表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8千pv【全104話】フェアリィ・ブレット ~妖精迷宮の銃弾~  作者: 御咲花 すゆ花
第3章 ギルドまたはムッチョーダ 抗争の果て
70/105

第70話 つまり、ミージヒトは……。

 畢竟するに、グララムースは、氷結が大昔から仕込んだスパイであった。一連の出来事はすべて、グララムースが図ったものだったのだ。コーザに禁止区画(デッドエンド)を見せたことや、積極的に殺めようとしたのも全部、意識的に行われた物事だったのである。特に後者については、ギルドの長であるムッチョーダ自身に、コーザの身柄を保障させるという、手段にほかならない。ミージヒトがコーザの刺客になったことなぞ、末端の構成員が、知っていてよい内容ではないからだ。自ら地雷を踏みにいくことで、グララムースは、巧みに言質を引き出したのである。暴発したメンバーが、コーザにやつあたりをしないよう、身をもって事前に釘を刺したのだ。


「お前がミージヒトを見つけだし、ここで雌雄を決するつもりならば、加勢してやろうかとも思ったが……やめだ。尾行にさえわかっていないような間抜けを、手助けする気は起きないねぇ。自分でどうにかしな」

「入れ墨が……途中でいなくなったのも、計算のうちだと言うのか……」


 尋ねたのは、本当に理由が知りたかったからではない。コーザとて、それは聞かずとも承知している。だが、口にする言葉がほかに見つからなかった。ミージヒトには争う理由があるからこそ、表立ってコーザに接触して来ないのだ。みすみす、氷結の成員がそばにいる状態で、姿を現すような真似はしないだろう。


(いつか、モンスターの集団に襲われたとき、やはりうちは一人で倒していなかったんだ)


 チャールティンが作った壁のため、目視で確認こそできなかったが、今となってはそうに違いない。断言できる。


「当然だろう。じゃなきゃ、ミージヒトだって迂闊には姿を見せないよ。まっ、これについては、向こうのほうが上手(うわて)だったみたいだけどねぇ」

「……氷結、お前はいつから知っていたんだ」

「最初からだよ。あたいが無料(ただ)で、ワープゲートを通すわけがないだろう?」


 コーザがワープゲートを潜るならば、当然にミージヒトもそのあとをついていく。一時的に、ムッチョーダは右腕を失うことになるのだ。この機を逃すような氷結ではない。図らずも、コーザは対価を支払っていたのである。

 当然に、抗争は勃発する。

 ミージヒトの不在という究極的な情報は、向こうにしてみれば弁慶の泣き所だ。絶対に漏らすはずがない。

 だが、その上を華麗に氷結は行く。

 初期より従属しているグララムースが、裏切り者であることなぞ、ムッチョーダには見抜けなかった。それゆえの敗北だ。

 氷結としても、向こうにミージヒトがいる状態で、正面から戦いをはじめれば、苦戦は免れなかったことだろう。だが、そうはならなかった。

 しかし――。


(なぜ、ミージヒトがうちをつけている?)


 状況の説明にはなっても、それは理由を答えるものではない。いまだに原因は闇の中だ。

 そこで思い出す。以前に氷結が話していた台詞を。


『お前の価値観を、根底から覆してしまうようなものと言えば、そんなのは妖精王しかない』。


「まさか……」

「そうさ。あたいが推測できるんだ。同じことはミージヒトにもできる」


 妖精王の報酬。

 その横取りが狙いだと言うのか?


「ムッチョーダは現物と思っていたらしいねぇ。それを使って、ギルドの勢力を増やそうという腹づもりさ。あいにくと、企てが実を結ぶ前に、あたいが壊滅させちゃったけれど。……だが、そのミージヒトが、トップの窮地に現れないということは、ムッチョーダが死んでも巻き返せるほどの、大層な宝物なのかねぇ。それとも、ムッチョーダ自身が、ミージヒトに謀られていたのかなぁ?」


 仮に、ミージヒトが自分と同様の結論に、いたっていたのだとすれば、どうか。そして、もしもダンジョンから出られる人数に、限りがあるということを、何らかの事情で知っているのだとすれば、すべての謎は解決される。

 同じなのだ。

 ミージヒトもまた、コーザの夢と等しい動機で行動している。

 ここからの脱出だ。

 なれば、戦闘は必至だろう。

 互いに仲間を集めることも難しい。コーザとミージヒトという、たった二人の人間さえ出られないのならば、同士討ちになることは目に見えている。

 ミージヒト。

 対峙する相手としては、およそ最悪と言ってよいだろう。

 敵は、妖精の瞳を持ったレベル十を超える怪物。

 正真正銘、歴戦の猛者だ。

 今までに感じたことのない吐き気が、突如としてコーザを襲った。

 あと一歩。

 出口の目前に迫ってなお、この仕打ちか。とてもではないが、ダンジョンという建造物を、恨まずにはいられない。そして、その原因を作ったであろう人物のことも、呪わずにはいられなかった。


(ペルミテース……)


 激情のままに、コーザはくだんの名を胸中でつぶやいていた。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