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ある思い人の回顧録  作者: 猪俣かいり
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2話-①

 どんな国でもどんな人種でも、人は大きく二種類に分けられる―――魔力を持っている魔導士か、否かである。

 さらに魔導士は、二種類に分けられる―――純粋な魔力を持つか、「転生士」に寄生された「宿主」か、だ。

「転生士」とは転生者……読んで字の如く、転生した者を指す。ここで言う転生とは、「未練を持って死んだ者」が、未来の世界で再び目覚めることだ。当然肉体は滅びているので、彼らは現世の人間を器とし、その肉体に宿る。器にされた人間……すなわち転生士に寄生された人間を「宿主」と呼び、転生士の魂と共に人生を歩むこととなる。

 宿主として生まれた人間は、幸せになれない―――ごく一般的な見解だ。転生士は未練の塊であり、それを解消することが目的だ。その未練が強くなったとき、宿主は転生士に意識を支配され、肉体までも奪われて―――すなわち、死ぬ。

 加えて、宿主を支配した転生士はところ構わず未練を解消しようとする。だから「宿主には未来がない」、「不安因子と傍にいたくない」……そういう風に見られるのが普通だ。

 誰しも、自分の命は惜しい。多数が不幸になるなら、少数にそれを背負ってもらおう―――そんな社会だった。


 さて、ごく一般的な人間は、しばしばこういう問いをかける―――魔法とは一体何なのか?

 詳細は誰にも分からない。ただ、魔力は多種多様にあること、魔導士は手を介してでないと魔法を発動できないこと―――それだけは明白だ。

 たとえば、何かしらの能力を向上させる「強化」の魔力を持っていれば、拳を握ったりその手を身体に触れさせることで、身体能力を向上させることができる。修練度によっては、五感も突出させることができるかもしれない。

 こういったように、魔法発動の普遍は「手を介すこと」だ。それを破った者は、人類史上まだ誰もいない。それ故に、「触れ合う」という行為は、信頼関係にある者同士でないと絶対にあり得ないのである。

 そして真信乃もその一人だ。


「オレの魔力は『変換』。触れた者の〝思い〟をエネルギーに変える。そのエネルギーを身体能力向上に充て、強化魔法と同じような効力にしているんだ」


 騎士団員に問われたとき、真信乃はそう答えた。そして団員は理解した。同期の中でも騎士団全体を見ても突出した、彼の実力の所以を。

 真信乃はその魔力に誇りを持っていた。どのような〝思い〟でもエネルギーに変換できる。それは魔力が無限であることに等しい。感情のない人間などいないからだ。

 幼少期はそれを自慢して優越感に浸っていた―――それ故に、兄は殺されたと責められたが。


 ――――――お前が余計なことをしたせいで殺されたようなもんだ!


 鏡に写った自身の制服姿を見て、真信乃は四年前の父の激昂を思い出した。真信乃も負けじと言い返し、母は泣き喚いた。神崎家はその夜、近隣住民から通報されるほど荒れに荒れまくっていた。

 せっかくの初登校日なのに―――真信乃は苦い思い出を無理矢理頭の片隅に追いやった。スクールバッグを持ち、ワンルームの寮を後にする。記念日にふさわしい快晴の朝だった。

 口論の末に家出したその日は野宿した。翌日、何とか騎士団長を説得し、団員にしてもらった。この寮部屋とは、その日からの付き合いである。


「あれ? 神崎くん、おはよう。いつもの制服じゃないね?」


 玄関先を掃除していた初老の女性は、真信乃の全身を興味津々に眺めた。平日はいつも詰襟の制服を着て登校していたが、今日はブレザーだったからだ。


「おはようございます。別の学校に編入することになりましたんで」

「へえー。大変だろうけど頑張ってね!」


 女性に見送られ、真信乃は通学路を進む。

 近所の住民は、真信乃の寮が騎士団のものであることは知っている。それ故に、余計な詮索などは一切してこない。すれ違ったら挨拶はするし、軽い雑談もする。しかし決して深入りせず、「善良な一般市民」を演じている。有事の際、見殺しにされないために、不当に殺されないために―――庇護される者が行き着く、当然の結論だった。

