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聖女と盗賊は前世で夫婦だから悪い皇帝を懲らしめる

作者: 華咲 美月

 今のところ諸事情で時間があるので、出来るだけ短編小説を書いてみます。

 日本人の夫婦が異世界転生して、聖女と盗賊として出会うお話です。


 星暦894年の夏にガイアス帝国のセルシオ皇帝が、セイントロード神聖王国にやってきた。

 私はセイントロード神聖王国の第一王女で、名前はシエンタ・ミュゼ・セイントロード、16歳である。

 プラチナブロンドの肩まで届く髪で、顔は清楚な儚い感じの美少女である。

 神聖魔法の使い手で、私のことを聖女と呼ぶ人達もいる。


 セルシオ皇帝は20歳の精悍な顔立ちの美男子である。

 この国を訪問する用件は私と婚約するためである。

 ガイアス帝国は軍事強国なので、セイントロード神聖王国は逆らうことが出来ない。


 でも、私はセルシオ皇帝と婚約することが嫌だった。

 セルシオ皇帝にはすでに20人の側室がいる。

 しかし、全員が結婚して数ヶ月で体調不良になり姿を消していた。

 セルシオ皇帝の困った性癖で壊されたというのが、もっぱらの噂である。


 それに、私には他人に言えない秘密があった。

 私には前世の記憶がある。

 前世は日本人で近藤朱美と言う名前だった。

 31歳の既婚者で子供はいなかった。

 トラック運転手の夫と旅行に行った先で、土砂崩れに巻き込まれて夫婦ともに死んだのである。


「ふぅ……」

 私は今日、何度目かのため息を付いた。

 鉛を飲んだように心が重かった。

 セルシオ皇帝との婚約は、激しく嫌な予感しかしない。


 扉がノックされて侍女が入ってきた。

 父上である国王とセルシオ王子が会談している部屋に呼ばれているのだ。

 気は進まないが、婚約する当人である私がいかなければ、話がまとまらないのだ。

「今から行くわ……」


 国王とセルシオ皇帝が話し合っている部屋に入ると、私は瞠目した。

 セルシオ皇帝の護衛騎士が国王に剣を突きつけていた。

「何をなさっているのですか?」

 セルシオ皇帝は冷酷そうな目で私を見た。

「国王が俺とシエンタ姫の婚約に乗り気でないというのでね。立場を分からせてあげているのさ」

 私は国王をかばうように前に出た。

「剣を突きつけて婚約の話など出来ません!」


「忘れるなよ。俺がその気になればセイントロード神聖王国は、一週間で滅亡する。お前たちにガイアス帝国に逆らう力などないのだ」

 私はグッと唇を噛んだ。

 それは事実だった。

 セイントロード神聖王国の軍事力はガイアス帝国の10分の1にも満たない。

 力の差は絶望的だった。


「押さえていろ」

 セルシオ皇帝が命じると、もう一人の護衛騎士が私の手を後ろで拘束した。

「な、何を?」

 私は怯えた表情でセルシオ皇帝を見た。

 セルシオ皇帝は私に近づくと、金色の神秘的な装飾の首輪を取り出した。

「これは契約の女神ラミリーズの力を秘めた、契約の首輪だ。これをはめれば俺と結婚するしかなくなる。逆らえばシエンタ姫の身体を凄まじい激痛が襲うだろう」

 冷酷に微笑みながら、セルシオ皇帝は私に契約の首輪をはめた。


「あぁ……そんな……」

 私は絶望で目の前が真っ暗になった。

 こんな首輪をはめられたら、婚約者とは名ばかりで、奴隷と同じではないか。

「準備ができたら迎えに来るから、それまでは好きにしているといい」

 セルシオ皇帝は冷酷に告げると、護衛騎士を連れて帝国に帰っていった。

「シエンタ……すまない。ワシに力がないばかりに……」

 国王が辛そうな表情で、私にわびてきた。

「仕方ありません、お父様。ガイアス帝国に逆らえないのは本当のことだもの」


 それから季節が巡って秋になり、セイントロード神聖王国には次々と不幸が襲いかかってきた。

 国王が馬車の事故で亡くなり、王妃が盗賊に殺され、私の二人いた兄は毒を盛られて死んだ。

 王位継承者が私しかいなくなったことで、急遽女王に戴冠することになった。

 国が危機のときに王位を空白にしておけないからである。


 こと此処に至ってセルシオ皇帝が「準備ができたら」と言っていた意味がわかった。

 そして恐怖で震え上がった。

(最初から私を女王にして、結婚したらセイントロード神聖王国のすべてを奪うつもりだったんだわ)


