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救国の魔女

よろしくお願いします。


※このお話に出てくるカサンドラは、性格も口も態度も悪いです。もし不愉快に思われると予想される方は、一番下までスクロールして、最後の段落を読んでいただければ大体の内容がわかります。

大国ウィザーディアにおける五英雄の一人、『救国の魔女』と謳われるカサンドラ。彼女は異国の者だった。


そして彼女は遠い祖国において、滅国の魔女と呼ばれていた。







そもそも大国ウィザーディア自体は、世界的に見ると辺境の国であった。


ウィザーディアから遥か遠い北の大陸には、強力な魔法国家がひしめき合っていた。その中でも歴史あるアルゴという魔法大国があった。


アルゴの付近には、アルゴの同盟国があり、さらに周りを取り囲む衛星国がある。そして更に遠く、アルゴの影響が及ばない辺境の大陸があった。その辺境の大陸においてウィザーディアは大国だったのだ。




そしてカサンドラはアルゴの王女だった。






アルゴは中枢国と呼ばれていた。

中枢国アルゴでは長らく王政を敷いていた。

歴史ある大国のご多分に洩れず王座を巡って骨肉の争いが行われていた。


カサンドラには二人の兄がいた。殺伐とした王族の中でありながら、兄弟の仲はよかった。


黒髪で背の高い、いかにも高貴な血を引くことがわかる顔立ちの長兄、アーサー。

黒髪天然パーマの、やんちゃな顔をした次兄エドワード。

その二人のどちらが王位を継ぐかは決まっていなかった

カサンドラが生まれる前から、立派な王になろうと二人は切磋琢磨していた。


その流れを変えたのが、親戚筋。

王にとっての伯父と叔父がお互い敵対しながら王位簒奪を謀っていた。そして、それぞれ長兄と次兄を自陣に引き込んでいった。


仲は良いままだったが、徐々に行動を別にする二人。


そんな時に生まれたのがカサンドラだった。

待望の女児だったが、その顔を見たとき、誰もが一度は口をつぐんでから、『…可愛らしい王女ですね。』といった。


嘘のつけぬ者は、『力強そうな赤ん坊だ。』といった。


カサンドラは生まれてすぐだというのに、あまり可愛くは育たないだろうと判断されたのだ。家族には可愛がられていたが。


その判断の通り、歩けるようになる頃になっても、あまり整った顔ではなかった。


力強く太い眉。高すぎる鼻。薄いのに赤い唇。四角い輪郭。そして見るものを吸い込むような、大きな瞳。それらを覆うように縁取る、多すぎる、うねる黒髪。


カサンドラの印象を一言でいうと、『生命力の塊』であった。






カサンドラが六歳になるまでは、王家はそれでも概ね平和であった。

魔法大国恒例の魔力検査をするまでは。


六歳になると、この大陸一帯では魔力検査が行われる。

その検査によって、カサンドラはこの国随一の魔力量を誇るとの結果が出た。その魔力量は、王家、貴族全員束になっても敵わないほど。



骨肉の争いをする王家の中で、幼い子供に強大な力があるとわかった時に起こること。

それは壮烈な、カサンドラの取り合いであった。


双方カサンドラに対して酷いことはしない。

それぞれの陣営がカサンドラを厚遇し、連れ回し、自陣に引き込もうとしているだけ。


カサンドラは六歳を過ぎると常に連れ回され、幸か不幸か国中を知ることとなった。



カサンドラは幼少期、めったに喋らない子供だった。ただ、じっと周囲を見つめる。話もしっかりと聞く。話こそしないが、賢い子だと思われていたし、事実賢かった。


それぞれの陣営に連れ回され、各領地を巡り、周辺国にも連れて行かれて、誰よりも国の様子を見て育った。民の悲惨な現状も。王位争いのために放置され、荒んでいく国中を、じっと見つめていた。






カサンドラが八歳の時。

アルゴ含む周辺国では八歳でお披露目となる。


国の王族と全貴族、同盟国と衛星国の王族や首相たちが集まり、盛大な祝宴を開いた。




宴の最中。祝の礼を言うために特設の壇上へ上がるカサンドラ。

皆は、その容姿にはあえて触れずに、中枢国の益々の栄華を導くだろう優秀な血筋をたたえた。


そして、カサンドラが口を開く。

王家の者ですら、その声を聞くことはほとんどなかった。


カサンドラの声は、地を這うような低音。にも関わらず、不気味な大音量。しかも、その声には怒りを孕んでいた。


カサンドラは吠える


「この無能共が。」


一瞬にして場が凍りつく。


「能なき者がのさばる。能ある者は何もしない。」


カサンドラは特に説明をしない。しかし、何かに怒っていることだけは確かだった。


「いい加減にしろ。正しい行いをしない力ある者も、力が無くて正しい行いができない者も。」


そしてカサンドラは、国中と、周辺諸国もろとも、主だった者の魔力を根こそぎ抜き取った。


祝っている相手のはずのカサンドラに、意味もわからぬまま魔力を奪われ崩れ落ちる者たち。


「これにて、我が国は終わりだ。」


そして次にカサンドラは、奪い取った魔力を、彼女の言うところの能ある者たちに植え付けた。


突然他人の魔力を吸収して魔力酔を起こす者たち。

その能ある者たちにも、カサンドラは容赦なかった。



他人の魔力を他人に入れるという前代未聞、いや誰にもできない真似をして、そこに居並ぶ面々に告げる。



「能があるのに生かさないこの無能ども。貴様らで新たに国を治めてこい。」


カサンドラは今まで国中を周ってきた。何が足りないのかすべて把握していた。そして魔力を与えた者たちを国中適材適所配置して、荒れた国を一度全部ぶち壊してから再建させた。


家族にすら温情をかけず、僻地であろうがどこであろうが飛ばして治世に尽力させた。



そのおかげで、新生国家の国民に感謝されたかといえば、そうでもなかった。


お披露目会の後、国中を巡って国の再興をしていったが、どこでも横柄な態度で怒りをぶちまけ、無理難題を吹っ掛けていった。その為、豊かになったことに感謝していた国民からの好感度を順調に下げていった。






カサンドラはわからなかった。

通常人が得ることのできないほどの魔力を有し、そしてすべてを理解できるほど優秀であるがゆえに、出来ない者たちのことは理解できなかったのだった。彼女が唯一理解できなかった事象かもしれない。


こうすればうまくできる。これはしない方がいい。カサンドラにとって当たり前のことが出来ない大人達に囲まれるもどかしさに耐えきれなくなった。

国を一度破壊してから再建し、カサンドラは八歳にして国を捨てて放浪の旅に出た。


読んでいただきありがとうございます。


※途中カサンドラの外見に言及していますが、特定の容姿を貶める意図はありません。

美しくなくても、人に嫌われていても魅力的な女の子をえがきたかったのです。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  改革にはスピードが必要。  しかし変化を好む人は少ない。  いや変化を嫌う人が大多数……。  人に嫌われないように改革をしようとすると失敗する。  改革を成功させるためには嫌われるのを…
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