 寮を出て十数分、真信乃は目的の学舎に到着した。ちょうど多くの生徒が登校する時間であり、校門前では一人の教師が彼らを出迎えている。真信乃も生徒達と同じように門をくぐろうとしたが、突然伸ばされた手に反応し、反射的に横へ飛び退いた。教師も含め、周囲はその動きに目を奪われる。


「いきなり何ですか」


 真信乃が教師を睨むと、彼は我に返り負けじと応戦した。


「お前、どこのクラスだ?」

「予定では、二年一組ですが」

「予定? お前まさか……編入生の神崎真信乃か?」

「そうですが、何か問題でも?」


 周囲がざわついた。あらゆる注目が真信乃に集中する。何をそんなに疑り深く警戒する必要があるのか分からないと、真信乃は小首を傾げた。

 教師は、訝しげな視線をぶつけながらも彼を通した。浴びる視線の中を堂々と進み、真信乃は正門を通る。すれ違うたびに見返されるが、彼はもはや気にすることはなかった。


「あ、君が神崎くんだね?」


 校舎の一角……職員室にいた男が、真信乃を見つけて窓を開けた。彼の背後にいる同僚達は不審そうに男を見て、続けて真信乃を眺める。


「そうですが、あなたは?」

「僕は二年一組の担任、広部泰則だ。とりあえず入り口の方まで来てくれないか? あっちに行けば分かるから」


 広部は窓を閉め、急ぎ足で職員室を出た。真信乃も指示された方へ向かうと、すぐ左手に校舎の入り口を見つけた。生徒に混じって真信乃もそこから中へ入ると、広部もちょうど到着したようだった。


「こっちこっち」


 真信乃が広部のもとへ来ると、何も言わずじっと見下ろされた。


「何ですか?」

「ああ。いや、本当なんだなって思ってさ」

「気持ちは分かります。オレも最初は信じられませんでしたし。でも、こうして制服を着れば違和感ないでしょう?」

「え? あ、う、うん……」


 堂々とする真信乃に、広部は苦笑いを返した。「そうでもないけどな……」と思わず呟いてしまったが、本人には聞こえなかったようでほっと安堵した。


「そうだ。今更だけど」


 聞き返されないよう広部が話題を変える。


「君は嫌じゃないのか? 友達とも会う機会が減るだろう?」

「仕事ですし、友達いないので」

「あ、ああ……そうか……」


 いちいち返答に困るな―――広部は気まずくなって、真信乃から顔を逸らすように彼を先導した。廊下は吹き抜けになっており、中央に階段、その両端に教室が並ぶような造りになっていた。一階から三階まで、生徒が騒がしく往来している。

 二階へ着くと、広部は一番手前の教室……二年一組前で真信乃に学生手帳を手渡した。


「正直、これって偽造のような気がするんだけど……」

「たしかにグレーゾーンとは思いますが、これで身分を証明することはないので安心してください」

「それなら良いんだけどね」


 真信乃は特に中身を確認することなく、学生証をポケットにしまった。


「始業まで少し時間があるから、教室で待機しててくれ」


 広部に連れられ、真信乃は一組の教室に入った。一番後ろの席に座り、急ぎ足で立ち去る彼を見送る。残された真信乃には、当然のようにクラスメイトの注目が集まった。真信乃も教室内を見回す。

 木製の机と椅子が並び、前壁には黒板、後壁には大きな掲示板が掛かっている。特に珍しくもない、一般的な学校の教室そのものだった。

 廊下は吹き抜けてはなかったが、教室自体は彼の前の学校も同じようなものだっだ。過度な期待はしていなかったが、大して新鮮味もなく、真信乃は少しがっかりした―――どこの学校もこんなもんか。