 その日の夕方、侍女を自室から下がらせて、窓の外を見ていた。

 山々を照らす茜色の夕焼けが綺麗だった。

 涙が止めどもなく流れ落ちてくる。

「お父様も、お母様も、お兄様も殺されてしまった。もう頼れる人はいないのね……」

 何故か、前世の夫であったトラック運転手の武志を思い出した。

 優しい目をしていて、困ったときはほっぺたを掻く癖のある頼もしい人だった。

「こんなときに前世の夫を思い出すなんて、気弱になっているのかしら……」


 扉がノックされて、ヤリス宰相が入ってきた。

 今年で60歳になる重鎮だが、まだかくしゃくとしていた。

 私が最も信頼している家臣である。

「どうしたの?」

 ヤリス宰相は決意を込めて口を開いた。

「シエンタ女王陛下、城を離れて身を隠してください。このままガイアス帝国に嫁いでいってもどうにもなりません」

「それは……私に国や国民を捨てて逃げろというの? そんな事できるはずがないでしょう」

「逃げるのとは違います。北方地域にはガイアス帝国に抵抗するレジスタンス組織があります。彼らと合流して、セイントロード神聖王国を帝国から取り戻すのです。シエンタ女王にしか出来ないことです」


 私は驚いてしばらく考えた。

「そう……。今はそれが最善かもしれないわね。家族の仇のセルシオ皇帝に嫁いで、慰みものになってあの男の子供を産むなんて絶対に嫌よ!」

「では、動きやすい服に着替えて、城の裏門に来てください。レジスタンス組織に連れて行ってくれる信用のできる盗賊を雇っています」

 私は侍女を呼んで着替えると、城の裏門へと急いだ。


 裏門に着くと夕闇の中で18歳くらいの盗賊風の革鎧を着た男が待っていた。

「私がシエンタ女王です。貴方がレジスタンス組織まで連れて行ってくれるのですね?」

「俺の名前はデミオ。孤児院育ちで盗賊になってからは、レジスタンス組織に世話になっているものだ。ちゃんと安全な場所まで連れて行ってやるから安心しな」

 私はデミオをじっくりと観察した。

 本当に命を預けられるものなのか……。

 デミオはじっくりと見られて、困ったように右手で頬を掻いた。

(なんだか不思議だわ……前世の夫の武志に雰囲気が似ている……)


「出発は急いだほうがいいな。馬に乗ってくれ二人乗りして飛ばしていく」

 私が馬の前に乗って、デミオに後ろから抱きかかえられる格好になった。

 身体が密着しているが、非常時だし不思議な安心感があるので嫌な気分にはならなかった。

 しばらく馬で走っているとデミオが話しかけてきた。

「なぁ、シエンタ女王。日本ていう国を知っているかい?」

 私はドキンとなった。

 デミオにも前世の記憶があるの?

「知っているわ。私は前世の記憶があるの。その国で近藤朱美という女だったわ」

「奇遇だな。俺にも前世の記憶があるんだ。俺はトラック運転手で、近藤武志と言う名前だった」


 私の胸が早鐘のようにドキンドキンと脈打った。

「こんな奇跡ってあるの! 私達、前世で夫婦だったなんて!」

「奇跡なんかじゃないさ。俺は5歳で前世の記憶を取り戻したときに、すぐにシエスタ王女が前世の妻だったと分かったんだ。それから、ガイアス帝国が侵略してくる予感がしたから、レジスタンス組織を作り始めた」

