第81話 ミージヒト
時間は、コーザがニシーシと出会ってから、まだ間もない頃である。
決意を秘めたまま、ミージヒトはコーザの尾行に関する話を、ムッチョーダへと持ちかけた。その内容を必然的に耳にした相棒は、コーラリネットのセーフティにて、責めるようにミージヒトを詰問していた。
「ミーヒ、ミーヒ? 聞こえているのは、わかっています。こなたを無視しないでください。ミーヒ……どうして、ムッチョーダに嘘をついたのですか」
自分のパートナーであるミージヒトは、勢力の拡大なぞという俗事に、決して関心を持っていなかったはずだ。それならば、先ほどのムッチョーダに対する提案には、何か別の意図があるのだと、そう考えるのが自然である。
すんと動かずに控える相棒を一瞥しながら、ミージヒトは静かに応えていた。
「嘘なんかついていないよ。自分たちが今まで話しあって来たことを、実現させる。それだけさ」
そう返されると、フレデージアにも思うところがあったのか、つかの間、考えこむような仕草を見せる。
「たしかに、コーザはペルミテースを探すとのことでしたが……」
「そこが問題なんだ!」
つい大きくなってしまった声に反応し、幾人かの顔見知りがミージヒトを見やる。だが、彼が手を挙げて謝罪をすれば、いつものことかと言いたげに、だれもミージヒトを気にしなくなった。
咳ばらいを一つしてから、落ち着いた声で、ミージヒトがゆっくりと話をしていく。くり返すが、これは、ミージヒトがコーザをつける前の話である。
「いいかい? コーザは妖精の瞳を持っていない。だから、ペルミテースの話を、以前より妖精から聞いていた、という線はなくなる。もしも、この囚われの建造物を作りだした、悪評高き人物に関するうわさを、古くからコーザが耳にしていたのだとすれば、今まで黙っている道理はないからね。あなたと同じで、コーザは外に出ていきたくて、仕方がないのだから……。それなのに、現にコーザは、ペルミテースを探すべく、こうしてコーラリネットを脱しようとしている。それも、出口の捜索に必要な貨幣を、すべて使ってまで――だ。そんなことをさせてしまうほど、コーザにとって衝撃的な出来事と言えば、これはもう、妖精王に会ったとしか考えられない」
「まさか、カタレーイナ!? こなたたちでは、全く出会えなかったと言うのに!」
「その件については、自分たちの不運を、嘆くしかないのかもしれないね。……ただ、瞳を持たないはずのコーザが、何事もなく妖精王と接触できた、という点から考えてみるに、カタレーイナは『人間』なのだろう。あるいは、少なくとも御身を含めた妖精自身を、人に変えうるという究極の方法に関しては、知っているものと推測できる。そうでなければ、コーザとコンタクトを取ることは、できていなかっただろうから。これこそまさに、自分たちの求めていた宝にほかならない。……このカタレーイナと、そしてペルミテース。自分らの探していた人物たちと、一遍に会えるかもしれない機会だ。みすみす、見逃すことはできないよ」
もちろん、そこに気がかりな点が全くないわけではない。いくらカタレーイナが、人の性質を帯びているからと言っても、その実体は紛うことなく妖精である。これは人の前に忽然と姿を現し、そして唐突に消えてしまうという、目撃談からも明らかだ。そんなものは人の域を軽く超えている。妖精のスキルを使わずして、実現することはまず不可能であろう。
では、そのことを念入りに頭に叩きこんだうえで、コーザの話を振り返ってみると、そこには奇妙な点が浮かんで来るのだ。超常の権化であるカタレーイナは、いったいどんな理由で、ペルミテースを探しているというのか。ましてや、自力で見つけられない理由とは、どのようなものなのだろう?
それだけではない。
そもそも論を言ってしまえば、ペルミテースのうわさ自体、極めて不自然なものである。いいや、それは不自然という言葉で、簡単に片づけられるほど、平凡な事象なぞではなく、絶対にありえないとさえ言ってよい。
壁を含め、ダンジョンの内装をどうこうすることは、人間には不可能である。たとえ、妖精のスキルを使ったとしても、その事実だけは決して覆らない。
そうだと言うのに、ペルミテースはどのような裏技を使って、今のような姿に仕立てあげたのか? ただ単に、うわさに尾ひれがついただけなのだと、一蹴してしまうのはたやすいことだ。しかしながら、自分たちはこれまでにも、多数の妖精から話を聞いているため、それが真実であるかもしれないと、そう考えることもまた可能だった。
鍵はカタレーイナにある。
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次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ
 