 真信乃は続けて、クラスメイトを見回す。見る限り、男女比は同等、個性が爆発したようなとんでもない生徒はおらず、真信乃と目が合うと逸らしたり、仲間内でこそこそ喋ったりしている。

 この中で、どれだけの魔導士、宿主、そして転生士がいるだろうか。宿主を支配しても、のうのうと生きている転生士もいる。そういった輩……特に魔力持ちなら早々に処分しないと、取り返しのつかないことになりかねない。

 虎視眈々と暴れるタイミングを狙う危険因子……それが転生士だ。この学校に来たからには、絶対に根絶やしにしてやろう―――真信乃が静かに闘志を燃やしていると、広部が出席簿を持って戻ってきた。


「ホームルーム始めるぞ」


 クラスメイトが各々席につき、広部の出欠確認が始まる。二十人の出席を確かめると、広部は真信乃を手招いた。


「今日は予告通り、編入生を紹介する」


 真信乃が広部の隣に立ち、再びクラスメイトを見回した。


「初めまして。神崎真信乃です」

「神崎君は特別編入生だ。よって、基本的に授業は受けないことになってる」

「…………え?」


 クラスメイトは唖然とした。何を言ってるのかと、顔をしかめて担任を見る。ああ、と広部は面白がるように笑った。


「肝心なことを説明してなかったな。神崎君は騎士団員なんだ」

「いや先生、団員なんてこの学校にもいるじゃん。みんな訓練生だけど、授業受けてるよな?」


 クラスメイトからの質問は最もだった。騎士団の訓練生は全国にごまんといる。この学校にも複数人在籍し、正団員を目指して日々訓練を積んでいるのだ。当然、一般生徒と共に授業を受けている。


「ふむ。良い質問だ。では神崎君、回答を」


 生徒達の視線が集中する―――この教室で誰よりも小柄な少年に。


「オレは高校二年生に相当する十七歳じゃないから―――それが理由だ」


 驚きで沈黙する教室内で教師と、そして編入生は不敵に笑った。


「オレは中学二年生―――十四歳の団員だ。しかも、史上最速最年少で正団員になった天才……それがこのオレ、神崎真信乃だ」


 どや顔を浮かべる真信乃に、クラスメイトは呆気に取られていた。彼らの心中では、事実の驚愕よりも際立った感情が浮かんでいた―――なんだこいつ、と。


「通常、一つの施設に騎士団が常駐することはないが、校長の要請で特例として派遣された。よってオレの本分は学業ではなく、この学校の平穏を守ることだ。だから、授業中はいないものと思ってくれ」


 そう説明されクラスメイトはようやく、編入生が「十四歳の騎士団員」であることに驚き始めた。


「そ、そんなことっていいんですか?」

「まあ、普通はありえないな。常駐できるほど団員に数的余裕は無いし」

「いや、そこじゃなくて……」

「ん?」


 じゃあどのことだ? と首を傾げる真信乃に、クラスメイトは一抹の恐怖を覚えた―――もしかして、年齢のことは訊いちゃいけないことなのか?


「とは言っても、神崎君はまだ義務教育の身だから、そっちの勉強を行う。分からないところを教えてやってくれ」

「別にそんなことしてもらわなくても……」

「まあまあ。こんなに先輩がいるんだから、聞き放題だぞ?」

「だからいらないって」


 年相応に不貞腐れたような顔の真信乃を見て、教室内は少し和やかになった。騎士団と聞くと緊張するのが常だが、彼はまだ十四歳。年上として面倒を見てやろう、勉強を教えてあげよう、などと思う者も出始めた。

