ、すいません。エリザベス姫は容姿の事を言われるのがお好きでないのでしたね」


「そ、そうよ」


(そういえばエリザベス様は顔の事を褒められるとすごく怒って物を投げていたわね)


何度か侍女がエリザベスの顔を褒めたことがあったが毎回怒って物を投げつけていたことを思い出してライザは頷いた。


「すいませんでした」


軽く頭を下げるルディに心が痛んだが今自分はエリザベスだと心の中で呟いてライザは鼻をツンと上にあげる。


「次は気を付けて頂戴」


一生懸命エリザベスを演じているライザを見てルディは笑いを堪えているように手で口元を覆っている。


「何がおかしいの?」


眉をひそめながら言うライザにルディは笑いを堪えながら首を振った。


「いえ、思い出し笑いですのでお気になさらず」


大笑いをしたいのを堪えているようなルディに不振な目を向けて、ライザはミーガンを振り返った。


「よく思い出し笑いをする人なのね」


「面白いことがあるんです」


ミーガンの言葉が理解できず、ライザは首を傾げながら室内へと入った。


「ちょうどお湯を沸かしたところですのでよかったら使ってください」


ミーガンの言葉にライザは積んだハーブの葉が入った籠を持ちながら頷いた。

キッチンへ向かうとなぜかルディも後ろから付いてくる。

いつ素が出てしまうかと気が抜けないので出来れば早く立ち去ってほしいがこの館は彼が主人だ。

ルディを気にしつつ、籠をテーブルに置くとミーガンがボールにハーブの葉を移し替えてくれる。


「さっと洗いましょうね」


素早く水道で洗うとタオルで水気を取っている。

ライザはキッチン周りを見て自分が使っていた茶器を見つけると棚から出してお盆の上に置いた。


「ハーブの葉はちぎって叩いてからポットに入れると香りが良く出ます。やってみます?」


ミーガンに言われてライザは頷いて湿っている葉を取って千切ってポットへと入れて行く。

ハーブ独特のいい匂いが漂い大きく息を吸い込んだ。


「いい匂いー」


「エリザベス姫様はハーブがお好きなんですね」


壁にもたれかかりながらじっと様子を見ていたルディが静かに言った。

ライザは頷く。


「そうね。今までハーブなんて触れてこなかったけれど、嫌いじゃないわね」


葉をちぎって手のひらで叩いてからポットに入れ、沸かしてくれていた熱湯を注いだ。


「これで、約3分待てば美味しいハーブティーが出来上がりますよ」


ミーガンの言葉に、ライザはポケットから懐中時計を出して時間を確認した。


「3分ね」


「正確ではなくて大丈夫ですよ」


きっちり時間を測ろうとするライザにミーガンは苦笑している。

侍女だった時に紅茶の淹れる時間は正確に行っていたのでつい癖が出てしまったとライザは慌てて時計をポケットにしまった。


「僕は仕事に戻ろうかな。ミーガン、僕のお茶はハーブティー以外にしてね」


様子を見ていたルディは気が済んだのか軽く手を振って去って行った。

その背を見送り、ライザはミーガンに聞いた。


「ルディ様は、ハーブティーお嫌いなんですか?」


「匂いがあまり好みではないとは言っていたわねぇ。食べたりするのは大丈夫らしいですが、お茶はあまり好みではないようですわ」


「へぇ、そうなんですね」


「そろそろいい時間なのでカップに注ぎますね」


ミーガンはそう言うとカップにハーブティーを注いいだ。

緑色の液とハーブ独特のいい匂いを嗅いでいると、ミーガンは棚の中から小さな花を持ってくるとカップの中に浮かべた。

青い小さな花が水面をくるくると回っている。


「わぁ、可愛いわね」


感動してライザが言うと、ミーガンは頷く。


「これも食べられるお花ですよ。ハーブの一種ですね。花だけを摘んでこうしてお茶に浮かべたりケーキに飾ったりすると可愛いですよね」


「本当!」


可愛いと喜ぶライザにミーガンは微笑んだ。


「エリザベス様がお優しい方で安心しました。噂ではお怖い方かと思っていたから心配していたのよ」

「あっ。それは貴女の気のせいよ。まだ慣れない環境だからよ」


素の状態が出てしまっていたとライザは慌ててエリザベスっぽく偉そうな雰囲気を出すがミーガンは全く気にしていないようだ。


(困ったわ!このままだとエリザベス様は美しくて印象のいい人になってしまう)


ライザは頭を抱えたくなる。

これ以上この場に居たら素の自分が出すぎてしまうそんな危機感を感じ、逃げるように部屋に戻って行った。



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