第84話 限りなくカタレーイナに酷似した妖精。
「ごめんなさい、ミーヒ。急ぎすぎました」
「かまわないよ。その姿には久しぶりになったんだ、あなたも勝手を忘れているだろう。落ち着いて、確実に倒そう。……だが、念のために二発だけは、スキルを自分にも残しておいてほしいな」
ミージヒトの言葉にフレデージアがうなずくと、円形に展開していた薬莢の二つが、拳銃へと吸いこまれていった。かくして、背中の弾頭は、十一個から数を二つ減らしたのである。
目を閉じ、フレデージアが祈るように手を組みあわせる。即座に薬莢が一つ、背後から消失した。スキルへと変わったのだ。
「巡回車よ、こなたに集え……」
子守歌。
周辺のモンスターを呼び寄せ、特定の方向へと向かわせる技である。修理霊とは異なり、召呼させるという効果は本物の内容だ。当然、狙う対象はコーザである。
「Cランク……。Bを操ることは、あなたでも難しいということかい?」
「昔であればできましたが、今はあまり命令を聞いてくれません。以前にも増して、機械たちが凶暴化しているという話は、おそらく真実なのでしょう」
「なるほど」
都合がいいことに、ちょうどここは「ロ」の字になった通路だ。二方向から巡回車を向かわせれば、コーザを挟み撃ちにできる。
集まった六体の機械。
そのうちの四体を、後方の横道から侵入させる。間隔をあけ、残る二体にも前進の命令をくだす。
あとは、再び風を飛ばせばよいだけだ。
死神の愛。
あたれば、確実に死にいたらしめることができる。
おもむろに、フレデージアがちらりと相棒の横顔を見た。
研ぎ澄まされた凛々しい顔立ちには、圧倒的な優勢とは裏腹に、悲壮な決意がうかがえる。
「……」
地下からの脱出。
それは自分の夢でこそあったが、今となってはミージヒトの願いでもある。絶対にかなえなくては――。
「コーザ……。自分たちは敗れるわけにはいかないのだ」
鼓舞するようにミージヒトが独り言ちる。
もともと、優しすぎる性格の人間だ。これまでの行動で、ミージヒトにはだいぶ負担をかけてしまった。色んな人を切り捨てることなぞ、初めからミージヒトには無茶だったのだ。これ以上、後ろめたい選択を、ミージヒトにさせるわけにはいかない。自分が決着をつけるのだ。
覚悟を抱いたフレデージアが、一歩、足を前へと踏みだした。
※
『もし? コーザを尾行している方、聞こえているのはわかっていますの。わたくしと取り引きをしましょう』
そのように話しかけられたとき、ミージヒトは素直に閉口した。直感で、とんでもない怪物から接触されたことに、気がついたためである。ゆえに、自身の相棒が警戒心を隠すことなく、チャールティンに臨戦態勢を取ったのは、決して責められないものだった。相手は妖精単体なのだから、間違っても戦いにはならない。フレデージアとて、それを理解したうえでの行動だろう。それほどまでに、チャールティンは尋常ではないのだ。
取り引きについては、心当たりがないわけではない。だが、その前に、確認せねばならないことがあるだろう。
「なぜ、自分に妖精の瞳があるとわかる?」
それを前提にして、この接触はなされている。コーザに聞いたのか? いいや、それにしては間隔が短い。コーザがイトロミカールについてから、事情をすべて話せるだけの時間は、まだ経過していないはずだ。第一、イトロミカールのセーフティは特殊である。結束が強く、出口への関心も低いと言う。それならば、コーザがここに立ち寄った理由は、おのずと明らかだろう。協力を仰ぐために違いない。なおさら、自分が瞳を持っているかもしれないことなぞ、巻きこんでから暴露しようとするに、決まっているではないか。だとすると、眼前の妖精は、単独で結論を導きだしたということになる。並大抵のものではない。
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