第73話 二人との再会
首を横に振って、コーザは考えなおす。
(ワープゲートの直後は、ミージヒトも十全に警戒しているはずだ)
それに向こうは確実を期したい以上、ペルミテースの発見までは、自分の安全も保障されている。これが意味するものは、単純に、戦闘が行われないということだけではない。表面上の協力関係を、築きあげられることをも含んでいる。例を挙げるならば、初回に遭遇した修理霊が、わかりやすいだろう。ミージヒトは、コーザに死んでほしくなかったからこそ、あの場で窮地を救ってみせたのだ。嫌に緊張が長くつづくからと言って、早まってはいけない。
(ニシーシとの再会を済ませるほうが先か)
見返りはほとんど出せないが、公算がないわけではない。誠心誠意に頼めば、きっと仲間になってくれるだろう。
「お断りしますの」
そんなチャールティンの声を聞くまでには、そう時間はかからなかった。
なぜ――と、そう問い返す時間も与えられはしない。矢継ぎ早に、チャールティンはコーザの反論を、ことごとく打ち消していく。
「ニシーシを無事に送り届けてくれたこと、それ自体はコーザにも感謝していますの。ですが、追跡者との戦闘が控えているような、いかにも危険な場所に、ニシーシを連れだしてほしくはないですの。これまでだって、マーマタロからの手がかりなどで、コーザに対する謝礼は、十分に済ませたと考えられますわ。残念ですが、ニシーシを巻きこむようなことを、見過ごすわけにはいきませんの」
とりつく島もない。
自分と一緒にダンジョンを見てまわる。それだけならばともかくとして、相棒の安全を絶対とするチャールティンが、いつミージヒトとの、戦いがはじまるかもわからないような旅に、ニシーシの同行を許しはしないだろう。冷静に考えれば、当たり前の結果であった。
(卑怯な……やり方か)
「ニシーシ、お願いできないか?」
頼む相手を変える。チャールティンの説得が無理ならば、直接ニシーシに乞い願うのだ。
おそらく、最終的なパワーバランスは、チャールティンのほうが上だろう。いくら溺愛しているからと言っても、本人のためにならないようなことは、断固としてしないはずだ。
だが、ニシーシとの関係悪化は、チャールティンとしても避けたいに違いない。
ゆえに、そこを突く。
端的に言えば、ニシーシが駄々をこねることによって、チャールティンからの譲歩を、引き出せる見込みがある。
当然、チャールティンは、コーザの策略を見破っているのだろう。一瞬にして、その眼差しは、軽蔑するときのそれに変わった。およそ、人に向けるようなものではない。
「行こうよ、チャールティン」
「なっ! ニシーシ、あなたまで何を言いだすんですの!」
「……ずっと、考えていたことなんだ。あの日、僕が君を相棒に選んだことは、チャールティンにとって、すごく特別な経験だったのかもしれない。そのことでチャールティンが、僕に対してとても大きな恩を感じているのは、よく知っている。でも……僕だって同じだよ。君のことは、えならず大切だ。そんなチャールティンが、妖精王を格別の存在だと思っている。だったら、僕は妖精王を間近で見てみたいし、できるなら君にも会わせてあげたい。……それだけだよ」
妖精と相棒との関係には、そのはじまりにおいて、イトロミカールと別のセーフティとでは、絶望的な開きがある。勝手に、いつの間にか関係が築かれている、大多数の人間たちとは異なり、このセーフティにあっては特殊だ。瞳を持っているため、人間のほうから、妖精のパートナーに立候補するのである。
翻って、チャールティンの場合はどうか?
燃費が悪いのは自明である。ために、定期的な休息のスキルを要する妖精は、ここイトロミカールであっても、求められはしなかった。
その例外がニシーシである。経緯を思えば、チャールティンがニシーシを慕うのは、無理からぬことであった。
「マーマタロに頼んで来るよ」
宣言するように言って、静かにニシーシは歩きだす。
その後ろ姿を、チャールティンが悲しげに見つめていた。
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