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8千pv【全104話】フェアリィ・ブレット ~妖精迷宮の銃弾~  作者: 御咲花 すゆ花
最終章 ペルミテース、そしてカタレーイナ 名無しのコーザ
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第82話 最もペルミテースに近い人間。

 順々に考えていこう。

 まず、この建造物の中に、好んで滞在している者というのはいない。それは妖精も同じである。

 妖精は実に不可思議な存在であり、驚くべきことだが、二重(にじゅう)マップの影響を受けない。これは、いつかのチャールティンや、ルーチカを振り返るまでもなく、出口に向かえばおのずと明らかだ。ずれが発生するのは、いつだって人間のほうであり、妖精は一度として体がぶれることはない。

 無論、その視界が二重(にじゅう)マップの仕掛けを、反映したものであることに疑いはないが、妖精であれば、出口の壁からさらに先へと進めるのである。

 だが、そこから地表へと脱出するのは、依然として無理なのである。ミージヒトたちが実際に試したとき、フレデージアの体は、突如として、不可視の壁に阻まれることになった。交易人の背中が、現に見えているにもかかわらず、進むことはできなかったのである。それが、妖精のみを閉じこめるための、醜悪な仕掛けであることは、疑いようがなかった。かろうじて、人間には可能性という意味で、正規の出口が残されているが、一方の妖精には、絶対に外へと逃れられない現実だけが、無情にも厳然と待っているのである。

 したがって、妖精王が、「人間」の性質を帯びている理由は、おのずと明らかであろう。この悪意の塊とも呼ぶべきギミックを、どうにかして突破するためには、本質的なアイデンティティーである、妖精という属性を捨てるしか方法はない。

 その一方で、カタレーイナほどの存在であれば、ダンジョンの内装さえもいじくることは、あるいは可能であろう。そうでありながら、今日まで妖精は囚われの身なのだ。それは端的に、妖精王の力をもってしても、出口を封鎖している忌々しき険害は、突破できなかったことを意味する。これを呪いと呼ばずして、いったいなんと形容しようか。

 もしも、初めから妖精王が、人間になる術を知っていたのであれば、話は簡単だっただろうが、カタレーイナが今もここに存在している以上、真相は異なるに違いない。おそらくは、そこに、ペルミテースの入りこむ余地があったのだ。

 両者の間で交わされただろう取り引きは、カタレーイナを人間にする一方で、ダンジョンを今のような世界へと変貌させた。ワープゲートと、無数の二重(にじゅう)マップとが出現したのだ。何が悲しくて、ペルミテースは狂気の振る舞いをしたのか、これについては大いに理解に苦しむが、度しがたい予想を立ててみるに、地表の住人たちが、ダンジョンから搾取できるようにするため、このような労働施設を、作りあげたのやもしれない。

 いずれにせよ、本来のカタレーイナであれば、再びダンジョンを改造することで、脱出できたはずなのである。しかし、そうはならなかった。これが、単純に力を使い果たしただけなのか、それとも人間になったため、根源的な何かを失ったのか……。もちろん、答えは後者だろう。ダンジョンが密閉の世界になってから、すでに二十年の時が経過しているのだ。いまだに力が回復していないなぞとは、少し考えにくい。


「……」


 釈然としないのは、張本人であるペルミテースが逃げることなく、今なお、ダンジョンに囚われていると思わしき点だが、これについては、カタレーイナの行動に、その存在を確信しているきらいがあるので、不合理だが事実と思うよりほかにない。もちろん、老衰による死亡にも、いたってはいないのだろう。


「確実を期すため、こなたたちは協力者を集めましょう」

「いや、やめといたほうがいいんじゃないかな? 迷宮の設計者たるペルミテースを、無理にでも取り押さえることになる以上、その報酬は、地下からの脱出という具合なのだろうが、コーザの行動が少し妙だ。どうにも引っかかる」

「そんなに変でしょうか? コーザがカタレーイナに協力しているのは、ただの気まぐれでしょう。こなたたちとは違い、コーザには、カタレーイナが真に求めているものが何か、わからないだけなのでは? 出口を知っているのがカタレーイナではなく、ペルミテースのほうであることを、知らないのだと思います」

「いいや。現実的な考え方をするコーザが、何の見返りも与えられず、ペルミテースの捜索をしはじめるとは、自分には思えない。危険な未踏破領域に向かうのであれば、なおさらだ。まず間違いなく、コーザはカタレーイナから、出口の話を聞いていると見ていいよ。そのコーザが人を集めないのだから、地下からの脱出には人数の制限がある(・・・・・・・・)。それも、妖精王が、ペルミテースの確保という依頼を、大々的に打ち出していないのだから、実際かなり厳しい数になると思う。確実を期すと言うならば、自分たちは、コーザとさえ敵対しなければなるまい」


 それはあらゆるものを犠牲にする、茨の道にほかならないだろう。近しい相棒に、それだけの危険を負わせてもよいのかと、フレデージアが再考を促すように口を開く。もう十分に、地表の夢は見たのだ。これからは、二人で堅実な日常を追っても、決して罰はあたらないはずだ。


「……。こなたは別に、今のままでもかまいませんよ。ここから出られずとも、こうしてミーヒがいるのでしたら……」


 慈しむような笑みを見せる相棒に対し、ミージヒトは悲痛な面持ちで応じた。


「自分がいなくなったとき、あなたに次のいい出会いがあるかが不安だ。ある程度まで、妖精には、パートナーの選択肢が与えられていることは、自分も知っているが……瞳を持ち、そのうえさらに、あなたの夢にまでも協力的な人間は、この世界に、それほど多くは存在していないだろう。自分の代でできるのならば、ジーア……あなたを地下から解放してあげたい」


 相棒同士をあだ名で呼ぶことは、たとえイトロミカールのセーフティであっても、考えられないことだ。両者の絆がどれほど強いのか、それがよくわかる事例である。


「ミーヒ……」


 名を呼びながら、フレデージアは、相棒の手に自身の額をくっつける。それは感謝を表しているのか、それとも糾弾のつもりか。いったいどちらであるのかは、ミージヒトにもわからなかった。

 ほかの妖精にはない、フレデージアだけが有する二対の黒い翼が、すすり泣くような音を立て、ミージヒトの心を強く揺さぶった。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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