「まぁ……」

 驚きの連続だった。

 家族を殺された私に、こんな頼もしい味方が現れるなんて。


 馬を疾走させて森の中の街道を抜けようとするとき、前方に異変が起こった。

 巨大な魔力が渦巻いて大きな魔法陣が出現する。

「誰かが瞬間移動で転移してくるんだわ!」

 デミオは警戒して馬を止めた。

 魔法陣が光り輝いて中から出現したのは、セルシオ皇帝と宮廷魔道士の服を着た男だった。


「俺から逃げようなどと無駄なことをするものだ。覚悟はできているのだろうな?」

 セルシオ皇帝は不機嫌そうに告げると、剣を抜いた。

「シエンタ女王、下がっていてくれ」

 デミオが馬から降りて、剣を抜いて構えた。

「下郎が、皇帝に剣を向けたこと後悔するぞ」


 デミオは無言で斬りかかった。

 セルシオ皇帝は危なげなく捌く。

 剣を打ち付け合う音が、静かな夜の森に響いた。

 勝敗はすぐについた、セルシオ皇帝が強く打ち込むと、デミオの剣が折れ飛んで、血を吹いて倒れた。

「いやーーー! デミオ!」

 私はデミオに駆け寄って、治療のために神聖魔法を使った。

 柔らかな光がデミオの体を包む。


 セルシオ皇帝は私の胴をつかんて抱え上げた。

「逃げられるはずがないだろう。契約の首輪をしているんだぞ。首輪が反応しなかったのは無駄な努力だからだ」

 宮廷魔道士が呪文を唱えると、魔法陣が広がって私を抱えたままセルシオ皇帝は瞬間移動でガイアス帝国の宮殿に戻った。


 宮殿の中で私は侍女をつけられて風呂に入れられた。

 そして、身体を磨き上げられて、白いシースルーのベビードールみたいな服を着せられた。

 そういうことに経験のない私でも察しがついた。

 セルシオ皇帝は私を手籠にするつもりだ。

 ノーマルなやり方でされるのなら、まだ耐えられるかもしれないが、セルシオ皇帝は特殊な性癖を持っていて、20人の側室が行方不明になった人物である。

 されるがままになっていたら、恐ろしいことになりそうだった。


 部屋の中で怯えながら待っていると、ガウンのようなものを着たセルシオ皇帝が入ってきた。

「ふふふふ……。そう怯えるな。痛い目にあわせたりはしない」

 セルシオ皇帝は私が座っているベッドの上に腰掛けた。

「いや! 近くに来ないで!」

 私はセルシオ皇帝から離れるように、ベッドの中央に移動した。

「私の家族を殺した仇になんか身を任せたりしない!」

 セルシオ皇帝は困ったような顔をした。

「ガイアス帝国には、皇帝に忖度して勝手なことをする貴族がいるのだ。俺が命令してやらせたわけではない。実行者は処分しておいた」

 私はキッと睨みつけた。

「口先ではなんとでも言えるわ」


 セルシオ皇帝は私に近寄ってきて、髪を一房つかんで口づけた。

「では、どうすれば信じてもらえる? 俺はシエンタが欲しい……」

 私は顔を背けて、覚悟を決めた。

 どう考えてもこの場から逃げ出すことは無理そうだった。

「好きにすればいいわ。でも、私の心まで手に入るとは思わないで……」


「では、好きにさせてもらうぞ……」

 セルシオ皇帝は私の右足をつかんで自分の口元に持ってきた。

「美味しそうな足だ……。俺には生まれた時から愛の女神の呪いがかかっていて、女の足の指を愛することしか出来ないんだ。もっとも、俺の唾液には媚薬成分が含まれているからシエンタは快楽を味わうだろうがな」

「えっ……!?」

 私は混乱した。

 足の指を愛する?

 それって変態なの?


 セルシオ皇帝は私の足の指を、親指から順番に舐め始めた。

 それから、2時間ほど足の指を舐め回されて、私は髪を振り乱して身を捩り快感に耐えていた。

 セルシオ皇帝は本当に足の指を舐め回しただけで去っていった。

「明日もまた来るから、身を清めておけ」


 扉が閉まって鍵をかけられると、私は現実に戻ってきて、震えながら両手で身体を抱いた。

「足の指を舐めるだけでも、あんな責めを毎日繰り返されたら、気が触れてしまうわ。今までの側室もそうだったのね」

 セルシオ皇帝の恐るべき秘密を知ってしまって、私は絶望的な気分になった。

 この秘密を知った私を皇帝は絶対に逃さないだろう。

 死ぬまでここに閉じ込められて、足の指を舐め回される日々を送るのだ。


 次の日の夜8時くらいにも、セルシオ皇帝は私の部屋にやってきた。

 このときには私はかなり気持ちが前向きになっていた。

(まずは、懐柔して油断させないと……)

