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疲労のためソファーの上でウトウトしているとドアがノックされてライザは飛び起きた。


「は、はい」


ライザが知る限りエリザベスは疲れた素振りを見せることも、ウトウトしていることなどは無かったために慌てて背を正して返事をする。


「お食事の用意ができました。食堂でのお召し上りでよろしかったですか?」


ミーガンにニコニコ聞かれてライザは慌て頷いた。


「だ、大丈夫です」


普通に素で答えてしまい慌てて鼻をツンと上にあげて偉そうな態度をとる。

ミーガンはライザの仕草を気にする様子もなく頷いた。


「では、ご案内しますね」


「はい」


答えて立ち上がってから首を振りたくなった。


(違うわよ!エリザベス姫様はこんなに気さくに答えないわ!)


もっと偉そうに“さっさと案内しなさいよ”というかもしれないと思うが、そんな態度を取れるわけもなくライザは黙ってミーガンの後に続いて部屋を出た。

2階から一階へと降りて廊下を抜けると広い部屋と案内された。

大きなテーブルにはルディとロバートがすでに座っていてライザは遅れたことを詫びようと頭を下げそうになるのを堪えた。


(こんなことではエリザベス様は頭を下げないわ!)


偉そうにふるまうが、王子とその弟を待たせてしまっているため良心が痛む。


「どうぞ」


ルディが自分の前の席に座るよう、にこやかに言ってくる。

ライザは無表情を貫いて偉そうに座った。


エリザベスの姿をしたライザが座ったのを見てルディが問いかけてきた。


「どうですか?お部屋は」


笑みを称えながら聞かれてライザは頷いた。


「気に入りましたわ」


エリザベスっぽく答えたが、これであっているだろうかと心配になるほどルディはニコニコとしている。


「それは良かった。しばらくゆっくりなさってください。僕もちょっと忙しくなるので、申し訳ないのですが食事もお一人で撮っていただくこともあるかもしれません」


「わかりました」


テーブルマナーが完璧ではないために常にルディと食事をしなくて済むと思うとほっとする。


「自由に過ごしてくださいね」


美形の王子にニッコリと微笑まれ、ライザの胸がときめいた。


(いけないわ、私はエリザベス様の体をしているだけのただの侍女よ!)


危うくルディを好きになりそうになり慌てて心の中で呟いた。

そうしているうちに運ばれてきた食事は、スープと肉とサラダだった。

多くもなく少なくも無いちょうどいい量で、味もおいしい。


「ねぇ、エリザベス姫様」


粗相をしない様に注意深く食べているエリザベスを見ながらルディの横に座っていたロバートが話しかけてきた。

ルディとは似ていないが彼も上品な顔をしている。


「はい」


「王太子のヴィンセント様とは仲がいいんですか?」


ロバートの問いにライザは少し考える。


(悪くはないわよね?でも、喧嘩はしていたわよね……兄妹ならあたりまえなのかしら)


兄妹が居ないライザはしばらく考えて首をひねった。


「悪くはないかと……」


「フーン。ちなみに好き嫌いはないの?」


(エリザベス姫様は、好き嫌いなんてあったかしら?聞いたことないわ)


記憶を総動員して思い出そうとするが、ライザの記憶する限りエリザベスは何でも食べていたような気がする。


「ないわ」


本心は泣き出したいぐらい不安だが、エリザベスっぽく自信があるようにライザは答えた。


「何でも食べるのは良い事だね。ハーブも好きだし、自然も好きそうだからここでの暮らしは気に入りそうでよかった」


ニッコリとルディに微笑まれてライザは頷く。


「今のところは、素晴らしいわ」


なんとか偉そうに答えたものの、ルディ王子の前ではこんな態度はしたくない。

侍女だった時の癖が出てきそうになりルディを見下ろすように顔を上に向けた。


「そうだ、朝は人が居ないから時間になったらこの食堂に降りてきてほしいんだけれど……」


申し訳ないようにルディに言われてライザは頷いた。


「わかったわ。人が居ないから仕方ないわね」


嫌味っぽく聞こえるように言ったがエリザベスっぽく答えられただろうか。


(もう、疲れたわ。早く部屋に帰りたい……)


嫌な人間っぽく振舞うのがここまで精神的に辛いとはとライザの心が落ち込んでしまう。

怒鳴ったり、物を投げたりを毎日のようにしているエリザベスを尊敬しつつ、ライザは食事を何とか終えて部屋に帰ることができた。



翌朝、侍女達が居ないため一人で鏡の前に向かい簡単にお化粧をする。

鏡の中のエリザベスの姿をした自分を見てため息をつく。


「何度寝て起きても、素晴らしく美しいエリザベス姫様のままだわ……」


美しいのは嬉しいがやはり生まれてからずっと過ごした普通の顔をした自分の体が一番だ。

美しすぎるエリザベスの姿をした自分を鏡越しに見て気分が落ち込んでくる。

このままだと間違いなくルディ王子に本格的に恋をしている自分が想像できる。

あれだけ美しく優しい男性の傍に居たら好きになるのは当たり前だ。


(顔が好みすぎるのよ……)


エリザベス姫はヒョロ男といってルディのことは気に入らないようだったが、ライザは大好きな顔であり優しい男性が大好きだ。

いつもニコニコして、エリザベスに酷いことをされても態度を変えない彼の姿は素晴らしいものがある。


(あの顔で性格も素晴らしいなんて……好きになるに決まっているじゃない!)


