第68話 花の塵というヘーネベッタのスキル。
ムッチョーダ側にしてみれば、コーザのレベルは、いまだに五という認識のままである。
ならば、次にスキルを使うことで、ヘーネベッタの意識は確実に五番目――最後の弾に向かうはずだ
そこを狙う。
コーザは銃を左手に持ちかえると、勢いよく物陰から飛びだした。
当然のように相手もトリガーを引いて来る。
再びの空砲。
しかし、その種はすでに割れた。先ほど火の弾を消滅させてみせた、防御系統のスキルに違いない。かまわずに足を前へ進める。
それとは対照的に、ヘーネベッタは己の勝ちを確信していた。
引き当てたからである。
ナリナーヅメを殺害するにいたった、花の塵というスキルをだ。
もちろん、気持ちの変化を顔に出すことは決してない。胸中で、静かにほくそ笑むだけだ。
異変が起こったのは、その直後である。
「相棒、後ろだ!」
ルーチカの言葉に、コーザがにわかに振り返る。ヘーネベッタにしてみれば、それはありえない光景だった。確実に死角から、必殺の一撃を放ったはずなのである。
「バカな……」
それを羽の庭と見分けることなぞ、後ろに目がなければ不可能な芸当だ。
だが、現にコーザはその区別をやってのけている。現実を理解するのに、ヘーネベッタには、いくらかの時間が必要であった。
その隙にコーザは迫る。
背後より飛来する銃弾は、難なく回避することができた。初見であればかわせなかっただろうし、実際、ルーチカが見つけてくれなければ、自分は今頃穿たれていた。それも、位置からして頭部。確実に死んでいたことだろう。
だが、気がつけたのであれば話は変わる。一発しかない銃弾なぞ、見てから避けることは造作もない。よほど、連撃のほうがしんどかった。
パン!
四度目の撃発だ。
もちろん、中身は火の弾。
なんてことはない、平凡な攻撃だ。
だが、手練れのヘーネベッタならば必ず気がつく。もはや、コーザには攻撃の手段である、スキルストックが残されていないことに。
必然的に、その目はコーザの銃口に釘づけとなる。
しかして、その違和感に気がつくのは、またも一呼吸ぶん遅れることとなったのだ。
コーザの利き腕は右だ。
だのに、今は逆の手で銃を持っている。
「――ッ」
何かある。
ややもすると、コーザは右腕のほうがより負傷しているので、そうしたのだとも捉えられそうな場面だが、直感的に、策略の気配を感じ取ったヘーネベッタは、さすがに激戦のムッチョーダで、数々の手柄を残しているだけはあるだろう。
ゆえに、ヘーネベッタはその使命のほうを重視した。
この者もまた、相対するコーザという人物は、ここで仕留めねばならない危険な存在だと、そのように認識を改めたのだ。
そうであるがこその、前進。
ふつうであれば距離を取ればいいものを、ヘーネベッタは足を踏みだす選択をした。コーザを確実に殺すためである。
発砲。
その相棒が保険をかけ、ここで羽の庭を意識的に使ったのは、賢いと呼ぶよりほかにない。
だが、通じない!
「後ろは大丈夫だ! 突き進め!」
理由は不透明だが、コーザには花の塵が通用しないのだ。ゆえに、そこには羽の庭がどうかを見極めるための、判断のゆらぎと言うべき空白の間は、腹立たしくも存在していない。
火炎放射。
連射を警戒しての選択である。
目押しのできないヘーネベッタにしてみれば、コーザの悪運を嘆くばかりだ。
対する敵も最善の手。
二度目のスキルが連射を引き当てる。
幕引きだ。
まもなく、羽の庭に炎が回る。さすれば鎮火し、こちらの弾丸がコーザを射抜くだろう。
だが――。
「何!?」
コーザは、その直前で迂回していた。
炎が消えたとき、銃口の正面には、人の姿がなかったのである。
おそらくは先ほどの火の弾で、羽の庭が持つ間合いは、見切られていたのだろう。
恨めしそうに下唇を噛むが、依然として自分の優位は揺らがない。
すでに、コーザの弾数は尽きた。
どちらにせよ、これで終結だ。
しかし、ヘーネベッタの目は視界に弾丸の軌道を、にわかに描きだしていた。
完全なる不意打ち。
ミージヒトとの決戦を、度外視したコーザにしてみば、当然の行動である。スキルを残しておく必要はない。だが、ヘーネベッタにとっては予想外もいいとこだ。
横にかわしつつ、トリガーを引く。
このとき、ヘーネベッタの相棒が羽の庭を使ったのは、だれにも責められないものだろう。六発目があったのであれば、コーザにはその次もあるだろうと、そう警戒するのは、むしろ聡明でさえある。
しかし、今ばかりは悪手であった。
「うぉおおお」
肉薄するやいなや、コーザの短刀は、ヘーネベッタの首をかっさばいていた。
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