第91話 死神の愛
コーザには巡回車の影が迫っていた。言うまでもなく、それらはフレデージアの手によって、呼び寄せられたものである。
後方からの接近に感づいたルーチカが、叫ぶようにコーザへと合図を送った。もちろん、コーザも対処するつもりではいたが、その間にフレデージアに近寄られては困る。ゆえに、コーザは再び本道の様子を探るべく、少しばかり顔を覗かせた。そこには当然のように、こちらへと向かう機械たちの姿があった。
気がつき、慌てて引っこむと、ルーチカのほうを見やる。
「相棒! スキルストックの数は、回復しているんだろうな!?」
「あたぼうよ! ちゃんと七発ぶんだ。思いきりやれ!」
うなずくやいなや、背後に火炎放射を使う。
燃え盛る炎が辺りを包み、三体の巡回車を潰すことに成功した。
だが、すぐに逆サイドから、新たな二体が出現する。
まるでキリがないと、いらだつ相棒とは対照的に、しかとコーザはミージヒトに狙いを定めていた。無論、ここからでは壁が邪魔をしているので、あたるはずもない。通常では――。
「お披露目だ!」
放たれた蛇の舌は、前方より飛びだして来た巡回車を貫くと、勢いを落とすことなく直進し、やがては軌道を大きく変えた。通路を直角に折れ曲がったのである。
その弾道に、対峙していたフレデージアは、少しだけ目を見開いたが、畢竟するにそれだけだった。決して対応を見誤ることはなく、銃弾が自身の横を通り抜けようとするなり、わずかに手を横に払った。即座に、背部の薬莢が失われ、風が舞う。ミージヒトへと向かっていたコーザの弾丸は、吹き飛ばされるようにして、壁に打ちつけられたのだ。
「……弾道の変化。やはり、こなたらとは別格でしたね」
「ああ。チャールティンの予想はあたりだ。本当に味方でよかったと、ほっとしている。本来であれば、あれほどの者が敵に回っていたのかと思うと、心底肝を冷やす」
一方のコーザは、その場からの移動を試みていた。スキルの発砲と同時に、本道へとスライディング。滑りこみにて、生き残っていた機械の攻撃を回避すると、回頭の時間を利用し、彼らを大きく振りきったのだ。そのまま、蛇の舌に対処するフレデージアの前へと、一気に躍り出る。
いつまでも、「ロ」の字になった場所にはいられない。タイミングを考えれば、巡回車たちの襲撃は、フレデージアのスキルに由来している。ならば少なくとも、敵の来る方向は一つに絞らなければ、とてもではないが応対できない。
ゆえに、手早く後退しながら、コーザは引き金に指をかけた。
臀部に回した腕を、大きく弧を描きつつ、胸の前へと持って来る。
その間に、トリガーを二度引いた。
どちらもが蛇の舌だ。
二発の弾丸は、それぞれが角度と高さとを異にしている。弾道が自動的に変化するという、スキルの特性を利用し、疑似的な挟み撃ちを狙ったのだ。
無論、それは読みどおり、壁へと接触する直前で、急激に軌道を変えた。反射でもするかのようにして、フレデージアに飛来していったのである。
しかし、それは相手にとっても好ましい事態だった。
子守歌によって集められた機械たちに、コーザが馬鹿正直につきあうはずがない。スキルの数は有限なのだ。そんなことをしていても、じり貧になるだけである。なれば、多少でも戦況を有利にしようと、コーザが場所を移動するのは、目に見えている。それを見越したうえでの巡回車だったが、あくまでもそんなものは、フレデージアにしてみればただの囮であった。コーザさえおびき寄せれば、役目は果たしたも同然である。生かしておく意味は少ない。
「……ふふ」
死神の愛を発動するには時間がかかるが、フレデージアは、見てから対応したわけではなかった。コーザが飛びだして来るか否かにかかわらず、初めから発動する予定だったのである。しかして、二発の弾丸は、コーザを追跡中の巡回車もろとも、渦巻く風によって粉々になった。
その手ごたえにフレデージアは、自身の感覚が、完全に復活したのを理解した。
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