「皇帝陛下、今日は私がミ―テル流整体術を施術して差し上げます。疲れが取れてとても気持ちいですよ」

 私は全力の作り笑顔で、ニッコリと微笑みかけた。


「囚えられて二日目だというのに、随分と積極的になったな」

 セルシオ皇帝は意外そうな顔をしたが、悪い気分ではなさそうだった。

「ミ―テル流整体術か……。やってくれ、毎日の激務で疲れが溜まっているんだ」

 セルシオ皇帝はベッドの上にうつ伏せになった。

「それでは失礼しますね」

 私はかなり、はしたない姿だという自覚はあるが、白いベビードール姿で皇帝の背中にまたがった。


 背骨の横を拳を丸めてグリグリと下から上にほぐしていく。

 肩甲骨の下を親指でグッグッと強く指圧する。

「ほう……」

 セルシオ皇帝がリラックスしたような声を漏らした。

 首筋や頭のツボも指圧していく。

 足の土踏まずやふくらはぎももみほぐして指圧していった。

 それを何度も繰り返していくと、セルシオ皇帝は緊張がほぐれたのか寝落ちしていた。

(狙い通りだわ……)


 すやすやと寝息を立てているセルシオ皇帝の背中の上で、私は瞳をキランと輝かせた。

 皇帝の顎の下に手を差し入れて、両足を左右に広げて踏ん張る。

 大技を決めるつもりだった。

(暗殺してやるわ! 油断して寝落ちしたのが運の尽きよ!)

 私は全力で体重を後ろにかけて、皇帝の頭を引き抜くように後ろにそらした。

 前世のプロレスで言うところのキャメルクラッチである。


 セルシオ皇帝の首と背骨がパキパキと音を立てた。

 次の瞬間、セルシオ皇帝がパチリと目を覚ました。

 私の身体をはねのけてムクリと起き上がる。

 私はベッドの上で尻餅をついていた。

 セルシオ皇帝は怪訝な表情をしていたが、首の後ろに手をやって頭を左右に振った。

「すごくいい気分だ。体の調子がいい。特に最後の背骨を後ろにそらすのが気持ちよかった」


「……」

 私は何も言えずにいた。

 殺すつもりで技をかけたのに効いていないどころか、気持ちよかったと言ったのだ。

 女の力でこの男を殺すのは無理だわ……。


「お礼をせねばならんな」

 セルシオ皇帝は傲慢な表情で笑うと、私の足をつかんで自分の口元に引き寄せた。

 私はそれからたっぷり4時間も足の指を舐められていた。

 深夜になって開放されたときには、息も絶え絶えでベッドの上で上気した身体を捩っていた。

(毎日こんなことをされていたら、私、壊れちゃうわ……)

 私は枕に顔をうずめて呟いた。

「デミオ……」


 次の日の夜、セルシオ皇帝が部屋に来ると、私は全力で作り笑顔を浮かべてお願いをしてみた。

「セルシオ様には20人の側妃がいて、皆さん体を壊していると聞きました。私の神聖魔法で治療がしたいのです」

 セルシオ皇帝は顎に手を当てて、しばらく考えていたが頷いた。

「いいだろう。俺も側妃のことは気になっていた。治療できるのならそうしてくれ」

 意外なことに許可が出た。

「すぐに側妃のところに連れて行くから着替えろ」

 侍女を部屋に呼んで聖女らしい白いドレスに着替えることになった。


 側妃がいる部屋は宮殿の奥まった下の方の階層にあった。

 かなり歩いて側妃のいる部屋にたどり着く。

 部屋に入ると側妃はベッドの上で寝ていた。

 もとは美しい女性なのが分かるのだが、口を半開きにしてよだれをこぼしていた。

 目は狂気に彩られている。


「すまん。俺が足の指を舐め続けているとこうなるんだ……」

 セルシオ皇帝はすまなさそうな顔をした。

 この男でも悪いことをしたと思っているんだ。

「神聖魔法のサニティズムを使います」

 サニティズムは精神に働きかける魔法で、精神状態を正常に戻す作用があった。

 私が神聖魔法を使うと側妃の目から狂気が消えて、穏やかな表情になった。


「セルシオ様……私は一体……」

 側妃が皇帝を見て呟いた。

「聖女がお前を癒やしてくれた。もう大丈夫だ」

 セルシオ皇帝は優しい目で側妃を見ていた。

 この男でも側妃への愛なんてあるのかな。

 だったら私は……。


(あっ! 気が付いた!)

 側妃には契約の首輪がハマっていないわ。

 それじゃぁ、契約じゃなくて愛し合って結婚したの?