 しかし、ポジティブな印象だけでない。誰よりも真信乃を鋭く睨む者もいた。教室の窓際後方―――唇を噛み締めていた男子生徒は突然立ち、怒号を放った。


「なにが天才だ……お前は団員なんかじゃない!」


 クラス中の視線が彼に移った。彼は真信乃を真っ直ぐに指差し、真信乃もまた彼を睨み返す。


「お前、何言ってるんだ?」

「神崎真信乃なんていう正団員は聞いたことがない! しかも十四歳! あり得ないだろ!」

「なんでだ?」

「なんで? そんなの明らかだろ!」


 男子生徒は怒りのまま、机を思い切り叩いた。


「騎士団の入団制限は十歳以上だ! そして訓練生から正団員になるには五年必要だ! つまり、十四歳のお前は正団員ではないということだよ!」


 クラスメイトはざわつき、疑念の目が彼と真信乃に向けられる。真信乃は呆れたようにため息をひとつ吐き、ポケットから騎士団員カードを出して見せた。そこにはたしかに、真信乃の名前と顔写真が載っている。


「これが正団員の証拠だ。五年というのは平均年数であり、オレはそれよりも早く試験をクリアしただけだ。十四歳ってだけで言いがかりをつけてくれるな」

「そんなものいくらでも偽造できる! そもそもなんで高校に中学生が派遣されるんだ! おかしいだろ!」

「高校生正団員のうち、全校生徒を守れる実力を持つ者がいなかった。だからオレが選ばれた。そういうことだ」

「意味分からん! それに団員が派遣されるなんて俺は聞いてない!」

「なんでお前に知らせる必要があるんだ? この学校に正団員はいないと聞いてるが?」

「俺は訓練生だが団員だ! 情報を得る権利がある!」

「はあ? そんなことする理由は? 訓練生に現場で働く権限は無いのに、知らせて何になる?」

「それは組織の人間として……!」


 不意に、真信乃の手が上がった。そして次の瞬間には振り下ろされる―――バンッと教卓を叩いて。


「ところでさあ―――お前、誰?」


 真信乃の声色が変わったことに、その場の全員が凍り付いた。


「は……?」

「身分を名乗れって言ってるんだ」

「なんでそんなこと……」


 真信乃は歩き出した。広部が制止しようとしたが遅く、呼びかけにも応じなかった。真信乃の向かう先……男子生徒は警戒心を剥き出しにして待ち構える。


「なっなんだよ! こっち来るな!」

「お前はオレを糾弾した。公衆の面前で、大した証拠も無いのに。だが一般市民が言うそれと、騎士団員が言うのでは言葉の重みも信用度も違う。オレはれっきとした正団員なのに、そうじゃないと信じた市民が、緊急時に言うことを聞かなくなったらどうする?」

「そんなの、信用されないお前の責任っ……」


 真信乃は立ち止まった。男子生徒の目の前で、あと少しで触れそうな距離で―――少年はぎろりと睨み上げた。


「これはれっきとした名誉毀損だ。人を糾弾するくせに、自分は名無しの訓練生なんて許さないぞ」


 男子生徒は恐怖した。自分よりもずっと小さく、あどけなさも残る少年が、得体の知れない化け物のように見えて震えた。黄色い目玉は自分を捉え、少しでも動こうなら手首を折られてしまうだろう―――真信乃の魔力を知らずしても、彼は明白な死を感じてしまった。


「な……七回生の田口行雄だ」


 震える唇で、田口は答えた。ふうん、と真信乃は呟き、一歩後退する。


「七回生ねえ……お前、人のことより自分の心配したら? 訓練生でいられる期間は十年だけど?」


 皮肉でもなく、ただ純粋な感想を述べたつもりだった。しかし、彼の言葉は田口の逆鱗に触れてしまった。


「んなこと俺が一番分かってんだよおおお!」


 田口は突然拳を振るった。もちろん狙いは真信乃だ。彼の拳が真信乃の頬に触れる寸前、クラスメイトが悲鳴を上げる寸前、広部が止めに入ろうと駆け出す寸前―――真信乃は身を屈め、田口の手首を掴んだ。


「ッ―――!」


 掴まれたと認識したとき、既にもう片方の手首も捕まっていた。その力は十四歳のものと思えず、田口は先ほどよりも強い死を感じ取った。


「逆ギレして暴力を振る人間が、正団員になれるとでも?」


 黄色い目玉が光る。今度は化け物ではなく、ベテラン騎士団員のような畏怖、そして羨望を田口は抱いた。命を賭して魔導士と戦い社会の平和を守る、誇り高き騎士―――かつて田口が憧れたその姿が、真信乃に象られているように見えた。


