第69話 グララムース
かろうじて、ヘーネベッタを倒すことには成功した。
疲労感が体に重たくのしかかるが、泣き言を並べているわけにもいかない。氷結たちに見つかる前に、ミージヒトを探さなければ――。
だが、どれだけテリトリー内を走りまわってみても、その姿は一向に確認できない。
それどころか、うわささえ流れて来ない始末だ。
(ありえない……)
いやしくも、ミージヒトはムッチョーダの中でも、指折りの実力者だ。抗争という重大な場面で、活躍していないことなぞ想像もできない。それなのに気配さえつかめないとは何事か。
肩で息をしながら周囲を見渡せば、思いもよらないものが目に飛びこんで来る。
死体だ。
無論、自分が探しているミージヒトのものではない。それは情報屋の亡骸であった。
「裏切って……いたのか」
全身が凍りついたかのように、その体は恐ろしく冷たい空気を放っている。殺され方からして、氷結とやりあったことは疑いようがなかった。
「バカ野郎……」
友を偲び、歯噛みするのも一瞬だ。形見としてハンドガンをもらい受けると、その場をあとにした。
ほどなくして、コーザは氷結と再会する。そのかたわらには入れ墨の姿も見えた。約束をたがえたことには怒りを覚えるが、今は氷結のほうが問題だ。
ミージヒトの不在という、抗争の成否に関わるような重大な情報を、間違っても氷結が見逃しているはずがない。ならば、知っていて自分は泳がされたと、そう考えるのが道理である。まんまと自分は、氷結に一杯食わされたのだ。
「どういうつもりだ、氷結!」
コーザがいきり立っていることなぞ、氷結はまるで気にしない。優雅に煙草を吹かしながら、流し目のように視線を軽く向けるだけだ。
「お友達なら、ずいぶんと反抗的な様子だったからねぇ。あたいが軽く小突いちゃったよ」
その件についても思うところはあるが、それは情報屋が選んだ結果でもある。相対ずくのことだろう。コーザが憤っているのは、そこではない。
「違う……ミージヒトなんか、どこにもいねえじゃねえか!」
「な~んだ、そんなことか。お前はちょっと後回しかな」
言いおわるよりも早く、くだんの人物がコーザの前に現れていた。
ムッチョーダその人である。
獄炎。
ルーチカのスキルとは、比べ物にならない火力が一帯を覆う。
そうかと思えば、それらは即座に凍った。
氷結が応戦したのである。
熱気すべてが奪われたのではないかと、そう錯覚するほどの一白。
肺が痛い。
呼吸をするのさえやっとの思いだ。
膝に手をあて、中腰のままにムッチョーダのほうを見やれば、そこには信じられない光景が広がっていた。
すでに、ムッチョーダの体はぼろぼろだったのである。
「あらま、生きていたんだ。しぶといねぇ。さっき、葬ったと思っていたんだが……あたいの腕が落ちたのかい? それとも、お前が予想以上に強かったのかな」
だが、その口元に浮かんだ微苦笑は、どちらであってもかまわないと言いたげだ。
どうせすぐに死ぬ。
ゆえに同じことだと、氷結は怪しくほほ笑む。
かちゃり。
拳銃に手をかける。銃口が二つもついた異様なチャカだ。
「不佞が……こんなところで」
「アッハはハハ! お前さぁ、右腕がいない状態で、このあたいをどうにかできると、本気で思っていたのかい?」
「まさか! テメエ、気がついていやがったのか。ミージヒト……今すぐに出て来い! どうした……なぜ、現れない? ……不佞を見捨てると言うのか……バカな。お前は、そもそもムッチョーダの勢力を高めるため、コーザを追――」
「残念、そこまでかな。答え合わせはあたいのお楽しみだ」
発砲。
それに応じ、風と光との妖精がスキルを放つ。
光線は四肢を貫き、突風がそれらをバラバラに吹き飛ばした。紛うことなく、即死である。
「さて、採点の時間だ。グララムース」
もはや、目の前で何が起こっているのか、コーザにはまるで理解できなかった。今、名前を呼ばれた者は、ムッチョーダの成員に相違ないではないか。
コーザが一番の被害者であるはずなのに、この状況で驚くべきことに、自分は完全なる蚊帳の外にいる。
「勘弁してくださいよ、氷さん。おれっちは、ちゃんとコーザに『後ろに気をつけるんだな!』と、忠告しましたぜ。それに捕まったときにだって、逃がすためにずいぶんと無茶させられている」
「ほう。それなら、コーザ……お前のミスだ。あたいの贈り物を受け取ってくれないなんて、つれないじゃないか」
「何の話をしている! わかるように説明しろ」
「まだ、理解できないのか。ミージヒトはお前を、コーラリネットからつけていたんだよ」
がっかりだと言わんばかりに、氷結が冷たく煙を吐いた。
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