第74話 決意を秘めたチャールティンの孤独な選択。
ニシーシの真意はわからないが、セーフティの長ともなれば、その力関係はチャールティンをも、超えるのかもしれない。
狙ってやったこととは言え、想像以上にこじれてしまったことに対し、コーザは軽い罪悪感を覚えていた。
「いいのか、ほっといて?」
「言って聞くようでしたら……そもそもコーラリネットには訪れていませんの。どうせ行くことになりますわ。莢の炎をまた、お願いできますの? ニシーシに渡してほしいですの」
「ああ、それは別にかまわねえが……」
セーフティの外がどれだけ危険であるかは、以前からチャールティンが口を酸っぱくして、ニシーシに説き伏せていたはずだ。それなのに出ていった結果が今なのである。
寂しげに笑ったチャールティンが一人、悲しい決意を胸に抱いた。
「ただ、そういうことでしたら、わたくしにも考えがありますの。失礼しますわ」
言うやいなや、チャールティンがセーフティの外へと、瞬く間に飛びだしていく。ニシーシとチャールティン、どちらを追うべきなのかと、コーザがやおら逡巡していれば、相棒のルーチカがにわかに答えを導いた。
「妖精はモンスターに襲われねえ。大丈夫だろ」
うなずき、コーザも急いでニシーシのもとを目指す。
やがて、チャールティンは通路の奥に、目当てのものを見つけだしていた。
「もし? コーザを尾行している方、聞こえているのはわかっていますの。わたくしと取り引きをしましょう」
※
ほどなくして、チャールティンは一同のもとへと戻って来た。そこには、当然ながらマーマタロの姿も見える。
さて、以前にルーチカが述べた言葉は正しい。とりもなおさず、妖精は定期的に、スキルを使わなければならないのである。なにも、これはチャールティンに限った話ではない。それゆえに、いるのだ。セーフティの長を務めるマーマタロにも、公にはされていないパートナーが。
もはや、それがニシーシであることに、疑いの余地はない。
「どういうことだ……ニシーシ。説明しないか!」
状況を察し、集まりはじめた野次馬に対しては、長であるマーマタロが対応していた。
「やめよ。我がそう頼んだことだ」
そもそも、特定の条件を満たさなければ、妖精にとってスキルの使用が、生命の維持に必要不可欠であることなぞ、知る由もない。とうの妖精本人であってもだ。
当然だろう。
ふつうに生活をしていれば、妖精は相棒と暮らす中で、おのずと断続的に技を使う。ルーチカのように、うわさを運よく耳したうえで本気にするか、あるいはチャールティンと同様に、身をもって体験する以外には、それを知る術はない。チャールティンは死にかけていたところを、ニシーシに救われた形になったのである。
殊に、生産系の妖精を選別することで、セーフティとしての形を維持して来た、イトロミカールのような場所にあっては、攻撃のスキルを有するマーマタロに、相棒がいるなぞという恐ろしき真実は、絶対に秘密にしておかねばならないほど、極めて危ういものだった。厄災の種だからである。
ひとたび真相が住人に知れ渡れば、マーマタロを巡っての争いしかり、数多の対立を生みだしかねない。それゆえに、マーマタロは生命の維持に関する話を、決して公にはしなかった。明るみに出れば、おのずと、相棒の存在は公然のものとなるからである。ニシーシが長期間にわたって、不在であったにもかかわらず、マーマタロが平然と自我を保てていたのは、ひとえにその異常性に由来するのもであり、他の妖精が真似できるような、安い代物ではない。
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