心の中で呟いて鏡に映る自分の姿を見る。

細い腰に真っ白なきめ細かな肌、どの角度から見ても完璧な顔。

櫛を通さなくてもサラサラな金色の長い髪の毛に、青く大きな瞳。

瞬きをすれば、音が聞こえるぐらいの長いまつ毛。

元の自分の体と比べると、自分の姿が情けなくなってくるがそれでも自分の体に戻りたいと思う。


「はぁ……辛い」


何度かため息をついて、クローゼットから動きやすい簡素なドレスに着替える。

エリザベスは美しくスタイルも良いため何を着ても似合う。


「毎日、黒い侍女服だったから色がある服を着るとちょっと違和感があるわね」


自分の体を見下ろしてまた、ため息をついた。

部屋に備え付けてある時計に目をやると、朝食の時間を少し過ぎている。

昨日ルディに朝は人が居ないので誰も呼びに来られないことを言われていた。

慌てて部屋から出て食堂へと向かう。



小走りで食堂に入って来たライザを見てすでに座っていたルディが微笑んだ。


「おはようございます。まだ寝ているかと思ったけれど、時間通り来てくれて嬉しいよ」


「いえ、遅れてすいません」


思わず素で答えてしまいライザは慌てて首を振ってギロリとルディを睨みつけた。


「じゃなくて、誰も居ないから仕方ないわ!私が時間通り来たことをありがたく思うのね」


(多分、エリザベス様はこう言うはず!)


明らかにおかしな様子のエリザベスの姿をしたライザを見てルディはニッコリと微笑んだ。


「どうぞ、座って」


(私の話を聞いているんだか聞いていないのか……)


いまいちわからないと思いながらライザはルディの前に座る。


「朝も夜もだけれど、ミーガンとその夫のショーンが食事の準備をしてくれるんだけれど二人しかいないから忙しくてね。毎回食事の時間は誰も呼びに行かれないんだ。こうやって来てくれるとありがたいのだけれど……」


笑みを称えながらも困ったように言うルディにライザは頷いた。


「わかったわ。この時間に来ればいいのね」


「ありがとう。助かるよ」


優しいルディにライザの心がまたときめいてしまう。

顔が赤くなりそうになって慌てて目を逸らした。


(これは、心臓に悪いわね……)


自分が惚れたところで、どうにかなる問題でもないのだ。

あくまで自分はエリザベスの代りを演じているに過ぎない。


「おはようございます。エリザベス様、よく眠れましたか?」


朝食の乗ったワゴンを押しながらミーガンがニコニコと部屋に入って来た。


「枕元にあったポプリのおかげでぐっすり眠れたわ」


ツンと鼻を上に向けてエリザベスのように答えると、ルディがなぜか噴き出して笑いだした。

声を出して笑っているルディは何が面白かったのかとライザは首を傾げる。

笑いながらもルディは軽く手を振った。


「すいません。思い出し笑いなので気にしないでください」


笑いを収めながら言うルディにライザは顔をしかめながら頷く。


「……なにかよっぽど面白いことを思い出したのかしらね……」


まだ笑いが収まらない様子のルディを見ながら呟くライザにミーガンは困ったように頷いた。


「そ、そうかもしれませんわね。さぁさぁ、朝ごはんですよ」


机の上に朝食を並べていくミーガンを見てライザは背筋を伸ばしながらも首を傾げた。


「そういえば、ロバート様のお姿を見ませんが?」


彼の分の朝食も用意されていないようだ。


「弟は急用ができて朝早く旅だったよ。またしばらくしたら戻ってくると思うよ」


「……そう、ですか……」


昨日の夜はそんな素振りは無かったが、彼も王子なのだから用事ぐらいあるだろう。

忙しいのだろうと納得して、朝食を食べ始める。


(結局、お香の事を何も聞けなかったわ……。次に会った時に必ず聞こう)


このままずるずるとエリザベスのふりをして生活をするのも限界がある。

ライザの精神が持ちそうにない。


(嫌な感じを装うのも辛いのよ……)


それも、ルディ相手にはなおさら辛い。

パンをちぎって口に運びながらライザはそっとため息をついた。


「食事が気に入りませんか?」


「え?」


じっとルディに見られていることに気づいてライザは慌てて背筋を正して顔を上に向けた。


「お口に合わないですか?」


頬見ながら言うルディにライザは慌てて首を振る。


「だ、大丈夫よ。城の食事には劣るけれど、私の口に合っているわ」


エリザベスが食べている食事を見守っていたことはあったが、食べたことは無い。

ライザが食堂で食べる食事よりは豪華だという事は分かるが、今食べている朝食と比べてどちらが美味しいだろうかは分からない。

城の食堂よりは美味しい。


(特にこのパンはハーブが混ぜ込んであって美味しいわ)


バケットの中からハーブ入りのパンを手に取ってちぎって食べる。

手の込んだパンは大人数が食べる城の食堂では出てこなかった。


「お気に召したようで良かったです」


ニッコリとルディに微笑まれてほっとする。

エリザベス姫の事をよく知らない場に居るからこそなんとかやっていけているようなものだ。普段の姫様のふるまいを見ていたらこの大人しさは間違いなく、頭を打ったか病気かと疑われてしまうだろう。

緊張をしながら何とか食事を終えるとルディは早々と立ち上がった。


「僕は仕事があるので失礼します。エリザベス姫はどうぞ自由にお過ごしください」


「は、はぁ」


自由にと言っても何をすればいいのか分からなかったがライザは頷いた。




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