平凡な聖騎士③
よろしくお願いします。
少年ヒューゴは気がついた。
(大人のヒューゴさん。この人、何もしない…。)
旅の途中もただついてきているだけだった。そして、よくここまで生きて来られたなと思うほどに、生きることに無頓着だった。ふらふらとどこかに行っては、空腹で倒れていた。
とても美しい人だったし、話しかけるととても優しい声でたまに返事をしてくれるので、悪い人ではないのだと思った。しかし、社会性というものが皆無なようで、この人は普通の生活は無理だろうと思えた。
かと言って荒野で生きていくのはさらに無理なように思えた。大人のヒューゴは放っておくと食事を取らないので、カサンドラ以上に少年ヒューゴが面倒を見ることになった。
このおかしな三人の珍道中。特に改善が必要だと思えたのは、食事。
カサンドラがどこからともなく用意する食事も適当。
大人のヒューゴもいわずもがな。
美味しいご飯を食べたい、育ち盛りな少年ヒューゴにはその環境は耐えられなかった。
幸い、家や奉公先でご飯を作る手伝いをよくしていたので、大人二人よりは格段にましな食事を作れた。
必然、少年ヒューゴがご飯を作る。
「小ヒューゴの作るご飯はうまい。」
食事をかきこみながらカサンドラがそう言う。カサンドラは少年のヒューゴを呼ぶときは小ヒューゴと呼ぶようになっていた。
(カサンドラは大人のヒューゴの名前は呼ばないけれど、呼ぶとしたら大ヒューゴ?)と小ヒューゴは思う。
ちなみに材料はカサンドラがどこからか調達してくれた。
大ヒューゴも、珍しく食事を口いっぱいに頬張りながら頷く。
いつもはすぐどこかに行ってしまっていた大ヒューゴも、小ヒューゴのご飯のために一緒にいることが増えた
カサンドラも小ヒューゴのご飯が気に入ったようだ。
何となく共にいたカサンドラと大ヒューゴは、小ヒューゴを中心に、擬似的な家族のようになった。世話する側とされる側が些かおかしかったが。
旅の最中、小ヒューゴはカサンドラに振り回されつづけることになる。
まず、カサンドラはあちこちで問題を起こす。たいていその後始末を小ヒューゴがする羽目になる。
人が住む土地では、迂回が面倒だと言って真っ直ぐな道を造ろうとするカサンドラを止めた。
人の住まない土地では、虫が邪魔だからと古代の森を焼き尽くそうとするカサンドラを止めた。
そもそもカサンドラが先導して行く道なので、通常の人では行けない場所ばかりを通る。
そのうちカサンドラは小ヒューゴに剣を持たせて、自分の身は自分で守れるようにさせた。そして、あちこちで実戦に放り込む。
カサンドラの魔法で小ヒューゴの体の一部は強化されているものの、他の補助なしで魔物の巣窟に放置されることも度々あった。そこを命からがら小ヒューゴは生き延びた。
「普通子供にこんなことはさせない。」
ある時小ヒューゴがそう言うと、カサンドラは目を丸くさせて珍しく驚いていた。
「そうなのか?」
「そうですよ。お師匠様は子供の頃何をしてたと言うんですか?」
小ヒューゴはこの頃からカサンドラをお師匠様と呼ぶようになっていた。魔法の力は素晴らしかったし、何かを教えてくれる人のことを奉公先ではお師匠様と呼んでいたから。
小ヒューゴの問いかけに対して、カサンドラは
「八歳の頃か。国を滅ぼしたな。」
と返事をするものだから、小ヒューゴは絶句した。
「その後はずっと一人旅だ。」
「僕の村では十六で独り立ちをしていました。」
「そうか。」遅いなと言って、カサンドラはその会話には興味を無くしたようで、途中だった薬草づくりに没頭してしまった。
美しいけれど何を考えているかわからない大ヒューゴと、八歳で国を滅ぼす、常識の通じない大魔法使いカサンドラ。その二人について行ってしまった平凡な少年の小ヒューゴは、強くならざるを得なかった。
読んでいただきありがとうございます。
カサンドラにとって『ヒューゴ』=大切なモノ