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8千pv【全104話】フェアリィ・ブレット ~妖精迷宮の銃弾~  作者: 御咲花 すゆ花
最終章 ペルミテース、そしてカタレーイナ 名無しのコーザ
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第83話 強制顕現

 コーザの前には、眼鏡をかけた人物が立っていた。

 言うまでもなく、眼鏡なぞ大金を支払わなければ、手にいれられない代物だ。それはつまり、ミージヒトが、それだけの場数を踏んで来たことを、如実に示している。きっと、それは自分とは比べ物にならない値だろう。見る間に、抱いたはずの覚悟が霧散していくようで、コーザは冷や汗を流しながら、下唇を思いきり噛んでいた。

 まだ、彼我の距離は遠い。小声で相棒と話すぶんには、互いに聞き取れやしないだろう。

 ミージヒトが目で相棒に合図する。それに応じ、フレデージアもまた柔和な表情を見せた。


「いつもどおり、スキルの種類はミーヒにお任せします」

「……いや、コーザは強い。本気で行こう」


 一瞬、驚いたように、目を丸くしたフレデージアだったが、やがてはあきらめたように、寂しげな笑みを口元に浮かべた。


「わかりました。お命、頂戴します」


 先攻を取ったのはミージヒトである。唐突に、銃口を天井へと向けて発砲したのだ。それを威嚇射撃と捉えるのは、いくらなんでもおめでたい。


「……。強制顕現(フレデージア)


 それを理解できたのは、はたして、妖精の瞳を有していたからなのだろうか。コーザの目には、ミージヒトの体から、生気とも呼ぶべきオーラが、速やかに抜けていく光景が映っていた。

 そんな命の漏脱に呼応するようにして、フレデージアが黄色い光に包まれていく。本人が発光しているのではないかと、そう錯覚するほどの強烈なきらめきに、コーザの意識は、呆然と吸い寄せられていった。

 見とれたのは、ほんの一瞬であっただろう。

 だが、すでに完成していた。

 短い翡翠色の髪。

 病弱なほどに薄く白い肌。

 それとは対照的な、燃え盛るような濃い赤色の瞳が、しっかりとコーザを射抜いている。

 毛髪の色こそエメラルドグリーンで、金とはだいぶ異なるが、まさしくその姿はカタレーイナに相違ない。


(……思い出した。やはり、うちは以前にも、どこかで妖精王に会っている!)


 そんな記憶がよみがえったところで、戦闘には一切役立たない。

 裸足で地面に降り立つフレデージアが、突如として、空気をそだたくように腕を重ねた。


(やばい!)


 決して、スキルを知っていたわけではない。

 だが、本能から来る警告は、とてつもない大きさで、コーザに身の危険を知らせていた。

 弾かれるように退避。

 どうにかしてたどり着いた通路の隙間に、それこそ体をねじこむようにして、素早くいれる。

 その直後――。

 一陣の風が、ダンジョンを薙いだ。

 渦巻く無数の風が、刃となりながら通りすぎていったのである。

 様子を覗くために顔を出したコーザは、変貌した通路の姿に愕然とした。そこには、起きてはならない光景が広がっていたのだ。


「野郎! ダンジョンの壁に亀裂をいれやがった!」


 とっさに頭を抱えたコーザを、だれも責めることはできまい。


(……マジかよ。どれだけぶっ壊れてりゃ、こんなことになるってんだ!)


 驚愕に顔を歪めていたのは、なにもコーザだけではなかった。相棒であるルーチカも、呆然と、壁の切れ込みを見つめていたのである。


「フレデージア……だと?」

「知っているのか?」


 横目で尋ねれば、ルーチカが神妙な表情でうなずく。


「最も次のカタレーイナに近いと、うわさされていた最上位の妖精だ。当時は何のことだかわからなかったが、あの方((妖精王))だったか!」


 ただでさえ、ミージヒトたちは普段から、互いをあだ名で呼んでいるのだ。本名を聞く機会なぞ、ルーチカにあるはずもない。


「ミージヒトのレベルは……十そこそこだぞ?」


 泣きたくなるような気持ちで、コーザは相棒に応じていた。

 ダンジョンの一部たるセーフティさえも、いとも簡単にいじくってしまうような、いかれた存在のコピーが敵であるなぞとは、にわかには信じたくない話だ。


「そういう問題じゃねえさ。品格とか、そういう次元の強さだよ」

「倒せるのか?」

「俺様にか? 無理だな。……だが、あの姿になるための秘儀は、相棒の寿命を、半分ももらわないといけなかったはずだぜ。おまけに、発動中は、スキルを使うかどうかのタイミングも、妖精に一任されている。だから、パートナーはほぼ無防備だ」

「……狙うとしたら、ミージヒトのほうってわけね」


 目を合わせ、コーザはうなずく。

 これが最後の戦いになるだろうと、コーザは愛用の拳銃を強く握りしめた。

 ゆっくりと様子を探る。

 フレデージアの背中あたりに、後光のようにして広がる、九個の薬莢が見えた。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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