「なんで私にだけ契約の首輪を……」

 呟くとセルシオ皇帝に聞こえたようだ。

「お前の聖女の力がどうしても欲しかったからな。ラミリーズ神の力で縛ったんだ」


 私はそれから他の側妃の部屋を周ってサニティズムで治療した。

 全員が回復して精神が正常化した。

「助かったぞ、シエンタ。やはり聖女を手に入れて正解だった」

 セルシオ皇帝は上機嫌で、私と並んで廊下を歩いていた。


「ホーリーライト!」

 私は不意をついて魔法を放った。

 すごい閃光が辺りを照らす。

 セルシオ皇帝は目を押さえてうずくまった。


 視力が回復するまでに一分くらいはかかるだろう。

 その隙きに逃げられるところまで逃げるつもりだった。

 地下への階段を見つけて駆け下りた。

 宮殿には外につながる隠し通路があるはず。

 なんとかして宮殿から抜け出してデミオと合流しないと。


 結論から言うと、隠し通路なんて見つからなかった。

 それどころか、階段を降りるとすぐに行き止まりで、ラミリーズ神の祭壇がある部屋だった。

 私が途方に暮れていると、セルシオ皇帝が出口を塞ぐようにして入ってきた。

「諦めの悪い女だな。俺から逃げられるはずがないだろう。そんなに足の指を舐められるのが嫌か?」

「嫌に決まってるでしょう。気が触れそうになるわ」

「シエンタは聖女だから自分にサニティズムをかければいいだろう」

「それはそうだけど、嫌なものは嫌よ!」


「さて、今夜はまだ時間がある。朝までたっぷりと8時間くらい足の指を舐めてやる」

 セルシオ皇帝は私の腕をつかんで引っ張った。

「いや!」

 私は身を捩ったが男の力にはかなわない。


 その時、ラミリーズ神の女神像の前に魔法陣が広がった。

 誰かが瞬間移動で転移してくるのだ。

 まさか……。

「シエンタ女王、無事か?」

 デミオが転移して現れた。

「貴様どうやって?」

 セルシオ皇帝が忌々しそうに睨みつけた。


 デミオは目の前に水晶球を突き出した。

「これはヤブリース神の水晶さ。ラミリーズ神の双子の女神だから、この祭壇にも転移できるんだ」

 ヤブリース神の水晶をセルシオ皇帝に投げつけた。

「ちょっと、乱暴に扱わないでよ。女神の私が宿っている御神体なのよ」

 水晶が光って神秘的な長衣の女性が現れた。


「まさか、ヤブリース神なのか?」

 セルシオ皇帝が呆然と呟いた。

「そうよ、このデミオって男が私の神殿に来て、御神体の水晶球を手に入れたのよ。しばらくは言う事聞いてあげないとね」

 ヤブリース神は胸を張って言うと、私に神力を注入した。

 契約の首輪がパキンと鳴ってはずれた。

「これで、シエンタ女王は自由の身よ」


 ヤブリース神は呆然としているセルシオ皇帝に近づくと、契約の首輪をはめた。

「因果応報ね。これからはセルシオ皇帝がラミリーズ神の力で縛られるのよ。今まで苦労をかけた側妃たちに報いなさい」

 ヤブリース神が部屋の出口を指差すと、そこには様子をうかがいに来た側妃たちが詰め寄せていた。

「俺が側妃たちに逆らえなくなったということか……」

 側妃たちはセルシオ皇帝を取り囲んだ。

「ヤブリース神様、もうお許しください」

「許すも何も、これからは貴女たちの望むようにすればいいのよ」

 ヤブリース神が許可を出すと、側妃たちはセルシオ皇帝を連れて部屋を出て行った。


 それから7日後、色々と後片付けをして、私とデミオはセイントロード神聖王国に帰還していた。

 私が女王として最初にしたことは、デミオを叙爵して男爵にした。

 そして、女王専属護衛騎士になってもらった。

 だって、デミオが側にいてくれると、安心するんですもの。


 ガイアス帝国に抵抗していたレジスタンス組織のメンバーは、セイントロード神聖王国の兵士になってもらった。

 これでかなり戦力が強化されたはず。

 ガイアス帝国はそれからあまり周辺国に無理な要求をすることはなくなっていった。


 女王の自室で私とデミオはお茶を飲んでいた。

「ごめんなさいね、デミオ。私の都合で専属護衛騎士になんかなってもらって」

 デミオはニッコリと笑った。

「シエンタ女王の側にいられるんだったら何でもいいさ」

「一生私を守ってくださいね」

 それから小さく呟いた。

「……私の旦那様……」


<終わり>


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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