「実力だけじゃなく、精神も鍛えないと正団員にはなれない。短気は最悪だ。それが原因で転生士に殺された団員は何人もいる。何を言われても動じないよう心掛ければ、少しはマシになるんじゃないか?」


 年下に説教されてる―――クラスメイトは田口を哀れんで見ていた。しかし、伸び悩んでいた心に手を差し伸べられたようで、田口の目にはじわじわと涙が溢れていた。さすがにそれは予想外で、真信乃はギョッと頬が引きつる。


「えっちょっと……なんで泣くんだよ」

「俺……全然強くなれなくて……同期にも後輩にも抜かれるし……もうどうしていいか分からなくて……」


 実力勝負な世界で、才能のない者はあぶれていく。何年も続けば劣等感も強くなるが、力が伴わないまま命を懸けた戦いなどできるはずもない。かわいそうだが、そういう者にとっては諦めさせる方が良い―――こいつもその部類だろうと真信乃はすぐに悟った。


「才能ある奴はあっという間に訓練生を卒業するからな」

「そうだよなあ……俺にはやっぱり才能ないのかなあ……」

「そうじゃないか? それで諦めたって誰も馬鹿にしたりしないぞ。むしろ正団員になる方が少ないんだから」

「そうかなあ……諦めよっかな……」

「そうそう、諦めよう」


 田口は茫然と虚空を眺めた。彼の脳裏には、かつてその目で見た騎士団員の勇姿が思い出されていた。それを見て、幼子は騎士団員になる決意をしたのだ。


「無理に命を懸けるもんじゃない。人には向き不向きがあるんだから」

「向き不向き………俺は不向きの方か………」

「そうそう」

「………………いや、やっぱり諦めない! 諦めたくない!」

「いや、今の完全に辞める流れだっだろ! なんで再熱してる!?」


 真信乃が驚く傍ら、田口の心は闘志に燃えまくっていた。


「ずっと憧れてたんだ! 才能なくたってなってみせる!」

「やめとけって! 死ぬぞ!」

「なあ! 俺のコーチになってくれないか! いや、なってくれませんか!」

「は!?」


 予想外の流れに乗れず、真信乃の理解は追いつかなかった。田口が顔を近付けると、思わず真信乃は力んでしまい、骨がみしりと鳴った。


「俺の指導してください! どこが悪いのか教えてください!」

「なんでオレが! そういうのは教官に教われ!」

「俺も中二の勉強教えますから!」

「だからそれはいいって! オレは勉強しに来たわけじゃないから!」

「あなただって馬鹿なままは嫌でしょ!」

「ナチュラルに馬鹿にするな! 人並みの頭は持ち合わせてる!」

「いやいや、名案じゃないか」


 ヒートアップする二人を仲介するように広部が声を上げ、パチパチと拍手した。


「神崎君は騎士団員の先輩として指導する。田口は人生の先輩として勉学を指導する。ウィンウィンの関係、素晴らしい!」

「だから! 勉強はいいんだって!」

「よろしくお願いします! 神崎君!」

「勝手に決めるな! 許可してない!」

「よし! 和解したということで授業を始めよう」

「いやっまだ話は終わって……!」


 広部が教卓に向かい、教科書を広げて授業を始める。クラスメイトも慌ててそれに倣い、机上にノートも広げた。真信乃はまだ言いたいことがあったが、無視して進める広部に諦め、田口を解放した。自席に座り、真信乃はむすっとして頬杖をつく。

 ―――指導しろだと? 絶対嫌だ。そんなの団員の職務じゃない。オレは学校を守るために来たんだ。伸び悩む出来損ないを育てに来たわけじゃない。

 真信乃は苛立ちから、足をぱたぱたと鳴らした。それを広部に注意され、彼は幼子のようにふて寝して授業時間をやり過ごしたのだった。

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